東京が消えたなら。

メカ

文字の大きさ
上 下
18 / 34
再投稿開始

17話 二つに一つだ。

しおりを挟む
「航君・・・航君!」

「・・・ジョージさん。」

「どういう事なんだ?千葉に行きたいだなんて。」

「それは・・・。」

俺は、学生から聞いた話・千葉に知り合いが居る事・その知り合いが恩人である事を
その場にいた一行に話した。

「そうか・・・近所のお姉さんが・・・。」

「ヤマさん、どうにかしてやれんのかね?」

「しかしなぁ・・・。」

「なんだよ!航ちゃんだって俺達の恩人じゃねぇか。それなのに見捨てるのか?ヤマさん!」

「ん~~。」

一行の中には、千葉行きを強く肯定する者も居たが
ヤマさんの顔色は変わらない。

「小坊主、ここで悩んでも仕方ねぇ。二つに一つだ。自分で決めな。」

ヤマさんの出した提案・・・それは

「ここでワシ等と分かれて千葉へ向かうか、ワシ等と共に安全圏に向かうかだ。」

「そりゃないぜ!ヤマさん。俺達の恩人を一人で行かせようってのか!?」

「ジョージ君は黙っとけ!・・・これは一人の男の決断じゃけの。」

二つに一つ?・・・選択肢など無いに等しいじゃないか。
今、千葉に向かった所で、何日掛かる?
そして、紗代姉ちゃんの正確な居場所は?
そもそも、津波に飲まれた街に出入りできるのか?

・・・ヤマさんはきっと、俺を試している。
この混乱の続く状況下、物事を冷静に見て動けるかどうか・・・。
大人としての対応が取れるのかどうか・・・。

「・・・ヤマさん・・・ありがとう。・・・一緒に、行くよ。」

その一言を、俺は喉の奥底から絞り出した。
気を抜けば、喉から言葉ではなく心臓が飛び出しそうだ。
「どうしよう」その一言しか、頭に浮かばない。

その一言を絞り出した時、ジョージさんを初め、千葉息を肯定してくれた人々が
「良く言った」と肩を寄せた。
同時に、溢れる涙をどう抑えるべきなのか・・・分からなかった。

何時ぶりだろうか・・・
声を上げて泣き喚いたのは・・・。
項垂れる俺の手を、最後に握ったのはヤマさんだった。
力強く握られたその手には・・・
意志の強さ、これまで生き抜いてきた重み、選択し歩んできたタフさ。
その全てがどれを取っても、圧倒的に大きい。

「行くぞ、小坊主。」

「・・・はい。」

暫く歩き、一行はその日の宿に着いた。
宿と言えば聞こえはいい。だが、その実
とある神社の隣に位置する空き地であった。

神社の境内などには、水道などが備わっている事も有る。
彼等ホームレスにとって「水」は貴重だ。
どこにでもありそうな物だが、いざ探すと見つからない。
それが「水道」だ。
すぐすぐ手に入る物こそが、実は一番大事な物なのだと
彼等と共に過ごし、気付かされる。

そして、彼等の他愛もない冗談を聞きながら、余は更けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうぶつたちのキャンプ

葵むらさき
SF
何らかの理由により宇宙各地に散らばってしまった動物たちを捜索するのがレイヴン=ガスファルトの仕事である。 今回彼はその任務を負い、不承々々ながらも地球へと旅立った。 捜索対象は三頭の予定で、レイヴンは手早く手際よく探し出していく。 だが彼はこの地球で、あまり遭遇したくない組織の所属員に出遭ってしまう。 さっさと帰ろう──そうして地球から脱出する寸前、不可解で不気味で嬉しくもなければ面白くもない、にも関わらず無視のできないメッセージが届いた。 なんとここにはもう一頭、予定外の『捜索対象動物』が存在しているというのだ。 レイヴンは困惑の極みに立たされた──

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...