東京が消えたなら。

メカ

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17話 二つに一つだ。

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「航君・・・航君!」

「・・・ジョージさん。」

「どういう事なんだ?千葉に行きたいだなんて。」

「それは・・・。」

俺は、学生から聞いた話・千葉に知り合いが居る事・その知り合いが恩人である事を
その場にいた一行に話した。

「そうか・・・近所のお姉さんが・・・。」

「ヤマさん、どうにかしてやれんのかね?」

「しかしなぁ・・・。」

「なんだよ!航ちゃんだって俺達の恩人じゃねぇか。それなのに見捨てるのか?ヤマさん!」

「ん~~。」

一行の中には、千葉行きを強く肯定する者も居たが
ヤマさんの顔色は変わらない。

「小坊主、ここで悩んでも仕方ねぇ。二つに一つだ。自分で決めな。」

ヤマさんの出した提案・・・それは

「ここでワシ等と分かれて千葉へ向かうか、ワシ等と共に安全圏に向かうかだ。」

「そりゃないぜ!ヤマさん。俺達の恩人を一人で行かせようってのか!?」

「ジョージ君は黙っとけ!・・・これは一人の男の決断じゃけの。」

二つに一つ?・・・選択肢など無いに等しいじゃないか。
今、千葉に向かった所で、何日掛かる?
そして、紗代姉ちゃんの正確な居場所は?
そもそも、津波に飲まれた街に出入りできるのか?

・・・ヤマさんはきっと、俺を試している。
この混乱の続く状況下、物事を冷静に見て動けるかどうか・・・。
大人としての対応が取れるのかどうか・・・。

「・・・ヤマさん・・・ありがとう。・・・一緒に、行くよ。」

その一言を、俺は喉の奥底から絞り出した。
気を抜けば、喉から言葉ではなく心臓が飛び出しそうだ。
「どうしよう」その一言しか、頭に浮かばない。

その一言を絞り出した時、ジョージさんを初め、千葉息を肯定してくれた人々が
「良く言った」と肩を寄せた。
同時に、溢れる涙をどう抑えるべきなのか・・・分からなかった。

何時ぶりだろうか・・・
声を上げて泣き喚いたのは・・・。
項垂れる俺の手を、最後に握ったのはヤマさんだった。
力強く握られたその手には・・・
意志の強さ、これまで生き抜いてきた重み、選択し歩んできたタフさ。
その全てがどれを取っても、圧倒的に大きい。

「行くぞ、小坊主。」

「・・・はい。」

暫く歩き、一行はその日の宿に着いた。
宿と言えば聞こえはいい。だが、その実
とある神社の隣に位置する空き地であった。

神社の境内などには、水道などが備わっている事も有る。
彼等ホームレスにとって「水」は貴重だ。
どこにでもありそうな物だが、いざ探すと見つからない。
それが「水道」だ。
すぐすぐ手に入る物こそが、実は一番大事な物なのだと
彼等と共に過ごし、気付かされる。

そして、彼等の他愛もない冗談を聞きながら、余は更けていった。
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