東京が消えたなら。

メカ

文字の大きさ
上 下
27 / 34
再投稿開始

26話 雨、時々、決別

しおりを挟む
コンビニから歩き始めて15分。
皆、口が重い。

災害が起きてからここまで、ただひたすらに歩き続けて来た。
県をまたいでの大移動。
疲弊の色が見えて来た。

遥か上空に圧し掛かる、重い雲のせいだろうか
数日前まで和気藹々と明るかったメンバー達も地面を見たまま表情が死んでいる。

「ねぇ、コウちゃん。皆ずっとこの調子なの?」

「ばっ・・・か!姉ちゃん、空気読めよ!」

小声で話しかけて来た紗代の言葉に、過敏に反応するも
この現状しか知らない紗代には理解も難しいだろう。

その時だ・・・。

腕に冷たい感触があった。

「ん?」

一瞬止まった航の頬に、もう一度・・・。

「ヤ、ヤマさん!雨だッ!!」

「何!?・・・皆の衆!急いで屋根のある場所に避難するぞ!」

皆、状況が飲み込めていない。
ただ、ヤマさんの気迫を前に「マズイ事が起こる」とだけの認識で
その「マズイ事」が何であるかは想像の外だ。

一喝に近い指示で、一行は近くに合ったマンションのエントランスへと逃げ込んだのだ。

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・。ん?サっちゃん達はどうした?」

サっちゃんと呼ばれているのは、メンバーの中で「佐藤さん」と呼ばれていた人だ。
彼は東京の元居た河川敷の近くで、多くの空き缶などを手に入れられるポイントなどを
知っていた古株の一人だった。
彼の手に入れた財源は、このメンバー達を何度も救っているほどの稼ぎであったという。

「それが・・・。」

「どうした、ジョージ君。」

「此処に避難する途中、何人か引き連れて別の方角へ・・・。」

「何だって・・・。」

「止めようとしたんですが・・・。」

「・・・まぁ、良い。去る者は追わず・・・だ。」

それから、5分も経たない内に雨は本格的に降り始めた。

強くなる雨、地面に打ち付ける音、吹いて来る冷たい風
・・・季節の変わり目がすぐそこまで来ている。

「・・・もうすぐ寒くなるな。」

「小坊主、ちょっと話がある。こっちゃ来い。」

「・・・?」

ヤマさんは、俺の腕を引きエントランスの端へと移動した。

「小坊主、姉ちゃんが持ってきた原稿。まだ持ってるな?」

「え・・・えぇ。此処に。」

「いやいや、あるならそれでいい。良いか、良く聞けよ、小坊主。」

原稿を取り出そうとした航の手を諫め
神妙な顔つきに代わり、話し始めた。

「ジョージ君と姉ちゃんを連れて、先に逃げなさい。」

「・・・へ?」

「此処から先、年寄りばかりには辛い体力勝負になる。
まだ若い3人なら、もっと早く安全な場所にも行けるはずだった。
ワシ等の世話まで見させてすまんかった。
いいか、雨が降りやんだらこの先の道はもっと過酷になる。
雨を含んだ灰は泥やコンクリートのような粘性を持ち始める。
そんな中を年寄りの面倒を見ながら避難するのは、酷な話だ。
一人二人の年寄りならいざ知らず・・・。
・・・とにかく、雨が止んだら先に行きなさい。」

「そ、そんな・・・お世話になった人を見捨てて行くなんて・・・。」

「いいんだ。・・・どの道このペースじゃ間に合わん。
その原稿の大筋通りなら、もっと酷い仕打ちが待っとる。
その前に!君らだけでも逃げるんだ。」

「・・・ヤマさん・・・。」

ヤマさんは、何かを懇願するように
航の肩を掴み、必死の訴えを揺らす。

航の視界に映る老人の顔は歪み、ぼやけていくのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

どうぶつたちのキャンプ

葵むらさき
SF
何らかの理由により宇宙各地に散らばってしまった動物たちを捜索するのがレイヴン=ガスファルトの仕事である。 今回彼はその任務を負い、不承々々ながらも地球へと旅立った。 捜索対象は三頭の予定で、レイヴンは手早く手際よく探し出していく。 だが彼はこの地球で、あまり遭遇したくない組織の所属員に出遭ってしまう。 さっさと帰ろう──そうして地球から脱出する寸前、不可解で不気味で嬉しくもなければ面白くもない、にも関わらず無視のできないメッセージが届いた。 なんとここにはもう一頭、予定外の『捜索対象動物』が存在しているというのだ。 レイヴンは困惑の極みに立たされた──

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

処理中です...