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緑の冒険編 勇者パーティを追放された勇者の話
勇者、魚をあげる
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タピオンと地の精霊は、明るい森の中、元来た道を歩きます。
先程の小さな魚とバケツは、すでに地の精霊の手元に返っています。
「この本には、地の精霊さんは森のどこかにいるって書いてありましたが……本当は水の精霊さんといつも一緒にいるんですか?」
「ううん、今日はたまたま。けれどアディンのところにはよく遊びに行って、釣りをしてるよ」
その答えにタピオンは面白そうに聞きます。
「へえ、四大精霊は仲良しなんですね!」
「いや、全員がそうというわけでもないかな」
地の精霊はそう答え、爽やかに言葉を続けます。
「僕ら、火と風の精霊とは、気が合わないんだ。火の精霊は暑苦しいし、風の精霊はうるさいし……君たちの言葉だと、『パリピ』とか『陽キャ』っていうのかな? 頭悪そうだよね。彼らのことは理解できないね」
「ボロクソ言いますね」
「アディンは落ち着いているから好きだよ。あっちはあっちで、二人仲良くやってるよ」
そんな話をしていると、森の出口が見えてきました。
「そろそろ出口につく。さて、タピオン君」
「はい?」
地の精霊は足を止め、タピオンを振り返ります。
前髪の隙間から、深い緑の瞳がタピオンを見つめていました。
「僕は心優しい者に、地の魔法を授けている。そして君は、困っている小さな精霊を助けたようだね。周りの精霊たちが教えてくれたよ」
彼の言葉に答えるように、さわさわと、風に木の葉のこすれる音が響きます。
地の精霊は、にっこり笑いました。
「そんな心優しい君に、僕の魔法をプレゼントしたいんだけど、どうだい?」
「ティティ! ミルルちゃん! 戻ったよー!」
「あ、タピオン!」
「おかえりー」
ここは魔王の城の、麓の村。
開店前の中華料理店前で、タピオンが声をかけると、ミルルとティティは足を止めて、彼を振り返りました。
「三日ぶりだねー。魔法もらえた?」
「うん!水の魔法と地の魔法をもらえたよ!」
ティティに、タピオンはドヤ顔で胸を張ります。
「へえ、二つも? スゴイじゃん! 確かにキミ、王都の教会でも一番頭良かったもんね」
「よかったネ! ミルルたちにも見せてほしいヨ!」
二人は、一緒に運んでいたテーブルを地面に置き、タピオンに期待の眼差しを向けます。
「見てて、水の魔法! 水流!」
タピオンがそう唱えると、手の平から水が出てきました。
まあまあの勢いで、地面に透明な水が落ちます。
ティティとミルルは一歩下がりました。
「気持ち悪ッ! 大丈夫な水なのそれ?!」
「タピオン、手汗すごいネ!」
「手汗じゃないよ!!! ほら、新鮮な水がドボドボドボ」
ドボドボドボと地面に透明な水が落ち続けます。
「むむ……」
「なんか不気味ネ……」
「引かないでよ!? 今はちょっと勢いが弱いけど、練習すれば地面を割れるくらいに強くなるもんね!!」
そう豪語するタピオンを、ティティはいつにも増してジト目で見ます。
「……で、地の魔法の方はどうなの?」
「ああ、こっちの方は初めからすごいよ!」
そう言ってタピオンは、二人が運んでいたテーブルに手をかけます。
そして、軽々と持ち上げて見せました。
「ほら、こんなに重いものだって楽々持てるんだ!」
「へー!すごいじゃないか!」
「身体強化ネ! これはいい魔法をもらったヨ!」
「でしょでしょ!!」
感心するティティとミルルに、タピオンは得意げです。
「だから、二人とも商売なんてやめて、僕と冒険に――」
「じゃあ、これとこれもお願いね」
「……へ?」
ティティはそう言って、どんどんとテーブルの上に大きな箱を二個乗せました。
結構な重みがあり、側面に『ソース』と書かれています。
タピオンが、意味がわからずティティを見つめると、彼女は当たり前のように店の方を指さしました。
「これ、ホールの方に運ぶやつだから」
「待ってティティ、僕は冒険に――」
そう言いかけたタピオンの肩に、ティティはぽんと手を置きます。
「ボクたち、友達でしょ?」
そしてにっこり笑います。
「…………」
タピオンの何か言いたげな視線を気にせず、ティティは自分の胸に手を置き、安らかな表情で唱えます。
「友人を愛しましょう。困っている人を助けましょう。それが神の教えです」
「都合のいいときだけ聖職者みたいなこと言わないでよ」
「聖職者です」
ティティは自己紹介します。
そんなときミルルが、彼のもう片方の肩に手を乗せました。
「……何?」
不服そうな顔のタピオンに、ミルルはウインクします。
「中華料理屋さんの準備、一緒に頑張ろうネ!」
「そうだよ、三人で力を合わせれば、今週中には店を開けるよっ!」
