35 / 101
不動産に勤める後輩「伊藤(仮名)」の話
土地、買取 1
しおりを挟む
ある年の暮れ、伊藤の務める会社に一人の男がやって来た。
年齢は50~60位の人物。
首元のよれたシャツに、しわの多いコートを纏いやって来たという。
一見するとその男は「浮浪者」に近い出立だった。
「あの。土地の買取をお願いしたいんですが。」
「え?」
見た目から似付かわしくない一言に、伊藤は一瞬固まったという。
「はい、どちらの土地でしょう?」
「~県○○市の・・・」
男の詳細な情報から、そこには確かに一軒家がある事が分かった。
しかも、周囲数軒分の土地がその人物の土地でいわゆる地主だというのだ。
「こちらのお宅は持ち家ですか?」
「えぇ。父母の代からで。家自体も老朽化が進んでまして。私一人では管理が・・・。」
「・・・失礼ですが、現在はこちらに住まわれていらっしゃるので?」
「あ、いえ・・・私は近くの小屋で・・・。」
住まいについて質問をした伊藤は、男の妙な態度が気になった。
まるで、家自体には触れて欲しくない。と言わんばかりの表情の変化だったという。
「ご自宅は引き払って・・・更地に戻されてからのご検討ですか?」
何を思ったか、伊藤はその家が気になり掘り下げたという。
「家はそのままで!・・・お願いします。」
家の取り壊しを示唆した瞬間、男の顔は焦りの顔に変わった。
『何かある。間違いないな。』
直ぐにそう思ったそうだ。
「ご自宅もご一緒にという事でしたら
後日、改めてご自宅の様子を拝見させていただきたいのですが
それでも宜しいですか?」
「えぇ、構いません。」
男の家に伺う予定を話し合い、その日は終わったそうだ。
その日の仕事終わり、私の元に一報が届く。
「先輩、一緒に見てもらいたい物件があります。~日、予定開いてますか?」
「~日ね。大丈夫だよ。場所は?」
こうして、当日を迎えました。
指定された時間・場所で後輩の伊藤と顔を合わせた私は
伊藤から開口一番に
「先輩、ここ怪しいっす。」の一言を聞く事となる。
不動産業において、土地の売買でのトラブルは珍しい事ではない。
しかし、彼が言うには
「何かを隠す客は、大概急いでます。」という。
しかし、それこそが伊藤の感じた最大の違和感であり
件の客からは、その「急いでいる」という感覚を得なかったという。
「何か隠してるのは間違いないんですけどね、さっさと掃けてしまいたい。とかっていう
そういうのを感じなかったんですよ。」
実際に物件を見た時、外から何かが聴こえた訳ではない。
その上、何か感じた訳でもない。
むしろ、地主というだけあって立派な豪邸だなぁ。というのが第一印象であった。
その後、依頼者の男性と合流し家の中を案内してもらう事になったのだが
そこで一気に印象が変わったのを覚えている。
玄関を通り、長い廊下を歩き
リビングへ通されたその時、私は男女の罵り合う声を聴いた。
この声を聴いた直後、一瞬ではあるものの
耳が詰まったような感覚になった。
それ以降も、男の話を聞きつつ
家の何処からとも分からない罵り合いの声は続く。
「とりあえず、私は此処までで。何かあれば近くの小屋に居ますので・・・。」
男はそれだけ告げ、そそくさと去っていった。
年齢は50~60位の人物。
首元のよれたシャツに、しわの多いコートを纏いやって来たという。
一見するとその男は「浮浪者」に近い出立だった。
「あの。土地の買取をお願いしたいんですが。」
「え?」
見た目から似付かわしくない一言に、伊藤は一瞬固まったという。
「はい、どちらの土地でしょう?」
「~県○○市の・・・」
男の詳細な情報から、そこには確かに一軒家がある事が分かった。
しかも、周囲数軒分の土地がその人物の土地でいわゆる地主だというのだ。
「こちらのお宅は持ち家ですか?」
「えぇ。父母の代からで。家自体も老朽化が進んでまして。私一人では管理が・・・。」
「・・・失礼ですが、現在はこちらに住まわれていらっしゃるので?」
「あ、いえ・・・私は近くの小屋で・・・。」
住まいについて質問をした伊藤は、男の妙な態度が気になった。
まるで、家自体には触れて欲しくない。と言わんばかりの表情の変化だったという。
「ご自宅は引き払って・・・更地に戻されてからのご検討ですか?」
何を思ったか、伊藤はその家が気になり掘り下げたという。
「家はそのままで!・・・お願いします。」
家の取り壊しを示唆した瞬間、男の顔は焦りの顔に変わった。
『何かある。間違いないな。』
直ぐにそう思ったそうだ。
「ご自宅もご一緒にという事でしたら
後日、改めてご自宅の様子を拝見させていただきたいのですが
それでも宜しいですか?」
「えぇ、構いません。」
男の家に伺う予定を話し合い、その日は終わったそうだ。
その日の仕事終わり、私の元に一報が届く。
「先輩、一緒に見てもらいたい物件があります。~日、予定開いてますか?」
「~日ね。大丈夫だよ。場所は?」
こうして、当日を迎えました。
指定された時間・場所で後輩の伊藤と顔を合わせた私は
伊藤から開口一番に
「先輩、ここ怪しいっす。」の一言を聞く事となる。
不動産業において、土地の売買でのトラブルは珍しい事ではない。
しかし、彼が言うには
「何かを隠す客は、大概急いでます。」という。
しかし、それこそが伊藤の感じた最大の違和感であり
件の客からは、その「急いでいる」という感覚を得なかったという。
「何か隠してるのは間違いないんですけどね、さっさと掃けてしまいたい。とかっていう
そういうのを感じなかったんですよ。」
実際に物件を見た時、外から何かが聴こえた訳ではない。
その上、何か感じた訳でもない。
むしろ、地主というだけあって立派な豪邸だなぁ。というのが第一印象であった。
その後、依頼者の男性と合流し家の中を案内してもらう事になったのだが
そこで一気に印象が変わったのを覚えている。
玄関を通り、長い廊下を歩き
リビングへ通されたその時、私は男女の罵り合う声を聴いた。
この声を聴いた直後、一瞬ではあるものの
耳が詰まったような感覚になった。
それ以降も、男の話を聞きつつ
家の何処からとも分からない罵り合いの声は続く。
「とりあえず、私は此処までで。何かあれば近くの小屋に居ますので・・・。」
男はそれだけ告げ、そそくさと去っていった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。


本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる