上 下
45 / 55
緑の冒険編 勇者パーティを追放された勇者の話

勇者、魚をあげる

しおりを挟む
 タピオンと地の精霊は、明るい森の中、元来た道を歩きます。
 先程の小さな魚とバケツは、すでに地の精霊の手元に返っています。

「この本には、地の精霊さんは森のどこかにいるって書いてありましたが……本当は水の精霊さんといつも一緒にいるんですか?」
「ううん、今日はたまたま。けれどアディンのところにはよく遊びに行って、釣りをしてるよ」
 その答えにタピオンは面白そうに聞きます。
「へえ、四大精霊は仲良しなんですね!」
「いや、全員がそうというわけでもないかな」
 地の精霊はそう答え、爽やかに言葉を続けます。
「僕ら、火と風の精霊とは、気が合わないんだ。火の精霊は暑苦しいし、風の精霊はうるさいし……君たちの言葉だと、『パリピ』とか『陽キャ』っていうのかな? 頭悪そうだよね。彼らのことは理解できないね」
「ボロクソ言いますね」
「アディンは落ち着いているから好きだよ。あっちはあっちで、二人仲良くやってるよ」
 そんな話をしていると、森の出口が見えてきました。
「そろそろ出口につく。さて、タピオン君」
「はい?」
 地の精霊は足を止め、タピオンを振り返ります。
 前髪の隙間から、深い緑の瞳がタピオンを見つめていました。
「僕は心優しい者に、地の魔法を授けている。そして君は、困っている小さな精霊を助けたようだね。周りの精霊たちが教えてくれたよ」
 彼の言葉に答えるように、さわさわと、風に木の葉のこすれる音が響きます。
 地の精霊は、にっこり笑いました。
「そんな心優しい君に、僕の魔法をプレゼントしたいんだけど、どうだい?」



「ティティ! ミルルちゃん! 戻ったよー!」
「あ、タピオン!」
「おかえりー」
 ここは魔王の城の、麓の村。
 開店前の中華料理店前で、タピオンが声をかけると、ミルルとティティは足を止めて、彼を振り返りました。
「三日ぶりだねー。魔法もらえた?」
「うん!水の魔法と地の魔法をもらえたよ!」
 ティティに、タピオンはドヤ顔で胸を張ります。
「へえ、二つも? スゴイじゃん! 確かにキミ、王都の教会でも一番頭良かったもんね」
「よかったネ! ミルルたちにも見せてほしいヨ!」
 二人は、一緒に運んでいたテーブルを地面に置き、タピオンに期待の眼差しを向けます。
「見てて、水の魔法! 水流スプラッシュ!」
 タピオンがそう唱えると、手の平から水が出てきました。
 まあまあの勢いで、地面に透明な水が落ちます。
 ティティとミルルは一歩下がりました。
「気持ち悪ッ! 大丈夫な水なのそれ?!」
「タピオン、手汗すごいネ!」
「手汗じゃないよ!!! ほら、新鮮な水がドボドボドボ」
 ドボドボドボと地面に透明な水が落ち続けます。
「むむ……」
「なんか不気味ネ……」
「引かないでよ!? 今はちょっと勢いが弱いけど、練習すれば地面を割れるくらいに強くなるもんね!!」
 そう豪語するタピオンを、ティティはいつにも増してジト目で見ます。
「……で、地の魔法の方はどうなの?」
「ああ、こっちの方は初めからすごいよ!」
 そう言ってタピオンは、二人が運んでいたテーブルに手をかけます。
 そして、軽々と持ち上げて見せました。
「ほら、こんなに重いものだって楽々持てるんだ!」
「へー!すごいじゃないか!」
「身体強化ネ! これはいい魔法をもらったヨ!」
「でしょでしょ!!」
 感心するティティとミルルに、タピオンは得意げです。
「だから、二人とも商売なんてやめて、僕と冒険に――」
「じゃあ、これとこれもお願いね」
「……へ?」
 ティティはそう言って、どんどんとテーブルの上に大きな箱を二個乗せました。
 結構な重みがあり、側面に『ソース』と書かれています。
 タピオンが、意味がわからずティティを見つめると、彼女は当たり前のように店の方を指さしました。
「これ、ホールの方に運ぶやつだから」
「待ってティティ、僕は冒険に――」
 そう言いかけたタピオンの肩に、ティティはぽんと手を置きます。
「ボクたち、友達でしょ?」
 そしてにっこり笑います。
「…………」
 タピオンの何か言いたげな視線を気にせず、ティティは自分の胸に手を置き、安らかな表情で唱えます。
「友人を愛しましょう。困っている人を助けましょう。それが神の教えです」
「都合のいいときだけ聖職者みたいなこと言わないでよ」
「聖職者です」
 ティティは自己紹介します。
 そんなときミルルが、彼のもう片方の肩に手を乗せました。
「……何?」
 不服そうな顔のタピオンに、ミルルはウインクします。
「中華料理屋さんの準備、一緒に頑張ろうネ!」
「そうだよ、三人で力を合わせれば、今週中には店を開けるよっ!」
 ティティもそう言って、同じようにウインクします。
 そんな二人の扱いに、タピオンは思わず声を上げました。

「僕、勇者だよ?!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...