東京が消えたなら。

メカ

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12話目 本性 1

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阿鼻叫喚の大通りを、顔色一つ変えずホームレスの一団は進む。
その異常性も、現代社会において
彼らのような存在を見て見ぬ振りして通る「自称一般人」のソレと変わらない。

都合の悪い物は見ない・触れない・近寄らない。
そうして出来た「暗黙の了解」。

「おい!あんたら、無事ならこっち手伝ってくれよ!」

道路を挟んだ対岸で、怪我人に手を貸す男性が叫ぶ。

だが、ホームレスの一団は見向きもしなかった。

「おい!お前ら!」

「・・・ヤ、ヤマさん?行かなくていいの?」

「放っておけ。こういう場でこそ人の本性は直ぐに現れる。・・・波に飲まれるな。」

「で、でも。」

後ろ髪惹かれる航の耳に、その声は響いた。

「ッチ、ホームレスの分際でよぉ!おめぇ等がくたばりゃ良かったんだ!」

「!」

「振り返るな。」

「ジョージさん・・・。」

「数年前の僕なら同じ事を言っていた自信がある。でもね。先に蓋をしたのは彼等だ。」

「だ、誰が先にとか言ってたら延々と終わらないよ!」

「僕らは!・・・僕らは明日を生きるのもやっとなんだ。彼等を助けて明日を生きられるのか?」

「・・・。」

そうだ。所詮、被災者を救った所で感謝こそされど
ソレが形になる事は無い。
形になったとしても「感謝状」だとかその程度の事で・・・。
自分たちが、今「一番欲しい物」は手に入らない。

「チンタラするな。先を急ぐぞ。小坊主。」

「・・・はい。」

大通りを抜けるまで、我々は白い目で見られ続けた。
それはきっと、彼らが毎日浴びている視線と何ら変わらない物なんだ。

そして
一行は、駅の近く。沿線沿いまでやって来た。

「これからどうするんです?」

「簡単さ。沿線に沿って埼玉方面に向かうのさ。」

とは言え、既に日も高い。
高温の続く中、只管にアスファルトを辿るのは苦行でしかない。

「ジョージ君。新ちゃんに頼んで空き地を探してもらおう。そこで一休みだ。」

「分かりました。僕も行ってきます。」

「あぁ。頼むよ。」

「ジョージさん、俺も行きます!」

数十分後
小さな公園を見つけた一行は、かなりの手際の良さで
簡易的な休憩所を作ってしまった。
大きな木の近くに、何処から拾って来たのか
園芸用の支柱を刺し
木の上から、ブルーシートを貼り支柱と結ぶ。
こうする事で、簡単に日影が出来たのだ。

「皆、水は貴重だ。そこの水道が使えるなら、そっちを優先して使え。
出発の前には、水を満タンに準備しておけよ?」

彼等にとって、移動しながらの生活など
何の苦にもならないようだ。
その逞しさに、航は興奮していた。
まるで、キャンプでもしているかのように。

延々と続く、怠惰な日常よりも
遥かに生きがいを感じる。
各々が役割を持ち、足りないものは誰かが担う。
やっている事は、日常の生活と何一つ変わらないはずだ。
なのに、航にはそれが初めて見る光景の様に輝いて見えていた。
目的もなく働くのではない・・・。
金の為に動くのではない・・・。

そんな彼らが、誰よりも生き生きとした立派な大人に見えたのだ・・・。
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