東京が消えたなら。

メカ

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27話 コンクリートジャングル

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数時間後

雨は止み、仄暗い街並みを男女が2人。
ホームレスの一団と別れた航と紗代が歩く。
・・・ジョージは、お世話になった人たちを見捨てられない。と
ヤマさんと口論になってでも留まる事を決めた。

「・・・ねぇ、コウちゃん。これからどうするの?
東京に戻った方が・・・。」

「ダメだよ!姉ちゃん!・・・ヤマさんの原稿通りなら
都内はもう・・・滅茶苦茶になる頃だ。」

ヤマさんの原稿にはこう記されていた。

「千葉を襲うであろう津波は、ほんの前哨戦に過ぎない。
富士山が噴火した後、灰に覆われた都内はライフラインを完全に失う事だろう。
その復旧にあたり、多くの問題点も浮き彫りになる。
水道管の老朽化による水漏れが各所で起こり、都内は至る所で
水浸しの状態が続くだろう。
都内の栄華など、地盤の上に築かれたハリボテに過ぎない。
地盤の下で起こる異変は、人々の想像を超えるだろう。
都内の直下に築かれた地下鉄。
これがなぜ安全であると言い切れるのか・・・。
自分たちの足元がスカスカであるという自覚が、果たしてどれだけの人間にあるだろうか。」

つまり、ヤマさんが危惧しているのは
度重なる地震や水道管の破裂・水漏れなどによって引き起こされる

「液状化」・「地盤沈下」だ。

近年記憶に新しく、都内で地盤沈下が起こった事は
皆の記憶にも新しい事だろう。

そして、その地盤の上に築かれた栄華こそ
我々の言葉で言う「コンクリートジャングル」である。

地盤の弱くなった土地が、一体
どれだけの規模の建物を支え続けられるか・・・。
そして、最悪の場合
その建物がドミノ倒しの要領で、周囲に被害を出さないと言い切れるのか?

こうなってしまったら、都内の復旧はどれだけの時間を費やす事となるか。

とはいっても、この時点で航は「思考が止まっていた」のだ。

・どの方角に逃げればいい?
・どう動けばいい?
・どこまで歩けばいい?

堂々巡りだ。

「・・・とにかく、群馬方面に逃げるんだ。」

「ぐ、群馬・・・?」

「そうだよ。富士山が噴火した以上、埼玉から移動するなら群馬だ。
そこからのルートは色々あるけど・・・本来は関西に逃げようって話だったけど
なぜか、ヤマさんは東北方面を目指してた!」

「そ、そんなぁ・・・。」

これは推測に過ぎないが、ヤマさんは長野方面を目指し、西へのルートを築こうとしたのだろう。
長野は広い上に、標高も高い。
それ故、溶岩などの影響も受けにくい事が想定される。

ではなぜ、埼玉に移って直ぐに長野を目指さなかったのか。
東京から最短で長野を目指すには山梨を経由しなければならない。
恐らく、この波乱が起きて尤も甚大な被害を被ったであろう場所だ。
交通規制などが掛かっていても可笑しくはない。
さらに、埼玉から長野を目指しても
山梨との境をスレスレで通る結果となろう。
上記と同じ理由が想定される。
故に、ヤマさんは内陸部を目指したのだ。

ただ只管に、歩き続ける二人・・・。
すれ違う人々には、生気すら感じない。
この一件で、生活に混乱が生まれたのは都内や山梨・静岡だけではないのだから。
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