東京が消えたなら。

メカ

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14話目 津波

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県境から歩く事、早丸1日。
一行は埼玉県の霞ヶ関に居た。
思えば、地震発生から既に4日目だ。

県を一つ、内陸部に進出しただけでも
直ぐに分かる・・・被害の少なさ。

東京でみた地獄絵図と打って変わって
埼玉の人間たちは何てことない日常を過ごしていた。

勿論、被害が全くなかった訳ではない。
道すがら、古民家では瓦屋根が落ち、散乱している家もあった。
団地のマンションでは、外壁にひびが入った。と業者が修復作業に取り掛かる。
所々に植樹されている木も
車などが衝突したのか、根本から折れていたりもする。
何よりも
歩いている遊歩道のブロックがデコボコと浮き上がっている。

「・・・液状化か。」

人が歩く分には気を付ければ問題ないだろう。
しかし、生活必需品を携えた荷車には、少し厳しい道のりだ。

「ねぇヤマさん?あれからもう4日だよ?東京も落ち着いたと思うし戻ろうよ。」

「・・・ダメだ。」

「何でさ?きっと大丈夫だって!」

「・・・ダメなんだ。・・・東京はもうじき・・・無くなる。」

「え?」

「本当なら、東北か関西に逃げたい所だが・・・俺達の足じゃ無理だ。」

「どういう事さ?」

「これからもっと恐ろしい事が起きる。」

この4日間で、尤も怯えた表情を見せたヤマさん。
その青ざめた表情が脳裏に焼き付いた。

「とにかくだ、今日の野宿先をそろそろ探さにゃならん。皆で手分けして当たってくれ。」

ヤマさんの指示の元、数名のメンバーが方々へと散った。
今回は航も、その捜索班の一人であった。

とは言っても、見知らぬ土地だ。
右も左も分からない。
沿線から離れ、国道を進んできた為に、どっちの方角に駅があるのかすら・・・。

その時、航を襲ったのは
言い表し難い「不安感」「焦燥感」だった。
それが「孤独感」だった事に気付いたのは、もっと後になってからだ。

途方に暮れながら道を歩いていると、部活帰りの学生が2人。自転車に乗りやって来る。
チャンスに思い、声を掛けようとするも
何と質問すれば良いのか、言葉に詰まった。

「野宿したいから20人位で使える空き地を教えてくれ。なんて言えないよなぁ・・・。」

しかし、その時だ。
学生たちの話す言葉が、航を突き動かしたのだ。

「ちょ、ちょっと!君達!」

「ん?・・・なんすか?」

「今・・・津波が合ったって言ったよね⁉」

「え・・・えぇ。」

「どこで!」

「ち、千葉の・・・南房総付近です・・・けど。」

「なんだって・・・。」

目の前が真っ白になった。

呆然と立ち尽くす航を気に掛けながらも、学生たちは会釈で去っていく。

「・・・紗代・・・姉ちゃん。」

航はその後、どの様にして一行の元に戻ったか覚えていない。
戻って来た廃人のような航を、ジョージが肩を揺すりながら問いかけるまでは・・・。
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