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緑の冒険編 勇者パーティを追放された勇者の話
勇者、勧誘される
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「うわああああん」
ティティの横で、タピオンは泣きます。
ティティは作業を続けます。
「うわああああん」
ティティの横で、タピオンは泣きます。
ティティは作業を続けます。
「無視しないでようわああああん」
「いや、めんどくさいなって」
「友達をそんなふうに扱わないでよ酷いよお」
ティティは無視をやめて、やっとタピオンを振り返りました。
ここは、マリアドネ王国の王都にあるアパートの、ティティの部屋。
しかし生活に使えそうな家具は置いておらず、代わりに木材や書類などが散らばり、壁には釘バットや鉄パイプなどの武器が掛けられていました。
「にしてもタピオン、久しぶりだね。キミが勇者に選ばれて、教会を出て以来だっけ?」
ティティとタピオンは過去、同じ教会で一人前の聖職者になるため数年間暮らしており、共に信頼できる友人関係にありました。
ティティはちょっと面白そうに聞きます。
「急にボクん家なんか来てどうしたの? あっ、もしかして、魔王がお城に入れる人数を制限したから、パーティからハブられたとか? なーんてね! あははッ」
「うわああああん」
「マジでそうだったの?! なんで勇者なのにハブられてるのさ!」
「僕にもわからないよお……」
ぐずぐずと鼻をすするタピオンに、ティティは首を傾げます。
「それに、タピオンは回復の術が使えるじゃん。 なかなか習得できない技だし、重宝されると思うんだケド?」
「そうだね。仲間の怪我も毒も瀕死状態も、すぐに治すことができるよ」
タピオンはちょっと得意げに頷き、
「まあ、仲間のみんなが強すぎて、戦闘してもいつも無傷だったから、一回も使わなかったけどね」
「原因が明確」
回復の術が使えないタピオンは、冒険者にとって、ただ顔が良いだけの普通の人でした。
ティティに構ってもらえて泣き止んだタピオンは、今度は明るい顔で彼女に提案します。
「ねえティティ、一緒に冒険しようよ。協力して魔王を倒すんだ!」
「でも、あの魔王、そんなに悪い人じゃないよ。女王様はああ言うかもしれないケドさ、わざわざボクらが大変な思いをして倒さなくても、別にいいって」
「魔王倒したらお金もらえるよ?」
「……………………」
ティティの心が揺れます。
「……でもさ、聖職者二人だけって、バランス悪くない?」
「え? ティティは暗殺者だろう?」
「聖職者だよ。一緒にマザーの元で修行しただろう?」
再びノコギリを研ぐ作業に戻りながら、ティティは訂正します。
「それにね、ボクたち冒険者をやめて、別の仕事をすることにしたんだ」
「……『たち』?」
タピオンが、ティティの言葉に引っかかり、首をかしげたそのときです。
「ティティー! 材料持って来たヨー!」
ドアが開き、木の幹を抱えた一人の女の子・ミルルが入ってきました。
タピオンとミルルはお互いを見て、首を傾げます。
「アンタ誰ネ?」
「君こそ誰?」
ティティは、まずタピオンを手で示します。
「彼は、ボクが教会で修行していたときの友達のタピオン。女王様に選ばれた勇者の一人だよ」
「へえ、勇者さん! ……うーん、青の勇者さんの方がイケメンネ」
「えっ何?! いきなり辛辣なんだけど」
ミルルの突然の査定に、タピオンは驚愕します。
「この子はミルル、格闘家。この前パーティを組んでいた友達だよ。今は仕事仲間なんだ」
「仕事仲間?」
聞き返したタピオンに、ティティはミルルの肩に手を置いて、答えました。
「そうだよ。ボクたち、冒険者やめて中華料理店開くことにしたんだ」
「全く話が読めないよ?!」
タピオンの大きな声が、部屋に響きます。
ティティは得意げに胸を張り、説明を始めました。
「今王都で、華(か)ノ国中央地方の料理が流行ってるんだ。だからミルルと一緒に魔王の城の前で中華料理店を開いて、一攫千金しようと思って」
