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緑の冒険編 勇者パーティを追放された勇者の話

勇者、神に愛される

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「――しかしなあ」
 ここは、山岳地帯。
 ゴツゴツした岩と谷の一帯の上を、もこもこした小さな白い雲が移動していました。
 雲は魔法の乗り物になっており、そこにはタピオンと、雲の操縦をしている魔法使いの謎の青年が乗っています。
 謎の青年は、独り言をぶつぶつ呟いていました。
「書き始めたときは、まさかタピオカミルクティーの再ブームが来るとは思わなかったんだよなあ。あのブツブツのどこがSNS映えするんだ? 確かに美味しいけど……」
「魔法使いさん、どうかしたんですか?」
「いえ、何でも。……ほら勇者さん、着きましたよ」
 雲は止まり、ある大きな山の洞窟の前に着きました。
「ここがそのガイドブックに乗っている、火の精霊の住居につながると言われる洞窟です」
「ありがとうございます!」
 タピオンは雲から降ります。
 謎の青年はとんがり帽子をかぶりなおし、
「にしても勇者さん、運が良かったですね。俺がたまたまここを通らなかったら、三日間歩き続けなくてはいけなかったところですよ」
「本当、助かりました。その覚悟で結構準備してきたんですけどね」
 タピオンは大きなリュックを背負い、山男のような姿で、青年に頭を下げます。
「けど、帰りは自分で頑張ってくださいねー」
 謎の青年はそう言って手を振り、雲に乗って去っていきました。
「一体彼は誰だったんだろう」
 タピオンは、雲に乗った謎の青年の後ろ姿を、小さくなるまで見送りました。


 洞窟は一本道。壁には松明があり、足元を照らしています。
 タピオンはその薄暗い道を、『四大精霊に会いに行こう!―公式監修!完全ガイドブック―』を広げながら歩いていました。
「火の精霊、どんな人なんだろう。地の精霊はめっちゃ悪口言ってたけど……っと!」
 急にバサバサと何か音がし、タピオンは足を止めました。
 顔を上げると、そこには三匹のコウモリの姿。
 しかし、ただのコウモリではありません。
 子供の身長ほどの大きさで、目は赤く光っていました。
「これは……コウモリの魔物!」
 叫んだと同時、コウモリたちは一斉に襲いかかってきました。
「うわあああ!!」
 タピオンはとっさに、コウモリを払おうと拳を突き出しました。
 それは見事、一匹にクリーンヒット。
 コウモリは吹っ飛び、その一匹が飛ばされたところにいたもう一匹も吹っ飛び、その一匹が飛ばされたところにいたもう一匹も吹っ飛びました。
 辺りは静まり返りました。
「……今日、すごく運がいいなあ」
 タピオンは拍子抜けしながらも、奥へと進みます。


 少し歩くと、長い石の階段が現れました。
 上ると、外に繋がる出口が見えてきました。
 眩しさに一瞬目を閉じ、そして開ければ、そこは古い神殿でした。

 石の地面に、石造りの柱が何本も立っています。
 そして、その中央には、一人の男があぐらをかいていました。
「おっ、そこのお前! 何だ、見ない顔だな?!」
 オレンジ色の髪をし、アラビア風の服を着た元気な男は、そうタピオンを見て言います。
「オレは火の精霊、サンだ! もしかして、オレに魔法をもらいに来た挑戦者か?!」
「はい! 僕は勇者・タピオンといいます」
 タピオンの答えに、火の精霊・サンはニッと笑い、
「よし、タピオン! この山道を乗り越え、あの三匹の強力な魔物たちを倒し、ここまでよく来たな!!」
 タピオンはそう言われて、ものすごくショートカットしたことにちょっとの罪悪感を覚えました。
「けど、ここからはそうはいかねぇぜ!!」
 サンはそう言って、地面を勢いよく蹴って立ち上がります。
「ルールは単純だ! オレを倒せば、オレの魔法をお前にくれてやる!!」
 サンがそう言って、パチンと両手を胸の前で合わせると、手のひらから真っ赤な炎が溢れ出しました。
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