続・骸行進（裏怪談）

不動産に勤める後輩「伊藤（仮名）」の話

土地、買取 ２

「あれ、あの人が最後まで案内してくれるんじゃないの？」

男が去った後、私は伊藤に事情を聞いた。

男が出した条件は、内見こそ自由に行ってもらって構わないが
自分はそれに同行しない。というものだったそうだ。

そうなれば、大体の事情は「お察し」である。

「先輩、率直に・・・此処どうですか？」

「・・・伊藤、ここさ。買い取ること自体は別段問題無いだろうけどさぁ。
買い取るって事は、その後何かしらで他人様の手に渡るんだろ？おすすめ出来ないぜ。」

「やっぱりっすか。」

これは、私の聴いた「罵り合い」に関係している事だ。

というのも、聴こえた男女の声はタイムリーな事に
「家を手放すべきか」を口論しているようなのだ。

この時点で、私は「男の父母」を怪しんだ。

内見を終えた我々は、外にある小屋で男の話を聞く事となった。

「・・・今だから言いますけどね。あの家、僕の伯母夫婦が一度住んでいました。
その時、僕は県外で済んでいたんですが・・・。
伯母夫婦は以前から仲が悪くて。その間に入るのも気が退けたもので
関わり合いにはなっていなかったんです。
ですが、数年前、叔母夫婦も亡くなりましてね。」

その後、自宅を整理し少しの間、彼は自宅を使っていたそうだ。

「・・・でもね、時折、見えるんですよ。・・・人影が。
誰も居ない、僕一人だけの家のはずなのに。
誰かが、すっと移動していったのが視界の端っこの方で・・・。
そんなはずはない！って後を追いかけるんですけど、居る訳がないんですよ。
そりゃそうでしょ、僕しか住んでないんだから！
最初はね、泥棒とかを疑って、家中確認するんですけどね。
分かるでしょ！？無駄なんですよ。
頭の中で、見間違いだ。って理解しちゃってるんだから！
でも、それがたまに父母が居たんじゃないか？って錯覚に陥るんですよ！
そんな訳ないんですよ！もう亡くなってるしね？
でもね、探さずにはいられないんですよ！分かるかなぁ～、この懐かしさっていうの。
別の日には、伯母夫婦が居たんじゃないか？って思う日もあって
そりゃぁもう、気分は最悪！何をやっても上手く行かないんだから！」

再度事情を語り出した男は
一人でおよそ５分以上語っていた。
最初は落ち着いたトーンで話していた男だが
その声色は次第に大きく高い物となり、緊迫さを物語る。

・・・だが、不自然なのは男の表情だ。

極めて異常な事を説明しているのに、今にも一人ゲラゲラと笑い出しそうな
満面の笑みで、状況を語るのだ。

私と伊藤はその狂気的な状況に、ただ黙っていることしか出来なかった。

恐らく霊感の類が無い伊藤ですら

「あぁ、この人・・・もう憑りつかれてるんだな。」が分かった一瞬であっただろう・・・。