骸行進

メカ

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筆者(メカ)の経験談。

「ねぇ」

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今回の話は、筆者のメカが24歳ごろの時に経験した話である。
私は二十歳頃に、精神的に参り一時期引きこもっていた事がある。
しかし、そんな中でも自身に鞭打ち、働いていた職場での事だ。

その職場はとある介護施設である。
其処には、自分よりも二つ年上の男性が居た。

彼もまた・・・厳しくなりつつある世の中に折れてしまった一人だった。

彼は、元々とある工場で働いていたそうだ。
だが、職場での人間関係は最悪。過酷ないじめに3年耐えたそうだ。
そんなある日、彼は「鬱」になった。

彼は元々、お婆ちゃんっ子だったそうで
社会復帰も兼ねて、介護に興味をもったそうだ。

そんな彼と仲良くなるのに、時間はかからなかった。

しかし、彼はお昼ごろの2~3時間だけの勤務であった。
我々介護士が巡回やおむつ交換などに出払っている間
ホールで担当の職員と共に見守りを行う事とお昼の準備が彼の主な仕事だった。

だが・・・そんなある日の事だ。
私がホールの担当となり、彼を手伝っていた時の事だ。

ふと背後から耳元に掛けて、低い女性の声で「ねぇ。」と聞こえたのだ。

私は最初、利用者が呼んでいるのかと思ったのだが
その時間、何時もホールに居るのは、元気のいい男性二人だけである。

ふと、彼の方を見ると
彼もその正体不明の声が聞こえたらしく
仕切りにきょろきょろしていた。

近くで誰かが倒れていたりしたら大事だ。
「ちょっと見てきますね。」
そう言い残し、廊下なども探したが声の主は居なかった。

その日から正体不明の声が聞こえる頻度は増し
最初は一日に1~2回だったものが
最終的には10分に一度の割合で聞こえるようになった。

そして、その声に聞き慣れを覚えて来た私は
漸く、その原因が分かり始めて来た。

・・・声は、彼が居る時にしか聞こえていない・・・のだ。

しかも、その声の主はただ呼びかけているだけではないのだ。

「何かを言っている・・・。」漸くその真実に気付いた時
彼は、施設でもかなり浮いた存在になってしまっていた。

恐らくは、その声が聞こえている故に
集中力が無くなり、失敗も増えていたのだ。
挙句、食事制限のある人などの食事も間違えて運んでしまったり・・・。
都度、看護師からは強烈な注意を受ける様になっていた。

そして・・・半年がたった頃。

彼は、突然仕事を辞めた・・・。

私が、なぜ彼が「鬱」になるまで追い込まれたのか
その全てを悟った時にはもう・・・遅かった。

我々に聞こえていた女の「ねぇ」という声。

・・・それは「死ねぇ」と耳元で囁いていたのだ。

恐らく、彼は
初めて就いた工場の現場で、何か良くない物を拾ってしまったのではないか?
その結果、彼は急激に追い詰められていったのではないか?

今となってはもう
彼にその事を伝える術もない・・・。
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