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3.騎士団
5.配属
しおりを挟む翌日、朝食を済ませたアメリアは、一緒に合格した2人とともに、会議室のようなところに案内された。他の二人は部屋に通されてすぐに、いかにも騎士らしい屈強な男に呼ばれて部屋を出ていった。しかし、アメリアはポツンと一人でそのまま部屋で待たされていた。
ガラガラ
なんとなく、アメリアが不安になり始めてきた頃、遠慮がちに扉が開いた。
「遅くなってごめんね。人が少ない部署だから中々手が空かなくてね。」
そう言いながら部屋に入って来た男性は、アメリアが配属される部署の隊長らしい。隊長は小太りという言葉がよく似合う体型なので、とても現役の騎士には見えない。アメリアは内心、首を傾げながら自己紹介をした。
「アルロと言います。よろしくお願いします。」
「よろしくね。申し訳ないけど、仕事の説明はお昼を食べながらにするよ。」
「はい。」
朝早くに集合したのに、もう昼過ぎだ。アメリアたちはすぐに騎士で混み合う食堂に移動した。アメリアは隊長にならって昼食を準備すると、空いている席に向かい合って座る。
「ずいぶん、可愛らしいね。歳、いくつ?」
アメリアは『可愛らしい』という言葉に女だと疑われていないか不安になったが、隊長は笑顔でスープを飲んでいる。トビとは違って裏のない本当の笑顔だ。
「16です。」
アメリアはホッとして護衛と考えた年齢を隊長に伝えた。アメリアは年齢を2つサバ読んでいる。平民なら成人は15歳なので、中途試験を受けても不自然ではない。本当の年齢では男であると誤魔化すことは難しいという判断だ。
「息子とあまり変わらないな。」
隊長はしみじみ言いながらパンを食べている。雰囲気はまったく異なるが、隊長はアメリアの父、辺境伯と同世代なのだろう。そう思うと、アメリアの緊張が少しずつ解けてくる。
アメリアが配属されたのは警備騎士団の中の文官と言っても良い部隊だった。実戦には参加しないようなので、隊長の体型もなんとなく納得がいく。
経費の精算や他の部隊からの報告書の処理など書類仕事が集まってくる場所で経理資料部と言うらしい。ただこの名前は部屋の入口にかかっているだけで他の部署の人達からは文書部と呼ばれている。要するに、警備騎士団内の文書に関わる仕事が全て集まってくる場所なのだ。
アメリアは新人が配属されて良い場所なのかと疑問に思ってそれとなく聞いてみた。しかも『アルロ』は身元もはっきりしないような人間だ。
「痛いところをつかれたな。貴族のいない警備騎士団では、文書の処理ができる人材が少ないんだ。さらにそういう人間は優秀なのが多いから、次々と王宮騎士団に引き抜かれてしまう。いつも人手不足ってわけだ。」
隊長はそう言って豪快に笑った。
今は隊長と部下4人で回しているらしい。そのため、忙しすぎて時間が取れず、アメリアと話すのが昼休憩中になってしまったようだ。
(ジェラルドに報告した方が……)
アメリアはまたそんな事を考えてしまって、心の中で苦笑する。
「アルロは若いのに筆記試験の成績が今年の中途採用の中で一番だったんだよ。それも2番目とはすごい差だ。まだ試験日は数日残っているけど、たぶんアルロより高得点の人間は入らないだろうね。」
隊長は笑顔で褒めてくれているが、アメリアは加減を間違えてしまったことを知って顔がこわばりそうになった。
しばらくアメリアたちが食事を楽しんでいると隊長が食堂に入って来た男に声をかけた。
「オーレル、新人に紹介するから来てくれるかい。」
隊長の視線の先にいるのは青い髪の男。試験日にアメリアを疑ってそうだったあの騎士だ。アメリアはそれに気づいてビクビクしてしまう。
「オーレルは副隊長なんだ。王宮騎士団から戻って来た変わり者だよ。見た目は怖いけど……まぁ見たまんまかな。」
隊長は楽しそうだが、近づいてきたオーレルは険しい顔をしている。
「隊長、あまり新人をからかわないで下さい。怯えられたら仕事がしづらい。」
オーレルはアメリアをチラリと見たあと隊長に鋭い視線を送る。その行動を見る限りはアメリアを警戒している様子はない。護衛の言うとおり考えすぎだったのだろうか。
「事実を言っただけだよ。」
オーレルに睨まれても隊長はニコニコしている。
「アルロはしばらくオーレルについて仕事をしてもらうからね。」
「よ、よろしくお願いします。アルロと言います。」
アメリアはオロオロしながら挨拶した。オーレルは無愛想で何を考えているのか掴みにくい。
(とにかく、普通に普通に。)
アメリアはクロが昨日言っていた事を思い出して心の中で呪文のように唱えた。
昼食を終えると隊長に連れられて仕事場に入った。部屋は埃っぽくて机の上には紙やファイルがたくさん積まれている。
「新人を紹介するからちょっと手をとめてくれるかな。」
隊長がゆったり言うと、書類の影から3人の男性がひょっこりと顔を出した。アメリアは急に現れた3人に驚いて半歩下がってしまう。書類があったというのもあるが、人がいる気配がまったくしなかったのだ。
「ずいぶん、小柄だね。」
「過酷な中途試験の合格者がこんな可愛い少年とは意外だな。」
「僕たちに驚いちゃったんですか? 警戒心が強くて、小動物みたいですね。」
好き勝手に喋り出す3人に、アメリアはビクビクしてしまう。年齢はそれぞれだが、3人とも神経質そうな顔をしている。豪快な者の多い辺境伯軍にはいないタイプだ。
「ア、アルロと言います。よろしくお願いします。」
アメリアは必死に平静を装って挨拶した。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。」
隣で豪快に笑う隊長だけが頼りだ。
軽く考えていたが本当に騎士団でやっていけるのだろうか? アメリアは辺境伯軍が懐かしくてしかたなかった。
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