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4.安らげる場所
2.会議
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― 数日後 ―
アメリアはオーレルとともに警備騎士団の敷地内にある会議室へと向かっていた。隊長は今回の賭博場摘発には参加しないようで、アメリアたちの部署からは2人だけが呼ばれている。
会議室の扉を入ると、むさ苦しい男たちがこちらを振り返った。その中に、とても女性の役を出来そうなものは居らず、アメリアが頼まれた理由も納得だ。アメリアは男たちの視線を感じながら、オーレルの後ろに続いて部屋の奥へと進んだ。
「オーレル、こっちこっち。とりあえず顔合わせね。」
オーレルを呼んだのは、数日前、アメリアを掴もうとした軽薄そうな騎士だった。オーレルがノナンだと名前を教えてくれる。どうやら、潜入組のまとめ役のようで、周りに不満そうな顔をした小柄な少年が2人いた。
アメリアが合流すると、その2人の少年から「お前も巻き込まれたのか」と言いたそうな哀れみにも似た視線が送られて、アメリアも苦笑で返す。
「良かった、令嬢たちは、すぐに仲良くなれそうだね。」
ノナンがサラッとそんな事をいうので、令嬢扱いされた少年たちを中心に、一気に部屋の温度が下がる。アメリアも少年2人のなんとも言えない表情に顔を引き攣らせた。
パコン
「いい加減にしろ。チームワークを乱すような事ばかりするな。」
オーレルがノナンの頭を手近にあった書類で叩く。それで少し雰囲気が和らいで、アメリアはホッと息を吐いた。
「ごめん、ごめん。」
ノナンは、まったく気持ちの籠もらない謝罪を口にしてから、オーレルに睨まれて、やっと真面目に話を進め始めた。
「ドレスは姉妹のいる近衛騎士が着なくなった物を数着持ってきてくれるんだけど……」
途中で話すのを止めたノナンの視線の先を見ると、扉が開いて近衛騎士数名と貴族の青年が一人入ってきた。
「指揮官が来たみたいだから、残りは会議の後だね。」
ノナンが何か喋っていたが、アメリアは貴族の青年に気を取られて聞いていなかった。
(ミカエル……)
3年前には細くて子犬のようだった少年が、今はがっしりした大型犬のようになっている。
ふわふわした茶色の髪の毛が懐かしくて、アメリアは少し泣きそうになった。
公爵令息ミカエル・コラット。
アメリアとジェラルドの幼馴染だ。
「どうした、アルロ?」
オーレルに声をかけられて、アメリアは我にかえる。会議室にいる騎士たちは、みんな手近な椅子に座っていた。
アメリアはそれに気づいて、慌ててオーレルの隣に座る。
もう一度、ミカエルの方に視線を向けると、ミカエルもアメリアに気がついて眼を見開いていた。それは子供の頃、ジェラルドと一緒になって、ミカエルのカバンにカエルを入れたときと同じ顔で、アメリアは「やっぱりミカエルだ」と緊張や驚きも忘れて笑ってしまいそうになった。
今回の会議は一回目という事で、指揮官の顔見世が目的だと聞いていた。アメリアは警備騎士団が担当する事件だと思っていたので、指揮官が幼馴染のミカエルだったとは、予想もしていなかった。
ミカエルに事情を話せば、きっと、ジェラルドに会うこともできるだろう。そう思うと、アメリアには会議の内容なんて、まったく頭に入ってこなかった。
ミカエルも、チラチラとアメリアを見ていた気がする。
アメリアがぼんやりしている間に、いつの間にか会議は終わってしまっていた。
すると、ものすごい勢いで、ミカエルがアメリアのところに走ってくる。あまりの迫力に避けきれず、アメリアは腕をガッチリ掴まれてしまった。
会議が終わったらミカエルのところにすぐ行こうとアメリアも思っていたが、ミカエルの行動の早さに、ただただ驚く。
「何でこんな所にいるんだよ! ずっと探してたんだよ。」
ミカエルが今にも泣きそうな顔をするので、アメリアの瞳も潤む。
アメリアが領地を無断で出た事は、どうやらミカエルにも伝わっていたようだ。それなら、きっとジェラルドも知っているのだろう。
「アルロに何するんですか! ミカエル様、手を離して下さい。」
オーレルがアメリアを心配して、ミカエルの手を掴んで、アメリアから離そうとする。アメリアがミカエルと向き合っている間に、かなり注目が集まってしまっていた。
アメリアは公爵令息と『アルロ』の関係をうまく説明できず、どうオーレルに話せばいいのか困った。ミカエルも『アルロ』が男装するときのアメリアの偽名である事は知っている。アメリアが『アルロ』と名乗る事情が分からないからか、ミカエルも黙ってしまった。
「ミカエル様、会議を始めたいのですが……」
近づいてきた近衛騎士が、申し訳なさそうにミカエルに声をかける。責任者だけで、これから会議があるようだ。ミカエルも今回の捜査の指揮を取るので、もちろん参加する。
ミカエルは近衛騎士の一人を呼び止めて何かを伝えると、再びアメリアを振り返る。
「ジェラルドに伝言頼んでおいたから、今から執務室に行ってよ。今すぐにだよ。分かった?」
アメリアが頷くと、ミカエルがやっとアメリアの腕から手を離してくれた。
「オーレル、アルロを殿下の執務室まで連れて行って下さい。」
ミカエルはオーレルに声をかけると、近衛騎士とともに部屋を出ていった。
ジェラルドと会うのは、アメリアがずっと望んでいたことだ。しかし、あまりに突然で気持ちが追いつかない。
