東京が消えたなら。

メカ

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26話 雨、時々、決別

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コンビニから歩き始めて15分。
皆、口が重い。

災害が起きてからここまで、ただひたすらに歩き続けて来た。
県をまたいでの大移動。
疲弊の色が見えて来た。

遥か上空に圧し掛かる、重い雲のせいだろうか
数日前まで和気藹々と明るかったメンバー達も地面を見たまま表情が死んでいる。

「ねぇ、コウちゃん。皆ずっとこの調子なの?」

「ばっ・・・か!姉ちゃん、空気読めよ!」

小声で話しかけて来た紗代の言葉に、過敏に反応するも
この現状しか知らない紗代には理解も難しいだろう。

その時だ・・・。

腕に冷たい感触があった。

「ん?」

一瞬止まった航の頬に、もう一度・・・。

「ヤ、ヤマさん!雨だッ!!」

「何!?・・・皆の衆!急いで屋根のある場所に避難するぞ!」

皆、状況が飲み込めていない。
ただ、ヤマさんの気迫を前に「マズイ事が起こる」とだけの認識で
その「マズイ事」が何であるかは想像の外だ。

一喝に近い指示で、一行は近くに合ったマンションのエントランスへと逃げ込んだのだ。

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・。ん?サっちゃん達はどうした?」

サっちゃんと呼ばれているのは、メンバーの中で「佐藤さん」と呼ばれていた人だ。
彼は東京の元居た河川敷の近くで、多くの空き缶などを手に入れられるポイントなどを
知っていた古株の一人だった。
彼の手に入れた財源は、このメンバー達を何度も救っているほどの稼ぎであったという。

「それが・・・。」

「どうした、ジョージ君。」

「此処に避難する途中、何人か引き連れて別の方角へ・・・。」

「何だって・・・。」

「止めようとしたんですが・・・。」

「・・・まぁ、良い。去る者は追わず・・・だ。」

それから、5分も経たない内に雨は本格的に降り始めた。

強くなる雨、地面に打ち付ける音、吹いて来る冷たい風
・・・季節の変わり目がすぐそこまで来ている。

「・・・もうすぐ寒くなるな。」

「小坊主、ちょっと話がある。こっちゃ来い。」

「・・・?」

ヤマさんは、俺の腕を引きエントランスの端へと移動した。

「小坊主、姉ちゃんが持ってきた原稿。まだ持ってるな?」

「え・・・えぇ。此処に。」

「いやいや、あるならそれでいい。良いか、良く聞けよ、小坊主。」

原稿を取り出そうとした航の手を諫め
神妙な顔つきに代わり、話し始めた。

「ジョージ君と姉ちゃんを連れて、先に逃げなさい。」

「・・・へ?」

「此処から先、年寄りばかりには辛い体力勝負になる。
まだ若い3人なら、もっと早く安全な場所にも行けるはずだった。
ワシ等の世話まで見させてすまんかった。
いいか、雨が降りやんだらこの先の道はもっと過酷になる。
雨を含んだ灰は泥やコンクリートのような粘性を持ち始める。
そんな中を年寄りの面倒を見ながら避難するのは、酷な話だ。
一人二人の年寄りならいざ知らず・・・。
・・・とにかく、雨が止んだら先に行きなさい。」

「そ、そんな・・・お世話になった人を見捨てて行くなんて・・・。」

「いいんだ。・・・どの道このペースじゃ間に合わん。
その原稿の大筋通りなら、もっと酷い仕打ちが待っとる。
その前に!君らだけでも逃げるんだ。」

「・・・ヤマさん・・・。」

ヤマさんは、何かを懇願するように
航の肩を掴み、必死の訴えを揺らす。

航の視界に映る老人の顔は歪み、ぼやけていくのだ。
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