21 / 72
3.騎士団
8.小説
しおりを挟む
翌日の夜、アメリアは騎士団の寮の自室で大量の雑誌や新聞を睨みつけていた。
(そろそろ、私も今後の事を考えないとだめよ。ちゃんと直視しなきゃ。)
アメリアは自分に言い聞かせる。
アメリアの前に置かれているのは、すべてジェラルドの起こした婚約破棄騒動について書かれているものだ。昨日あれからアメリアは、やってきたクロに集めてくれるようにと、お願いしていた。
最初にアメリアがパンケーキのお店で見た新聞には、速報としてジェラルドが婚約破棄をパーティーで宣言したということしか書かれていなかった。詳細については、まったくわからなかったのだ。そして、王都に来てからもアメリアは敢えて確認しようとは思わなかった。
アメリアは詳細を、特にジェラルドに恋人がいるのかどうかを確認しなければならないと思って集めさせたのだ。
(ジェラルドに恋人ができたのなら、婚約破棄に同意しないと……。ジェラルドには幸せになってほしいもの。)
アメリアは涙が滲みそうになる瞳を固く閉じて堪えた。
逃げないで正確な情報を手に入れなくてはいけない。アメリアは意を決して当時の新聞を読み始めた。
「え?」
アメリアは別の雑誌も読む。
「あれ?」
最近の検証記事も読んで見る。
「え~っ?」
アメリアは意味がわからなくて混乱した。
読んで分かったのは、まず、卒業パーティーに恋人らしき人物はいなかったということ。多くの記者が取材したが、恋人の情報を掴めた者はいないようだ。
それを知ってアメリアは少し安心しかけたが、よく読んでみるとジェラルドが辺境伯軍から恋人を守るため、隠しているというのが大半の見解らしい。
辺境伯軍という言葉はどの新聞にも出てきてはいないが、匂わせる形で書かれているので、きちんと読めばアメリアにも分かった。どの記事でも辺境伯軍による恋人の暗殺を警戒している。トビの事を思い出すとありえないとも言い切れないので、アメリアは新聞社の考えに対して怒ることも出来ない。
皇帝陛下は卒業パーティーの出来事について沈黙を守っていて、国としての公式発表は何もなされていないらしい。これについても、ジェラルド単独の行動だからなのか、アメリアに配慮して発表を遅らせているのか、はっきりしなかった。
いろいろと気になる情報はあったが、そんなことより何より、卒業パーティーの日のジェラルドの行動が気になりすぎる。
アメリアの大好きな恋愛小説『皇太子殿下の恋人』の一番の見せ場「卒業パーティー」と行動がまったく同じなのだ。最愛の恋人、アメリアから見ると浮気相手が会場にいないという点を除いて。
「台詞もきっちり同じだわ。ジェラルドだけじゃなくて婚約者がショックを受けたときの行動まで……。ジェラルド、どういう事?」
あれはジェラルドが皇太子の仕事を始めたばかりの12歳の春だった。
仕事に慣れないせいか、ジェラルドはこの頃、いつも青白い顔をしていた。この日も無理してアメリアと会う時間を作ったのだろう。アメリアがパンケーキを食べている間にジェラルドは眠ってしまっていた。
アメリアのことなんか気にせず、ゆっくり休んでほしい。それでも、ジェラルドが眠っている間に帰ると気にするかもしれない。悩んだアメリアは、ジェラルドにブランケットをかけると、家から持ってきたお気に入りの恋愛小説を読んで時間を潰すことにした。
アメリアが集中して本を読んでいると、いつの間にかジェラルドが起きていて、アメリアの目の前に立って小説を覗き込んでいた。
「嬉しそうな顔して何読んでるんだ?」
「『皇太子殿下の恋人』っていう小説。オススメだよ。ジェラルドも読む? 保存用が屋敷にあるからこれあげるよ。皇太子殿下がとっても素敵なのよ。」
アメリアはジェラルドの返事も待たずに、押し付けるように小説を渡した。自分の好きなものに、ジェラルドが興味を持ってくれた。それがただ嬉しかったのだ。
「皇太子殿下が素敵なのか?」
ジェラルドは小説を受け取りながら、顔を赤らめた。しかし、そばにいるアメリアはジェラルドの様子に気づいていない。ジェラルドの質問の意味も全く分かっていなかった。
「あのね、聞いてよ、ジェラルド! 皇太子殿下が真実の愛に気づいて婚約破棄するんだけど、皇帝陛下が恋人との結婚を許してくれないの。それで皇太子の地位を捨てて恋人と一緒に手をつないで逃げるのよ。その時のセリフが……」
「どこが素敵なんだよ。そんな不吉な小説なんて読むか!」
ジェラルドは今度は怒りで真っ赤になって、小説をゴミ箱に投げ捨てた。
「ひどい! 何するのよ!」
「もう帰れ! 俺は忙しいんだ!」
アメリアは訳がわからないまま、ジェラルドに部屋から押し出されてしまった。アメリアの目の前でバタンと大きな音をたてて扉が乱暴に閉まる。ジェラルドが忙しい事をよく知っていたのに怒らせてしまった。アメリアはしょんぼりしながら王宮を後にした。
「今考えると、本当に不吉な小説よね。」
アメリアは小説の内容を思い出してため息をつく。黄金色の瞳に銀色の髪の皇太子殿下。ヒロインはミルクティー色の髪と紫色の瞳をしていた。だから、アメリアは自分がヒロインのつもりで楽しんでいたのだ。自分が6年後に婚約破棄されるとも知らずに……
ジェラルドは何を考えて、あんな婚約破棄宣言をしたのだろう。アメリアは夜通し考えても結論を出す事ができなかった。
(そろそろ、私も今後の事を考えないとだめよ。ちゃんと直視しなきゃ。)
アメリアは自分に言い聞かせる。
アメリアの前に置かれているのは、すべてジェラルドの起こした婚約破棄騒動について書かれているものだ。昨日あれからアメリアは、やってきたクロに集めてくれるようにと、お願いしていた。
