東京が消えたなら。

メカ

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19話 追走 2

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役所で聞き込みを開始して早二日。
写真の人物を見た・知っているという者は
役所の職員には誰一人居なかった。
・・・否、この状況だ。日に何十何百という顔を見ている場だ。
その中から、たった一人の記憶など無いに等しい物かもしれない・・・。

役所外に設けられた休憩所で女は項垂れる。

暫く考え込んだ後、女は吹っ切った様に立ち上がり
今度は役所外で慌ただしく動く人々に声を掛けて回った。

「勘弁してくださいよ。さっきから。知らないって言ってるじゃないですか。」

「っな!・・・ちゃんと見もしないで知らないって、どういう事ですか!?」

「お姉さんさぁ、今の現状分かってる!?配給だの炊き出しだの待ってる人が山の様に居るの!」

「だから、写真だけ見てくれればそれで良いからってお願いしてるんじゃないですか!」

「家族だか知り合いだか知らないけどさ!俺達だって身内の事心配しながらボランティアしてるんだ!
一々、人探しなんか構ってられるかよ!アンタも今、自分に出来る事探せよ!」

「何よ、もう。此処には頭でっかちしか居ないの!?この人でなし!!」

女は手当たり次第に声を掛けては小競り合いになっていた。
徐々に上がるボルテージ、厚さの中で溜まるストレス・・・もう、今にも爆発寸前だ。

だが、そこに一人の青年が声を掛けて来た。

「あのぉ・・・。」

「何よ!!」

「あ・・・いやすみません・・・。その人、知ってるかも。と・・・。」

「っえ!」

「写真、ちらっとしか見えなかったので何ともですけど・・・。」

「ホ、ホラ!よく見て!」

「あぁ・・・。やっぱりだ。」

「?」

「この人、地震の直後にここで揉めてたホームレスと何処かに行きましたよ。」

「ど・・・どういう事・・・?」

青年は語る。
この広場で、ホームレスが助けを求め騒ぎ立てていた事。
そして、それを追い払うよう指示を受けていた事。
それを見兼ねた写真の男が、ホームレスに話しかけ
その場にいた面々に毒を吐いて配給所を後にした事。

「あ、あの時は皆パニックで・・・あれ以上の厄介事は抱えたくなかったって感じで・・・。
ホームレスを追い払おうって算段が役所の職員から・・・。」

「・・・それで、彼は何処に?」

「すみません。そればっかりは・・・。」

自身が間違っていると思う事には、必ず悪態を付く・・・まさしく彼だ。
昔から変わらない。
芯は優しいのに、人からはその悪態で嫌われる。

昔、公園でいじめられていた年下を庇い、相手を追い払った。
でも、彼はその年下の子にも
「自分が弱いせいだろ!」と追い打ちの様な言葉を掛けた。

でも私は知っている。
それは「彼自身の経験」なのだ。

昔から周囲に馴染めなかった彼は、よくいじめられていた。
しかし、何時しか彼はその対象にもならなくなった。

それは単に、彼の信念の強さと周囲の興味が削がれたからだ。

あの子は、何時でもそう。
負けたって最後まで立っている様な子。
今もきっと・・・どこかで立ち続けているはず・・・。
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