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白の魔導師編 冒険者ハーレムに意味はあるのか?

勇者、過去を知る

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「リュカ? どうしたの……?」
 二つ結びの少女が呼びかけても、リュカは彼女の方を見向きもしません。
 魔王は、彼を睨みつけ、
「そいつの意思を乗っ取ったな。――『星の魔女』」
 少年、いや、彼の中の『星の魔女』はニヤリと笑いました。
「どういうことです?」
 尋ねるアズレアに、魔王は低い声で答えます。
「『星の魔女』――この大陸に住む、強力な魔女の一人だ。あいつがエルの瞳に紋章を施した。恐らく、この少年にも」
「彼本人が、星の魔女というわけではないと?」
「アズ、この城に来た日、スライムを介して私と会話したことを覚えているか?」
 そう言われアズレアは、自分が洗面器で倒した、魔王の言葉を代弁するスライムを思い出しました。
「はい、風呂場で。……まさか」
「星の魔女は魔物ではなく、人間に魔力を注ぐ。――そして眷属となった人間は、彼女の操り人形となるのだ」
「操り人形だなんてやめてよ。私の『星の子』は皆、自分の意思で私の下に来るのよ。……そうでしょう? 第二王子」
「……!」
 星の魔女に名前を呼ばれ、エルはビクッとして顔を上げました。
「仮面を付けていても声でわかるわ。私、あなたのこと探していたのよ。なかなか国に帰って来ないんだもん。魔力を辿っても見つからないし、死んだと思っていたわ。……まさか、魔王に洗脳されてたなんて」
「あ……それは……」
 冷たく目を細めて笑う星の魔女、その視線を魔王が遮りました。
「確かに、私が貴様の眷属の魔法を書き換えた。だがエルは今、自分の意思で私の元にいる。洗脳などされていない」
「……それなら尚更、」
 星の魔女は笑みを消し、魔法で鋭く長い剣を出現させます。
「裏切るなんて、許さない」
 剣は、エルに向かって落ち――しかし、横から飛んできた何かによって弾かれました。
「リュカ! 目を覚まして!」
 二つ結びの少女・モナが、星の魔女に向かって叫びました。
 剣の軌道を曲げたのは、彼女が投げた洗濯板。
 先程のアズレアのダメージもあり、ボロボロになって床に落ちて砕けていました。
「彼、王子様なんでしょう? リュカに人殺しなんてさせないわ! リュカを元に戻して!」
 モナの必死の叫びを、星の魔女は興味深そうに見下ろしました。
「あら、この『星の子』、名前をつけてもらったのね」
「リュカのこと……? 私がつけたわ。記憶を失って覚えていなかったから……童話の主人公の名を取って……」
 モナは目を見開きました。
「どういうこと? 彼の本当の名前を知っているの?」
「知らないわ。だってないもの」
 その言葉に、モナの後ろにいた残りの仲間は、顔を見合わせました。
 魔王とアズレアも、星の魔女の言動に目配せします。
 星の魔女は、ふふっと微笑みました。
「教えてあげるわ。この少年はね、親に売られたのよ」
 星の魔女は、自分の胸元に手を当て、語りだしました。
「十年も貴族の下で働いていた。だけどある時その家、潰れちゃったの。そうして働き先を失った彼は、帰る家もなく、路頭に迷った。生きて行くために、汚れた仕事をするしかなかった。沢山の人を騙した。何度も名前を変えていくうちに、本当の名前も忘れて、失った。……そして、絶望の淵にいた少年は言ったの、『死んでしまいたい』って――」
「リュカ……」
「そんな……」
 モナは呆然とし、他の仲間たちも目を見開きました。
「――だけど、ああ少年よ、死んでしまうとは情けない!」
 星の魔女は星の瞳をきらめかせ、大きく腕を上げました。 
「暗闇で生きてきたあなたも、私の『星の子』になればもっと輝くことができるはず。そう言ったら、少年は私の手を取ったわ。……私は魔力を与え、彼を冒険者に仕立て上げた」
 そう言って星の魔女は、笑います。
 しかし、その笑みをすぐに消し、
「だけど、この少年は魔法を使う才能がないわ。ハズレだった。それに顔も知られてしまった……もう私の『星の子』として、使えない」
 まるで、飽きたオモチャを見るような目で、彼女は両手を合わせ、魔法の光を生み出しました。
 その光はバチバチと次第に大きくなり、球の形になっていきます。
 それを皆が不思議そうに見つめる中、エルは慌てて後ずさりました。
「そんな至近距離で、極大な爆破魔法を?! 自爆する気か!!」 
「えっ……! やめて、リュカが死んじゃう!!」
 それを聞いたモナも、必死に叫びましたが、星の魔女はニヤリと笑って、大きくなった魔法の球をかかげました。
 誰もが息をのんだ、そのとき。
「――アズ、いいか!」
「いつでも」
 部屋の明かりが全て消え、目を閉じたように真っ暗になりました。
「うわぁっ!」
「何が……!」
 突然闇に包まれ、驚く複数の声。
「なっ?!」
 同じように声をあげた星の魔女は、驚きで魔法を消します。
 その目の前に、キラリとした何かが現れました。
 続いて、重たいものがどさりと落ちる音。
 その途端、ぱっと明かりが戻り、
「『一粒で視力向上。二粒で暗視可能』……まさかここでも役に立つとは。この魔法薬は重宝しなければいけませんね」
 アズレアは微笑みを浮かべ、片足で少年の背中を踏んでいました。
 剣とは逆の手に持つ魔法薬が、からからと軽快に音を立てます。
「くそっ……こんな若造に……!」
 表情を歪ませる彼女に、魔王はニヤリと笑いました。
「勝負あったな、星の魔女」
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