今更ながら緊張してきて、青くなるアメリアを、オーレルが心配そうに見ていた。
アメリアはオーレルとともに警備騎士団の敷地内にある会議室へと向かっていた。隊長は今回の賭博場摘発には参加しないようで、アメリアたちの部署からは2人だけが呼ばれている。
会議室の扉を入ると、むさ苦しい男たちがこちらを振り返った。その中に、とても女性の役を出来そうなものは居らず、アメリアが頼まれた理由も納得だ。アメリアは男たちの視線を感じながら、オーレルの後ろに続いて部屋の奥へと進んだ。
「オーレル、こっちこっち。とりあえず顔合わせね。」
オーレルを呼んだのは、数日前、アメリアを掴もうとした軽薄そうな騎士だった。オーレルがノナンだと名前を教えてくれる。どうやら、潜入組のまとめ役のようで、周りに不満そうな顔をした小柄な少年が2人いた。
アメリアが合流すると、その2人の少年から「お前も巻き込まれたのか」と言いたそうな哀れみにも似た視線が送られて、アメリアも苦笑で返す。
「良かった、令嬢たちは、すぐに仲良くなれそうだね。」
ノナンがサラッとそんな事をいうので、令嬢扱いされた少年たちを中心に、一気に部屋の温度が下がる。アメリアも少年2人のなんとも言えない表情に顔を引き攣らせた。
パコン
「いい加減にしろ。チームワークを乱すような事ばかりするな。」
オーレルがノナンの頭を手近にあった書類で叩く。それで少し雰囲気が和らいで、アメリアはホッと息を吐いた。
「ごめん、ごめん。」
ノナンは、まったく気持ちの籠もらない謝罪を口にしてから、オーレルに睨まれて、やっと真面目に話を進め始めた。
「ドレスは姉妹のいる近衛騎士が着なくなった物を数着持ってきてくれるんだけど……」
途中で話すのを止めたノナンの視線の先を見ると、扉が開いて近衛騎士数名と貴族の青年が一人入ってきた。
「指揮官が来たみたいだから、残りは会議の後だね。」
ノナンが何か喋っていたが、アメリアは貴族の青年に気を取られて聞いていなかった。
(ミカエル……)
3年前には細くて子犬のようだった少年が、今はがっしりした大型犬のようになっている。
ふわふわした茶色の髪の毛が懐かしくて、アメリアは少し泣きそうになった。
公爵令息ミカエル・コラット。
アメリアとジェラルドの幼馴染だ。
「どうした、アルロ?」
オーレルに声をかけられて、アメリアは我にかえる。会議室にいる騎士たちは、みんな手近な椅子に座っていた。
アメリアはそれに気づいて、慌ててオーレルの隣に座る。
もう一度、ミカエルの方に視線を向けると、ミカエルもアメリアに気がついて眼を見開いていた。それは子供の頃、ジェラルドと一緒になって、ミカエルのカバンにカエルを入れたときと同じ顔で、アメリアは「やっぱりミカエルだ」と緊張や驚きも忘れて笑ってしまいそうになった。
今回の会議は一回目という事で、指揮官の顔見世が目的だと聞いていた。アメリアは警備騎士団が担当する事件だと思っていたので、指揮官が幼馴染のミカエルだったとは、予想もしていなかった。
ミカエルに事情を話せば、きっと、ジェラルドに会うこともできるだろう。そう思うと、アメリアには会議の内容なんて、まったく頭に入ってこなかった。
ミカエルも、チラチラとアメリアを見ていた気がする。
アメリアがぼんやりしている間に、いつの間にか会議は終わってしまっていた。
すると、ものすごい勢いで、ミカエルがアメリアのところに走ってくる。あまりの迫力に避けきれず、アメリアは腕をガッチリ掴まれてしまった。
会議が終わったらミカエルのところにすぐ行こうとアメリアも思っていたが、ミカエルの行動の早さに、ただただ驚く。
「何でこんな所にいるんだよ! ずっと探してたんだよ。」
ミカエルが今にも泣きそうな顔をするので、アメリアの瞳も潤む。
アメリアが領地を無断で出た事は、どうやらミカエルにも伝わっていたようだ。それなら、きっとジェラルドも知っているのだろう。
「アルロに何するんですか! ミカエル様、手を離して下さい。」
オーレルがアメリアを心配して、ミカエルの手を掴んで、アメリアから離そうとする。アメリアがミカエルと向き合っている間に、かなり注目が集まってしまっていた。
アメリアは公爵令息と『アルロ』の関係をうまく説明できず、どうオーレルに話せばいいのか困った。ミカエルも『アルロ』が男装するときのアメリアの偽名である事は知っている。アメリアが『アルロ』と名乗る事情が分からないからか、ミカエルも黙ってしまった。
「ミカエル様、会議を始めたいのですが……」
近づいてきた近衛騎士が、申し訳なさそうにミカエルに声をかける。責任者だけで、これから会議があるようだ。ミカエルも今回の捜査の指揮を取るので、もちろん参加する。
ミカエルは近衛騎士の一人を呼び止めて何かを伝えると、再びアメリアを振り返る。
「ジェラルドに伝言頼んでおいたから、今から執務室に行ってよ。今すぐにだよ。分かった?」
アメリアが頷くと、ミカエルがやっとアメリアの腕から手を離してくれた。
「オーレル、アルロを殿下の執務室まで連れて行って下さい。」
ミカエルはオーレルに声をかけると、近衛騎士とともに部屋を出ていった。
ジェラルドと会うのは、アメリアがずっと望んでいたことだ。しかし、あまりに突然で気持ちが追いつかない。
今更ながら緊張してきて、青くなるアメリアを、オーレルが心配そうに見ていた。
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