【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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3.騎士団

7.王宮

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 空が茜色に染まる頃、アメリアは仕事を終えて寮の近くのベンチに座っていた。ここからだと塀に囲まれた王宮がよく見える。この場所を見つけてからは、あたりが真っ暗になって王宮に明かりが灯るまで、ぼんやり眺めるのが日課になっていた。

 ジェラルドの私室や執務室は、騎士団の施設とはいえ王宮の外から見える位置には存在しない。それでも子供の頃にジェラルドとよく登った庭の大きな木は、先端だけだかよく見える。

 ミカエルが木に登ったアメリアとジェラルドを、いつも下から心配そうに見上げていた。アメリアは懐かしい日常を思い出して、クスリと笑った。

(こんなに近くにいるのに……)

 もし、アメリアにトビやクロの技術があったなら、多少危険があったとしても、あの塀を乗り越えてジェラルドのいる王宮に入っていただろう。

 それこそスパイのように……

「アルロか?」

 不意に声をかけられて振り返ると、アメリアのすぐ近くまでオーレルが歩いてきていた。夕日も沈んでしまったので、暗くて声をかけらるまで全く気づいていなかった。

「オーレルさん?」

「やっぱりアルロか。こんなところで何やってるんだ?」

 オーレルはアメリアのそばまで来ると、アメリアに断って隣に座った。

「王宮を見ていたんです。」

「王宮? なんでまた?」

「え?!」

 アメリアは聞かれて狼狽える。オーレルとは仲良くなったつもりだが、スパイじゃないかと疑われていた可能性もあるのだ。それにアメリアはたった今、塀の中に入る事を想像していた。

「違います。僕、スパイとかしてるわけじゃありません。見てただけなんです。」

 アメリアは慌てて訴える。

「スパイ? アルロがスパイか?」

 オーレルは慌てるアメリアを不思議そうに見てから、声を出して笑い出した。アメリアは突然の事に、目を丸くしてオーレルを見る。

「あの? オーレルさん?」

「お前みたいな顔に出やすい奴に、スパイなんて出来るわけないだろ。」

「そうですか?」

 そんなに顔に出やすいのだろうか? アメリアは一応貴族の娘で表情を悟られないようにと言われて育った。なんだか、ちょっと悔しい。

「暗くなってきてるのに、ぼんやりベンチに座っているから気になっただけだ。何か悩みでもあるんじゃないのか? 私で良ければ聞くぞ。」

 オーレルは子供にするように、アメリアの頭を優しく撫でた。アメリアは近くて遠い王宮内で働く兄のヴィクトルの事を思い出す。

「オーレルさん。気にかけて下さってありがとうございます。でも、大丈夫です。田舎育ちの僕には王宮が珍しくて、つい眺めていただけなんです。心配かけてすみません。」

 アメリアは笑顔を作ってオーレルに笑って見せたが、心配するオーレルに平気で嘘をつく自分の行動に、チクリと胸が痛む。オーレルはまだ心配そうにアメリアを見ていた。

「何かあればいつでも遠慮するなよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 オーレルはアメリアの髪をクシャクシャっと乱暴に撫でると寮の中に戻っていった。それを見届けてアメリアは小さく息を吐く。

 騎士団に入って知り合った人たちは、みんなアメリアに親切にしてくれている。アメリアは嘘ばっかりで性別すら偽っているのに……

 アメリアは申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、落ち込んでいたら、また心配をかけるだけだ。

 せめて、自分に出来る精一杯の事をしよう。騎士団の仕事をしっかりして、後は早くアメリアに戻る努力をしよう。アメリアは改めてそう決意を固めた。

「そろそろ、目を逸らさずに向き合わなくちゃ。」

 アメリアは明かりがつき始めた王宮を見つめながら静かに呟いた。
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