東京が消えたなら。

メカ

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9話目 本震

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ヤマさんの予言。
それは、近い内に前回の震度を越える大きな地震が発生する。というものだ。
それに際して、避難の準備に取り掛かれ。と言うのが
このコミュニティーに伝わった指示である。

「小坊主、おめーさんもだ。今のうちに備えを作っておけよ。」

「・・・分かりました。」

一度は、その予言めいた占いに救われた身だが
未だ信じ切れていない自分が居るのは確かだ。
だが、電気もねぇ、水もこねぇ。の状態だ、備えは作っておいて損はない。

結果的に言えば
1週間を過ぎても、地震が起きる事は無かった。

「ヤマさん。いる?」

「ん?・・・小坊主か。どうした?」

「一応、備えは作っておいたけどさ・・・。本当に、地震来るの?」

「占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦と言う。気を長く持てよ?」

「うん。・・・そうだ、ヤマさん。千葉の事何か知らない?」

「なんだ?急に。」

「ネットのニュースじゃ東京の事が主に流れるだけで・・・千葉に知り合いが居るんだよ。」

「なるほどなぁ。2,3日前に聞いた話だと、千葉にはそんなに被害はないそうだが・・・。」

ヤマさんは、千葉の被害について、少し言葉を濁すようだった。

「とにかく、その知り合いの事は今は・・・な。」

その言葉を体現するように・・・3日後。

首都直下地震。
震度7強が未明の都内を襲った。

人間
大きな揺れの前では、立つことすらままならないようだ。
左右に揺れる部屋
這うようにしか行動が出来ない。

本棚は倒れ、食器は割れ
部屋は一瞬にして廃墟のような様相を呈した。

窓ガラスも割れ、外からは悲鳴が・・・。

揺れが収まり、外を見ると
遠巻きに黒煙が見えた。

寝ぼけた顔に喝を入れ、状況を整理しようと部屋に視線を戻すも
脳内は既にパニックだ。
おろおろと、電源の付かないテレビを点けようとしたり
割れたガラスを処理しようとしたり
そんな事をしては我に返り、避難しなければと脳裏に浮かぶ。

持てるだけの荷物を持ち、航が向かったのは
避難所ではなかった。

「・・・ジョージさん!」

「航君!無事だったか。いやぁ、大変な揺れだったねぇ。僕等もこれから避難するところだ。」

「い、一緒に行ってもいいですか!」

「あぁ。勿論だよ。」

27にもなって、誰かに縋りつくなど・・・後から考えればみっともない事だが
その時、真っ先に過ったのが、このコミュニティーの人々だった。
経緯はどうあれ、彼らは自分よりも経験の長い大人だ。
何より、自分の親とそう変わらない年齢の人物もいる。
追い縋り教えを乞うには、今の航には一番身近な存在だった。

「とりあえず、こっちでゆっくりお茶でも飲んで落ち着いて。
今、ヤマさんが対岸のコミュニティーと連携を図って避難場を決めてるから。」

「・・・はい。」

傍から見れば、不思議な光景だろう。
青年が一人、ホームレスに助けを求め、駆け込んできた光景など・・・。

・・・だが、形振りなど構っては居られなかったのだ・・・。
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