東京が消えたなら。

メカ

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1話目 成瀬 航という男

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東京都某所に住む「成瀬 航」。
年齢 27歳。
独り暮らしで、フリーランスとして働いていた。

20歳になると同時に、実家を出て
ある会社の事務員として働いていた。

24歳で脱サラを決意。
幸いにも、パソコンやスマホには滅法強かった。
仕事を辞めた後も、一定の生活水準を築きつつ
自宅でニート同然の生活をしていた。

一度、この味を知ってしまうと、もう辞められない。
外に出て働く。など馬鹿らしくなっていた。

朝、8時
朝食の為、食パンを焼きジャムを塗る。
コーヒー片手に机に向かう。

テレビから聞こえてくる声は、些細な日常を大げさに語るアナウンサー。

「・・・何処の動物園で何が生まれた所で・・・何も珍しくもねぇよ。」

朝一番、口を突いて出た言葉が
テレビに向かって言う愚痴だとは・・・。
我ながら、虚しい気もする。

だが・・・俺の生活には
趣味も目的もなかった。

ただ仕事をして、金を稼いで、明日を生きられればそれでいい。

部屋の明かりを消し、カーテンに手を伸ばす。
隙間から入って来るのは
目に刺さる太陽光だ。

少し離れた場所から、子供のはしゃぐ声と走り回る音が聞こえる。

「ったく、静かに登校もできんのかねぇ、最近のガキンチョは。」

自分の事など、棚よりも遥か上だ。

かつては、自分も。
あんな風に無邪気だった。
大人になるにつれ、落ち着きを知った。
社会人になって、重責を知った。
フリーになって、世の矛盾を知った。

朝一番の駅のホーム。
人ごみの少ない乗り口を探し、乗車。
その後、次々に乗って来る同じような服装の人間たちに
押しつぶされるかのように端へ端へと寄せられていく。

荷物が人の邪魔にならない様に、気を使い
自身の手足が、女性に触れない様、気を回し
自身が降りる場で降りられるよう、気を張って
そして、1日が終わる頃には、気が疲れて

1日分、たかが知れている日当を稼ぐ日々。

ウンザリだ。

フリーランスになった事で
1日に稼げる日当は、自身の実力次第。
誰かさんが、電車に揺られている間も、稼ぐことは十分に可能だ。

考えても見ろ。
自宅から職場まで、片道30分としよう。
往復で1時間だ。
その分の給料は出ているのか?
交通費?バカ言うんじゃないよ。そんなんで一時間分の給料になるのか?
週5日で5時間だぞ?
月にして見りゃ20時間だ。
年単位でいうなれば240時間近い。
Ⅰ時間1,000円の自給として、24万だぞ?
1年で24万をドブに棄てている様なものだ。

それに気付いた時
社会人として真っ当に働いている事が、急に馬鹿馬鹿しくなったわけだ。

コーヒーを机に置き直し、席に着くと
男はテレビを消し、朝食を摂るのだった。

成瀬 航という男は
鬱屈とした思考と斜に構えた性格の男であった・・・。
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