骸行進

視える友人「絢女」の話

夜逃げ その２

大家が抱いた違和感の正体。
それは、恐らくは大家にしか分からないものであっただろう。

絢女によって聞き取りされた証言。
机の上に残されていた食事・・・そしてその「食器」。
まぎれもない「住人の私物」であったそうだ。
その時点で、一緒にいた警官の「出前」という言い訳は
極めて怪しい物だろう。

なぜ、大家はその「食器」が「住人の私物」だと分かったのか。

それは、以前
大家が、その住人の部屋でお茶をしていた事があったから。
ともあれ、一連の騒ぎは下火に変わり住人達の話題にすら上がらなくなった。

「取り立てに耐え切れず、夜逃げをしたんだ。」

まるで、そう言い聞かせるように・・・。

そして、2年が経った。
その間に、件の部屋に入居する者も居たそうだが・・・。

皆、一様に失踪して居る。
まるで、室内で「神隠し」にでも合ったかのように・・・。

ある住人は
コンロに火をつけたまま失踪。
煙に反応した火災報知器によって、大事にはならずに済んだ。

また、ある住人は
部屋の照明を切らずに失踪。
数日間、照明が付きっぱなしだった事を変に思った住人らによって報告が上がり発覚。

その他
模様替えでもしていたのか？と目を疑う程
部屋が荒れたまま失踪を遂げた住人も居たそうだ。

この一連の出来事が外部にまで知れ渡り
その団地は「幽霊団地」と呼ばれるに至ったそうだ。

・・・そして。
今まさに、その部屋に
絢女の友人が住んでいたのだそうだ。

大家から、この話を聞きつけた友人によって
絢女にＳＯＳが送られてきたのだ。

「それで、大家さんは何て？」

「一応、お祓いとかはしてもらった部屋だから大丈夫だろう。って。
でも、気味悪いじゃない？そんな部屋だったなんて。
だから、アヤちゃんに意見を聞ければって思って・・・。」

「う、うん。それは構わないけど。。。、」

絢女は引きつった。

普段の友人であれば、こういう物は怖がり、話をするだけでも耳を塞ぐ。
そんなにとであったそうだ。
だが、その友人は
嬉々として、状況を伝えて来た。

『違う。何かが違う・・・〇〇（友人）じゃない気がする・・・。』
そう思った時
あまりの恐怖に、絢女は話を合わせ刺激しない様に。と考えたそうだ。
すぐさまその場を離れようとした絢女は、矢継ぎ早に
次回の予定を交わし、そそくさと帰った。

この時、彼女はこう述べていた。

「友人と話しているハズなにの、声は友人のものではなかった。
そして、面と向かって話している友人の顔に
面識のない男の顔が重なり、友人の顔の原型が残っていなかった。」のだそうだ。