ティティもそう言って、同じようにウインクします。
そんな二人の扱いに、タピオンは思わず声を上げました。
「僕、勇者だよ?!」
先程の小さな魚とバケツは、すでに地の精霊の手元に返っています。
「この本には、地の精霊さんは森のどこかにいるって書いてありましたが……本当は水の精霊さんといつも一緒にいるんですか?」
「ううん、今日はたまたま。けれどアディンのところにはよく遊びに行って、釣りをしてるよ」
その答えにタピオンは面白そうに聞きます。
「へえ、四大精霊は仲良しなんですね!」
「いや、全員がそうというわけでもないかな」
地の精霊はそう答え、爽やかに言葉を続けます。
「僕ら、火と風の精霊とは、気が合わないんだ。火の精霊は暑苦しいし、風の精霊はうるさいし……君たちの言葉だと、『パリピ』とか『陽キャ』っていうのかな? 頭悪そうだよね。彼らのことは理解できないね」
「ボロクソ言いますね」
「アディンは落ち着いているから好きだよ。あっちはあっちで、二人仲良くやってるよ」
そんな話をしていると、森の出口が見えてきました。
「そろそろ出口につく。さて、タピオン君」
「はい?」
地の精霊は足を止め、タピオンを振り返ります。
前髪の隙間から、深い緑の瞳がタピオンを見つめていました。
「僕は心優しい者に、地の魔法を授けている。そして君は、困っている小さな精霊を助けたようだね。周りの精霊たちが教えてくれたよ」
彼の言葉に答えるように、さわさわと、風に木の葉のこすれる音が響きます。
地の精霊は、にっこり笑いました。
「そんな心優しい君に、僕の魔法をプレゼントしたいんだけど、どうだい?」
「ティティ! ミルルちゃん! 戻ったよー!」
「あ、タピオン!」
「おかえりー」
ここは魔王の城の、麓の村。
開店前の中華料理店前で、タピオンが声をかけると、ミルルとティティは足を止めて、彼を振り返りました。
「三日ぶりだねー。魔法もらえた?」
「うん!水の魔法と地の魔法をもらえたよ!」
ティティに、タピオンはドヤ顔で胸を張ります。
「へえ、二つも? スゴイじゃん! 確かにキミ、王都の教会でも一番頭良かったもんね」
「よかったネ! ミルルたちにも見せてほしいヨ!」
二人は、一緒に運んでいたテーブルを地面に置き、タピオンに期待の眼差しを向けます。
「見てて、水の魔法! 水流!」
タピオンがそう唱えると、手の平から水が出てきました。
まあまあの勢いで、地面に透明な水が落ちます。
ティティとミルルは一歩下がりました。
「気持ち悪ッ! 大丈夫な水なのそれ?!」
「タピオン、手汗すごいネ!」
「手汗じゃないよ!!! ほら、新鮮な水がドボドボドボ」
ドボドボドボと地面に透明な水が落ち続けます。
「むむ……」
「なんか不気味ネ……」
「引かないでよ!? 今はちょっと勢いが弱いけど、練習すれば地面を割れるくらいに強くなるもんね!!」
そう豪語するタピオンを、ティティはいつにも増してジト目で見ます。
「……で、地の魔法の方はどうなの?」
「ああ、こっちの方は初めからすごいよ!」
そう言ってタピオンは、二人が運んでいたテーブルに手をかけます。
そして、軽々と持ち上げて見せました。
「ほら、こんなに重いものだって楽々持てるんだ!」
「へー!すごいじゃないか!」
「身体強化ネ! これはいい魔法をもらったヨ!」
「でしょでしょ!!」
感心するティティとミルルに、タピオンは得意げです。
「だから、二人とも商売なんてやめて、僕と冒険に――」
「じゃあ、これとこれもお願いね」
「……へ?」
ティティはそう言って、どんどんとテーブルの上に大きな箱を二個乗せました。
結構な重みがあり、側面に『ソース』と書かれています。
タピオンが、意味がわからずティティを見つめると、彼女は当たり前のように店の方を指さしました。
「これ、ホールの方に運ぶやつだから」
「待ってティティ、僕は冒険に――」
そう言いかけたタピオンの肩に、ティティはぽんと手を置きます。
「ボクたち、友達でしょ?」
そしてにっこり笑います。
「…………」
タピオンの何か言いたげな視線を気にせず、ティティは自分の胸に手を置き、安らかな表情で唱えます。
「友人を愛しましょう。困っている人を助けましょう。それが神の教えです」
「都合のいいときだけ聖職者みたいなこと言わないでよ」
「聖職者です」
ティティは自己紹介します。
そんなときミルルが、彼のもう片方の肩に手を乗せました。
「……何?」
不服そうな顔のタピオンに、ミルルはウインクします。
「中華料理屋さんの準備、一緒に頑張ろうネ!」
「そうだよ、三人で力を合わせれば、今週中には店を開けるよっ!」
ティティもそう言って、同じようにウインクします。
そんな二人の扱いに、タピオンは思わず声を上げました。
「僕、勇者だよ?!」
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