東京が消えたなら。

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6話目 村田 ジョージという男

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最初の地震から2日が過ぎた。
相変わらず、都心部の一部では断水・停電が続いていたが
人々は、その2日で平穏を取り戻した。

突如襲った不便をぼやきながらも
人々は、何食わぬ顔で日常に戻る。

朝8時。
外を行く子供の声で、航は目を覚ます。
余程寝苦しい夜だったのか、鏡の前に映る自身の姿に一瞬驚いた。

シャツは汗でびしょ濡れ、髪はボサボサ
目の下にはクマが見え隠れしている。

当然だ。
航の家も停電の区域に入ってしまった為に
この2日間、エアコンなどない生活だ。
幸い、断水は逃れる事が出来たが、1ブロック先の家では
断水に停電のダブルパンチだそうだ。

洗面所の蛇口を捻り
生温い水に頭を突っ込み、髪を整える。
次第に冷たくなる水に、歓喜だ。

昨日の夕方から、近場の役所や病院・避難所などで
配給が行われている。

航は、身だしなみを整え、その配給の時間に合わせ、家を出た。

この配給で、航は「ある男」と知り合う。

その男は50代後半で、とても普通とは言えない身なりだった。

「おい、誰か!手伝ってくれよ!誰でも良いからさぁ!」

男は、配給所の真ん中で、人々に対して助けを求めていた。
・・・だが
配給に並ぶ人々は、聞く耳すら持たない。

その男の身なりが問題なのか?
それとも「自分の事で精一杯」か。
はたまた、両方か。

男の周りは、まるで見えない壁でも貼られているかの様に
不自然な間が設けられていた。

暫く、男の動向を見ていた航だったが
虚しい現実が航の目に映る。

「・・・あのぉ~。申し訳ないのですが、他の方のご迷惑になりますので・・・。
配給などの御用がないのでしたら・・・お引き取りを。」

騒ぐ男に、おずおずと近寄って行ったのは
配給ボランティアの青年だった。

「何ィ⁉ここじゃ助けを乞うてはいけないってか‼」

「み、皆さん困っているのは同じなので・・・。」

「ふざけるな!生活できるだけの余裕があって、雨風しのげる屋根があるだけ上等だろうがッ!
こっちは毎日、生きるか死ぬかだっつーの!ちょっと地震が起きた位で騒ぎやがって!」

やはりというべきか、男はホームレスだったようだ。
ボランティアの青年にも同情するが
俺がもっと、心が痛んだのは、大の大人一人が必死になって助けを求めている一方で
その声に見向きもしない「自称一般人」の連中だ。

「おじさん。」

「あぁ?・・・な、何だよ。兄ちゃん。」

「俺が話聞くよ。その前に配給だけ貰うから、待っててくれませんか?」

「・・・良いのかよ?」

「こんな時だからこそ、助け合うのが普通でしょ?」

俺は、現場の誰もに聞こえる様に、言い放った。

「分かった。・・・兄ちゃん。ありがとうな。入り口で待ってるからよ。」

「えぇ、直ぐ向かいますから。えっと・・・お名前は・・・?」

「ジョージって呼んでくれ。村田 ジョージ。宜しく。」

「分かりました、俺は航って言います。成瀬 航。・・・それじゃ、ジョージさん、また後で。」

「・・・おう・・・。」

そうして、2人は一度解散するのであった。
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