東京が消えたなら。

メカ

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29話 誤差

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蓋を空ければ、ヤマさんの原稿は
途中までは筋書きをなぞっていた。
しかし
大きく分岐をしたのは「溶岩流」についてだ。

ヤマさんの原稿では、連日噴火活動を続けた富士山からの溶岩流が
時を置いて、関東全域に被害をもたらすであろうと書かれていた。

結果として、海抜の低い低地に存在する「東京」などは
溶岩流に飲まれ、地図から消えてしまうだろう。と・・・。

その実
「東京」をそのような状況に陥れたのは、単に「人災」と言っていいだろう。

開発が進む一方で、メンテナンスを怠ったツケが回って来たのだ。

だが・・・「溶岩流」の被害が全くなかったのか?というと
そうでもない。
山梨・静岡の両県において、甚大な被害をもたらしたソレは確実に多くの命をも奪った。

両県におけるライフラインは寸断。
直後に降った灰の雨により、溶岩流の進行は止まったが
今尚、有毒性のガスを放出しながら、その地を死の土地に変えている。

そして、ヤマさんの原稿にない現象が
今、人々を襲い始めている。

先に挙げた溶岩流からの有毒性ガスがそのいい例だ。
次に、過疎地域への人口流入による生活の混乱。
一部地域では、この一ヶ月間
まともに物資が行き渡っていないのだという。

混乱の中、餓死する者も出始めた。
「あぁはなりたくない。」・・・人心の不和は直ぐに行動に現れる。

過疎地域での略奪行為や競争が激化。
最早、警察など名ばかりの組織となった。

ここにきて、関東の治安はどこぞのスラムよりも酷い物となった。

政府は、人道支援を打ち立てるも
都市部が機能していない為に、支援を行う拠点すらも
略奪などの対象となり、支援は散発的な物となっている。

隣町が潤えば、それを求め人が動き
一夜にしてその資源を吸い上げていく。

対策は後手に回った。

「ねぇ、コウちゃん。こんな事してていいの?」

「あぁ、まずはコネクションだよ。」

航はルーズリーフ一枚とペンを持ち
大阪・・・道頓堀の川沿いを歩いていた。

この紙には、周辺の大雑把な地図が書かれ
複数のポイントに赤い丸が記されている。

この一か月間で、航と紗代はポスティングのアルバイトを行いながら
地図を完成させていた。

最初は自分たちの仕事に活用する為だった。
だが・・・その地図を見ている内に、航はある活用法を思いついたのだ。
その作戦が上手く行けば、状況は一変するだろう。

しかし、その為には「あと一つ」大事な物が足りないのだ。

それを手にする為、航と紗代はこのアルバイトを始めたのだ。
今回の妙案にこれ以上最適な仕事は無いと判断していた・・・。
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