「何でも流行りにのればいいってもんじゃないよ! それにティティ、料理は素人でしょ?」
「大丈夫、食べる方も素人だから!」
「考えが黒いよ! 詐欺師の思考回路だよ!」
ムンクの叫びのような顔をするタピオンに、ティティはニヤリと笑います。
「別に長く続けるわけじゃない。一時でも儲かればいいんだよ」
「だからブラックだってば!!! それでも聖職者なの?!」
「ケド、全くの素人ってわけでもないんだ。ミルルは中央地方の山中で修行していたから、本場の中華料理を食べたことがある」
「うん! 麻婆豆腐に青椒肉絲! 水餃子に飲茶! 美味しいネ!」
「うーん、それなら……」
納得しかける彼に、ティティはニコニコしながら手を合わせます。
「タピオンも、勇者なんかやめて一緒に中華料理店開こうよ。儲かる採算だよ。それに男手がいたら助かるなぁ?」
「そ、そんな黒い仕事したくないよ! 正義の勇者がいい! 真っ当な冒険をしたい!」
可愛いポーズでお願いしてくるティティに、タピオンはドン引きした心情のまま、首をブンブンと横に振ります。
「それなら、回復術以外に技を習得しないと、また無能扱いされるんじゃない? どう、ミルル。彼、体術とか出来そう?」
「調べてみるヨ」
ミルルは、タピオンの腕やお腹をぺたぺた触ります。
「ウーン、全然筋肉つきそうにない体質ネ。根性もなさそうだし、体術はダメネ。稀に見る下の下ヨ」
「すごい傷つくなあ」
「それじゃあ、魔法を習得したら?」
ティティは人差し指をぴんと張り、提案します。
「四大精霊に頼めば、精霊の加護を授かれるんだって。マザーが言ってた」
「ああ、そういえば他の勇者さん二人も、四大精霊から魔法をもらったって昔聞いたなぁ」
タピオンは、同じときに勇者に指名された二人、カレットとアズレアの顔を思い浮かべました。
「それなら尚更、そこで戦闘向きの魔法をもらっちゃいなよ」
「そうだね! まずは初心に戻って、強くなるために頑張るよ!」
新しい目標を見つけたタピオンに、ティティはニッと笑い、鋭く研いだノコギリを担ぎました。
「決まりだね。ボクたちは魔王の城の前で開店準備してるから、中華料理店したくなったらいつでも来ていいよ」
「行かないよ!!! けど試食はしたい」
ティティの横で、タピオンは泣きます。
ティティは作業を続けます。
「うわああああん」
ティティの横で、タピオンは泣きます。
ティティは作業を続けます。
「無視しないでようわああああん」
「いや、めんどくさいなって」
「友達をそんなふうに扱わないでよ酷いよお」
ティティは無視をやめて、やっとタピオンを振り返りました。
ここは、マリアドネ王国の王都にあるアパートの、ティティの部屋。
しかし生活に使えそうな家具は置いておらず、代わりに木材や書類などが散らばり、壁には釘バットや鉄パイプなどの武器が掛けられていました。
「にしてもタピオン、久しぶりだね。キミが勇者に選ばれて、教会を出て以来だっけ?」
ティティとタピオンは過去、同じ教会で一人前の聖職者になるため数年間暮らしており、共に信頼できる友人関係にありました。
ティティはちょっと面白そうに聞きます。
「急にボクん家なんか来てどうしたの? あっ、もしかして、魔王がお城に入れる人数を制限したから、パーティからハブられたとか? なーんてね! あははッ」
「うわああああん」
「マジでそうだったの?! なんで勇者なのにハブられてるのさ!」
「僕にもわからないよお……」
ぐずぐずと鼻をすするタピオンに、ティティは首を傾げます。
「それに、タピオンは回復の術が使えるじゃん。 なかなか習得できない技だし、重宝されると思うんだケド?」
「そうだね。仲間の怪我も毒も瀕死状態も、すぐに治すことができるよ」
タピオンはちょっと得意げに頷き、
「まあ、仲間のみんなが強すぎて、戦闘してもいつも無傷だったから、一回も使わなかったけどね」
「原因が明確」
回復の術が使えないタピオンは、冒険者にとって、ただ顔が良いだけの普通の人でした。
ティティに構ってもらえて泣き止んだタピオンは、今度は明るい顔で彼女に提案します。
「ねえティティ、一緒に冒険しようよ。協力して魔王を倒すんだ!」
