東京が消えたなら。

メカ

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7話目 どちらが憐れだ?

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「ジョージさん、お待たせしました。」

「ありがとう。航君。・・・話は歩きながら。」

「えぇ。」

ジョージは、自身の身に起きた被害について語り出した。

あの地震の後、彼の住んでいる陸橋下の河川敷では
次々と、家が崩落したらしい。
家といってもホームレスだ。段ボールやビニールシートで構成された簡素なものだ。

家が崩落し、気付かされたのは
家を構成する素材の各所に風化による痛みが発生しており
それをそのまま活用し、家を再構築するという事が不可能だったという。
しかも、一つ二つではない。
ジョージの確認した所、5人以上の家が同じ状態なのだという。

「火急的に、素材を集めてもう一度建て直したい所なんだけどね。
如何せん、素材が集まらなくてね。」

「それで、助けを?」

「あぁ。彼等からすればゴミ同然の物だろう?だからそれを活用させてほしい。と
懇願していたんだ。」

「・・・なるほど。」

「そこの角を曲がれば河川敷だ。」

現場に着いた航は、目を疑った。
普段何気なく通る道だった。
だが、その下では、凡そ10人以上の人間たちが
今日明日を必死に生きていたのだ。

「え・・・こ、こんなに・・・。」

対岸にも同じようなコミュニティーが出来ている。

いままで、なぜ気付かなかったのか・・・。
簡単だ。
外に出ていた頃は、車を乗り回し、ゆっくりと外を見て歩くなどしていなかった。
道行くホームレスを一人二人見つけたとしても
「汚ねぇな。」とか「あぁはなりたくねぇ。」など思い
見て見ぬ振りを決め込んでいた。
フリーになってからは、家に篭り
外など見ない生活だった。

その一瞬、役所近くの広場にいた連中を思い出した。

『・・・俺も、その一人だったじゃねぇか・・・。』

自分の行った行為が、最大級のブーメランとなって胸に刺さる。
なまじ正義ぶって手を差し伸べてみたが
顔からは火が噴き出しそうな程、申し訳なかった。

「おぉ、ジョージさん。素材集まったかい?」

「新ちゃん!いやぁ、からっきしだよぉ。でも彼が手伝ってくれるって。」

「ん?その子が?」

「あぁ、役所前で煙たがられてた所に声を掛けてくれてなぁ。若いのに立派な子だよ。」

辞めてくれ。
俺はどこか、悦に浸りたかっただけなのかもしれない。
自分より下がいて、ほっとしたのかもしれない。
社会への恨みを、あの場の誰かにぶつけたかっただけかもしれない。
悶々とした毎日の想いを吐き出したかっただけかもしれない。
俺は、貴方がたが言う様な「立派」な人間ではないのだ。
・・・だから・・・辞めてくれ。

「いや、感心だ。ありがとうねぇ、あんちゃん。」

初老の男性から差し伸べられた手を、俺は直ぐには握り返せなかった。
その手を握ってしまえば、罪悪感に蓋をしそうで・・・。
いままで「あえて」見てこなかった彼等を・・・。
無意識に、卑下し距離を取っていた事を・・・。

「ほら、恥ずかしがるなよ。すまんが、よろしく頼むわな!」

初老の男は、強引に手を掴み、握手をした。

「よ・・・よろしく、お願いします。」

「お、おい、何だい!泣くこたぁねぇだろ!?そんなに嫌だったか?」

「い、いえ・・・。頑張りましょう・・・。」

今度はこちらから、男性の手を強く、握り返した。
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