東京が消えたなら。

メカ

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25話 灰の街 3

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口論が続く事、15分。
外気に充満していた噴煙は晴れた。
だが、上空を覆うドス黒い雲は
相も変わらず光を奪い、外はまるで夕暮れの様な景色だ。
一面に降り積もった灰が、もの悲しさを助長している。

「おい、皆の衆!漸く頑固者から許可が下りた。必要最低限の物だけ頂いて避難の続きだ。」

すると、数名のメンバーがヤマさんの確認の下、食料品を袋に詰めた。

「藤崎さんだっけ?散々な物言いですまんかったな。必要以上に持って行く事はせんし
これから来る他のお客にも迷惑になる・・・わしらはお暇させてもらうでね。」

「・・・皆さん、どちらに向かわれるので?」

「・・・さぁなぁ。」

「皆さんもここで、安全を確保された方が・・・。」

「アンタ、根は良い人だなぁ。お言葉だけ有難く頂戴するよ。それに、もうしばらくすれば
アンタらもそれ処じゃなくなる。悪い事は言わねぇ。すぐに逃げ支度しな。」

ヤマさんの脳内にある「次なる脅威」。
「灰の雨」
実の所、ヤマさんの原稿には一つだけ「漏れ」がある。
それが
「比重」だ。
現段階の「灰」は見た目ほどの脅威ではない。
だが、此処に雨が加われば、1㎡四方に積もる灰の体積量は降水時間に比例し重くなる。
仮に雨が1時間降った場合、その比重は約2倍に及ぶ。

つまり、老朽化の進んだ家屋であれば水分を含んだ灰だけでも
充分に倒壊の恐れがあるということだ。
これは、あくまでも「灰が予想以上に積もって居れば」の話だ。
だが、侮れないのは此処からだ。

果たして、電線はどれだけの灰に耐えられるだろうか?

仮に、電線に堆積した灰が水分を含み断線したら?
単なる停電では終わらない。

灰は乾燥していればこそ「絶縁体」のような役割を担う。
しかし、ひとたび水分を含むと
灰が表面に纏う「火山性ガス」や、灰に含まれる「塩基性物質」などの働きで
電気を通す場合があるのだ。

つまり・・・条件さえ整ってしまえば
電線が切れた時点で、その周囲は高圧電流の流れる絨毯が引いてあるのと同じだ。

この様に、最悪の場合が重なれば
この周辺すらも、一瞬にして死地へと変わるだろう。

これ以上、状況の悪化が進まない内に
より安全な場所を求め移動する方が賢明だろう。

だが、決して忘れてはならない。
このような場合において「行動する」という事は
大喜びで「リスク」を拾いに走る様な物だ。

重要なのは、常に情報を更新し続ける事である。
情報に左右されるのではなく
情報を得た上で、理論・理性を元に状況を判断して欲しい。

地震が来れば「逃げ道を確保する」
津波が来れば「高台を目指す」

地震の際
「とにかく隠れればいいや」と考えてはいないか?
隠れた結果、扉や窓が歪み「脱出不可能」となるケースは多い。

津波の際
「急いで避難。皆と同じ方向へ!」などと一人焦っては居ないか?
そのルートは本当に安全か?何処を目指しているのだ?自分の場所から最短の安全地帯は?

思考を止めてはならない。
考え抜き、行動し、正しい判断をした者が助かるのだ。

航は、灰に染まった街を眺めながら逃げ支度を整えた・・・。
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