「でも、あの魔王、そんなに悪い人じゃないよ。女王様はああ言うかもしれないケドさ、わざわざボクらが大変な思いをして倒さなくても、別にいいって」
「魔王倒したらお金もらえるよ?」
「……………………」
ティティの心が揺れます。
「……でもさ、聖職者二人だけって、バランス悪くない?」
「え? ティティは暗殺者だろう?」
「聖職者だよ。一緒にマザーの元で修行しただろう?」
再びノコギリを研ぐ作業に戻りながら、ティティは訂正します。
「それにね、ボクたち冒険者をやめて、別の仕事をすることにしたんだ」
「……『たち』?」
タピオンが、ティティの言葉に引っかかり、首をかしげたそのときです。
「ティティー! 材料持って来たヨー!」
ドアが開き、木の幹を抱えた一人の女の子・ミルルが入ってきました。
タピオンとミルルはお互いを見て、首を傾げます。
「アンタ誰ネ?」
「君こそ誰?」
ティティは、まずタピオンを手で示します。
「彼は、ボクが教会で修行していたときの友達のタピオン。女王様に選ばれた勇者の一人だよ」
「へえ、勇者さん! ……うーん、青の勇者さんの方がイケメンネ」
「えっ何?! いきなり辛辣なんだけど」
ミルルの突然の査定に、タピオンは驚愕します。
「この子はミルル、格闘家。この前パーティを組んでいた友達だよ。今は仕事仲間なんだ」
「仕事仲間?」
聞き返したタピオンに、ティティはミルルの肩に手を置いて、答えました。
「そうだよ。ボクたち、冒険者やめて中華料理店開くことにしたんだ」
「全く話が読めないよ?!」
タピオンの大きな声が、部屋に響きます。
ティティは得意げに胸を張り、説明を始めました。
「今王都で、華(か)ノ国中央地方の料理が流行ってるんだ。だからミルルと一緒に魔王の城の前で中華料理店を開いて、一攫千金しようと思って」
「何でも流行りにのればいいってもんじゃないよ! それにティティ、料理は素人でしょ?」
「大丈夫、食べる方も素人だから!」
「考えが黒いよ! 詐欺師の思考回路だよ!」
ムンクの叫びのような顔をするタピオンに、ティティはニヤリと笑います。
「別に長く続けるわけじゃない。一時でも儲かればいいんだよ」
「だからブラックだってば!!! それでも聖職者なの?!」
「ケド、全くの素人ってわけでもないんだ。ミルルは中央地方の山中で修行していたから、本場の中華料理を食べたことがある」
「うん! 麻婆豆腐に青椒肉絲! 水餃子に飲茶! 美味しいネ!」
「うーん、それなら……」
納得しかける彼に、ティティはニコニコしながら手を合わせます。
「タピオンも、勇者なんかやめて一緒に中華料理店開こうよ。儲かる採算だよ。それに男手がいたら助かるなぁ?」
「そ、そんな黒い仕事したくないよ! 正義の勇者がいい! 真っ当な冒険をしたい!」
可愛いポーズでお願いしてくるティティに、タピオンはドン引きした心情のまま、首をブンブンと横に振ります。
「それなら、回復術以外に技を習得しないと、また無能扱いされるんじゃない? どう、ミルル。彼、体術とか出来そう?」
「調べてみるヨ」
ミルルは、タピオンの腕やお腹をぺたぺた触ります。
「ウーン、全然筋肉つきそうにない体質ネ。根性もなさそうだし、体術はダメネ。稀に見る下の下ヨ」
「すごい傷つくなあ」
「それじゃあ、魔法を習得したら?」
ティティは人差し指をぴんと張り、提案します。
「四大精霊に頼めば、精霊の加護を授かれるんだって。マザーが言ってた」
「ああ、そういえば他の勇者さん二人も、四大精霊から魔法をもらったって昔聞いたなぁ」
タピオンは、同じときに勇者に指名された二人、カレットとアズレアの顔を思い浮かべました。
「それなら尚更、そこで戦闘向きの魔法をもらっちゃいなよ」
「そうだね! まずは初心に戻って、強くなるために頑張るよ!」
新しい目標を見つけたタピオンに、ティティはニッと笑い、鋭く研いだノコギリを担ぎました。
「決まりだね。ボクたちは魔王の城の前で開店準備してるから、中華料理店したくなったらいつでも来ていいよ」
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