東京が消えたなら。

メカ

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21話 卑屈な老人

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「思い出したぁ!」

暫く考え事をしていた紗代は
ヤマさんを指さし大声で叫んだ。

「貴方!『今岡 泰山』さんでしょう!?」

「・・・?」

「ほら!これ!」

紗代はカバンから原稿を取り出し、皆に見せる様に突き出した。
それは、紗代が千葉から逃げる際、手にしていた原稿だ。

「火山性微動」についてまとめられた原稿だ。

「随分と古い物を・・・。」

「何年も前、ローカルメディアで何度も取り上げられた占い師。
それが今岡泰山。でも、ある時からぴたっと芸能活動が途絶えた
知る人ぞ知る有名な占い師!・・・貴方が芸能界から去っても占って欲しいと
何人もの芸能人がこぞってあなたの事を調べてた、その人!」

「紗代姉ちゃん・・・?」

「これが世紀末って事ね・・・。泰山先生!この後、我々はどうなるんですか!?」

紗代は興奮冷めやらぬまま、薄汚れた老人に詰め寄る。

「ちょ、ちょっと姉ちゃんってば!」

「・・・下がってな、小坊主。」

その間に割って入った航をヤマさんは横にずれ込み入って来た。

「嬢ちゃん、悪いがもうそっちの家業からは足洗ったんだ。出直して来な。」

「いいえ、退きませんよ!この原稿。これがあったからこそ
私は今ここに生きてます!貴方は本物です。・・・教えてください!」

「生意気言ってんじゃねぇぞ!小娘がァ!いい加減にしろ、どいつもこいつも!」

その時、あの温厚なヤマさんが本気で怒った。
紗代の手にしていた原稿を叩き落とし、彼女を押し退け奥へと姿を消した。

凍り付いた場、暫く続いた沈黙。
そこへジョージがやって来た。

「紗代さん・・・だっけ?職業柄なのか知らないが・・・当分、ヤマさんには
近付かない様にしてくれ、な?」

「・・・。」

「姉ちゃん、ちょっと頭冷やしに行こう。」

航は紗代の腕を掴み、その場を後にした。

「姉ちゃん、何であんな事を・・・。」

「これ・・・見て。」

「火山性微動で起こる超災害・・・?」

「ヤマさんが数年前に、テレビ局に送った原稿よ。
それを元に特番を組むはずだった。・・・でもテレビ局は相手にしなかったのよ。」

「どういう事?」

「その原稿に書かれている災害。それがあまりにも現実離れしていたから
当時の人たちは鼻で笑っていただけだったのよ。」

だが、紗代の言葉とは裏腹に
その原稿に書かれた内容は、今までに体験してきた災害と
酷似する経緯を辿っていた。

「・・・これ・・・すごいな・・・。」

「でしょ?・・・でも当時の人たちの反応は違った。
泰山先生を『ペテン師』と呼ぶようになったのよ。それまでの成果もヤラセだと決めつけて。」

「・・・そして、芸能界を干された・・・?」

「そう。表向きは先生が有名になった事で
占いに来る客を捌き切れなくなったからだって事になったわ。
でもその実、泰山先生は殆どのお客を予約制にして上手に管理されてたのよ。
そんな事があったせいね
先生は、大のメディア嫌いになってしまって取材に訪れる面々を一蹴するほどになったわ。」

卑屈な老人。
航は何故か、その老人が自分と重なって見えていた・・・。
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