最初にアメリアがパンケーキのお店で見た新聞には、速報としてジェラルドが婚約破棄をパーティーで宣言したということしか書かれていなかった。詳細については、まったくわからなかったのだ。そして、王都に来てからもアメリアは敢えて確認しようとは思わなかった。
アメリアは詳細を、特にジェラルドに恋人がいるのかどうかを確認しなければならないと思って集めさせたのだ。
(ジェラルドに恋人ができたのなら、婚約破棄に同意しないと……。ジェラルドには幸せになってほしいもの。)
アメリアは涙が滲みそうになる瞳を固く閉じて堪えた。
逃げないで正確な情報を手に入れなくてはいけない。アメリアは意を決して当時の新聞を読み始めた。
「え?」
アメリアは別の雑誌も読む。
「あれ?」
最近の検証記事も読んで見る。
「え~っ?」
アメリアは意味がわからなくて混乱した。
読んで分かったのは、まず、卒業パーティーに恋人らしき人物はいなかったということ。多くの記者が取材したが、恋人の情報を掴めた者はいないようだ。
それを知ってアメリアは少し安心しかけたが、よく読んでみるとジェラルドが辺境伯軍から恋人を守るため、隠しているというのが大半の見解らしい。
辺境伯軍という言葉はどの新聞にも出てきてはいないが、匂わせる形で書かれているので、きちんと読めばアメリアにも分かった。どの記事でも辺境伯軍による恋人の暗殺を警戒している。トビの事を思い出すとありえないとも言い切れないので、アメリアは新聞社の考えに対して怒ることも出来ない。
皇帝陛下は卒業パーティーの出来事について沈黙を守っていて、国としての公式発表は何もなされていないらしい。これについても、ジェラルド単独の行動だからなのか、アメリアに配慮して発表を遅らせているのか、はっきりしなかった。
いろいろと気になる情報はあったが、そんなことより何より、卒業パーティーの日のジェラルドの行動が気になりすぎる。
アメリアの大好きな恋愛小説『皇太子殿下の恋人』の一番の見せ場「卒業パーティー」と行動がまったく同じなのだ。最愛の恋人、アメリアから見ると浮気相手が会場にいないという点を除いて。
「台詞もきっちり同じだわ。ジェラルドだけじゃなくて婚約者がショックを受けたときの行動まで……。ジェラルド、どういう事?」
あれはジェラルドが皇太子の仕事を始めたばかりの12歳の春だった。
仕事に慣れないせいか、ジェラルドはこの頃、いつも青白い顔をしていた。この日も無理してアメリアと会う時間を作ったのだろう。アメリアがパンケーキを食べている間にジェラルドは眠ってしまっていた。
アメリアのことなんか気にせず、ゆっくり休んでほしい。それでも、ジェラルドが眠っている間に帰ると気にするかもしれない。悩んだアメリアは、ジェラルドにブランケットをかけると、家から持ってきたお気に入りの恋愛小説を読んで時間を潰すことにした。
アメリアが集中して本を読んでいると、いつの間にかジェラルドが起きていて、アメリアの目の前に立って小説を覗き込んでいた。
「嬉しそうな顔して何読んでるんだ?」
「『皇太子殿下の恋人』っていう小説。オススメだよ。ジェラルドも読む? 保存用が屋敷にあるからこれあげるよ。皇太子殿下がとっても素敵なのよ。」
アメリアはジェラルドの返事も待たずに、押し付けるように小説を渡した。自分の好きなものに、ジェラルドが興味を持ってくれた。それがただ嬉しかったのだ。
「皇太子殿下が素敵なのか?」
ジェラルドは小説を受け取りながら、顔を赤らめた。しかし、そばにいるアメリアはジェラルドの様子に気づいていない。ジェラルドの質問の意味も全く分かっていなかった。
「あのね、聞いてよ、ジェラルド! 皇太子殿下が真実の愛に気づいて婚約破棄するんだけど、皇帝陛下が恋人との結婚を許してくれないの。それで皇太子の地位を捨てて恋人と一緒に手をつないで逃げるのよ。その時のセリフが……」
「どこが素敵なんだよ。そんな不吉な小説なんて読むか!」
ジェラルドは今度は怒りで真っ赤になって、小説をゴミ箱に投げ捨てた。
「ひどい! 何するのよ!」
「もう帰れ! 俺は忙しいんだ!」
アメリアは訳がわからないまま、ジェラルドに部屋から押し出されてしまった。アメリアの目の前でバタンと大きな音をたてて扉が乱暴に閉まる。ジェラルドが忙しい事をよく知っていたのに怒らせてしまった。アメリアはしょんぼりしながら王宮を後にした。
「今考えると、本当に不吉な小説よね。」
アメリアは小説の内容を思い出してため息をつく。黄金色の瞳に銀色の髪の皇太子殿下。ヒロインはミルクティー色の髪と紫色の瞳をしていた。だから、アメリアは自分がヒロインのつもりで楽しんでいたのだ。自分が6年後に婚約破棄されるとも知らずに……
ジェラルドは何を考えて、あんな婚約破棄宣言をしたのだろう。アメリアは夜通し考えても結論を出す事ができなかった。
216
お気に入りに追加
1,175
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました
楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。
王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。
アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。
薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。
魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。
ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。
婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる