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銀の迷宮編 魔王のたのしいダンジョン建築

魔王、驚愕する

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 寝室の大きな窓に映る、眩しい青。
 魔王はそれをベッドの上で眺めながら、良い香りのする紅茶をすすりました。
「うむ、爽やかな朝だ」
「ええ、麗らかな春のお天気で」
 フライパンとお玉を持ったアズが、頷きました。
 魔王はベッド脇に平然と立つ彼をちらりと見てから、
「お前がそんな起こし方をしなければ、もっと清々しい朝になっていただろうな。まさか調理器具の騒音で目覚める日が来るとは」
「こうでもしないと、お目覚めにならなかったので」
 今日の魔王は、アズの声とアズがフライパンをお玉で激しく叩く音(「カンカンカン!朝です!起きて!カンカンカン!!ほら!!朝です!!起きなさい!!カンカンカンカン!!!」)で起こされたのでした。
「僕がここに来てもう一ヶ月が経ちますが、魔王様がきちんとした生活を見せたのは最初の三日のみです。そろそろこの堕落した生活に終止符を打たねばと」
「別に良いだろう、朝から来る勇者はいないし。私が特別することもないんだから」
 あくび混じりに答えた魔王に、アズは考え、
「うーん……では、朝お風呂に入るのはどうです? 日課にしましょう」
「自分で言うのもなんだが、魔王が朝シャンとか気味悪くないか?」
「そんな、朝日を見ながら入るお風呂は最高ですよ」
「実体験なのか? しずかちゃんかお前は」
「誰ですそれは」
 アズかちゃんは呆れたように、フライパンを肩に背負い、
「とにかく、次に起床が九時を過ぎることがあれば魔王様の頭を直接鳴らします」
「殺す気か」
 魔王はそう返してから、ふとあごに手を当てました。
「ん? 待てよ、一ヶ月と言ったな? 何か忘れているような……」
「ま、魔王様ぁーっ!!」
 何かを思い出そうとしたそのとき。
 叫び声とともに、仮面をしていないホリーが勢い良くドアを開けて入ってきました。
 ホリーはそのままベッドにダイブして、涙目で魔王にすがりつきます。
 突然抱きしめられた魔王は、慌てて紅茶を溢しそうになりました。
「どどどどうしたホリー?! 心臓に良くないんだが……?!」
「魔王様! 助けてください! 突然変態が……!」
「変態?!」
 魔王が驚いたのもつかの間、ドアの向こうから「フフフフフフ」と女の笑い声が聞こえました。
「可愛いホリーちゃぁん、ちょーっとでいいから、この綺麗なドレスを着てみましょう? きっと素敵よ~~?」
「ひぇえ……!」
「魔王様、姫様、この声は間違いなく変態の声です! 下がっていてください!」
 怯えて魔王を抱きしめるホリーと、それに固まっている魔王と、フライパンを構えるアズ。
 見守る三人の前で、ドアがキィ……と音を立て、ゆっくりと開きました。
 そこにいたのは、艶のある黒い髪に、真っ赤な唇、そして紫のローブを羽織った、一人の女性。
 その魔女のような見た目の女は、爛々とした銀色の目でホリーを見つめていました。
 しかし、その視線が隣の魔王に移ると、彼女はぱっと顔を明るくさせ、
「ヴィル! ヴィルじゃない、久しぶり!」
 彼女の言葉に、我に返った魔王はその名を呼んだのです。
「母上?!」
 魔王の声に、一拍遅れて、ホリーとアズが叫びました。
「「母上ー?!」」
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