if you wanna... ~君が願うなら~

メカ

文字の大きさ
上 下
27 / 31

ダンシング・ストリート

しおりを挟む
「急いでくれ!」

「そ、そう言われてもよぉ!」

「そこの角を左だ!」

「お、重いぃ~。」

学校施設から逃げ出した二人。
虹色が迫るゾンビの露払い。仙堂が大山隊員をおぶっての移動。
遅々として目的地までは進まず、休みながらの航路。
仙堂の額からは大粒の汗が流れている。
変われるものなら変わりたいが、体力を奪われている仙堂に今から露払いを任せるのも
正直な所、怖い。
前から迫るゾンビよりも、圧倒的に後ろから迫るゾンビの方が多くなる。
少しでも、距離を稼がねば雨を追って移動するゾンビの集団に取り囲まれてしまう。

「仲間がコンビニで待ってるはずなんだ、そこまで頑張ってくれよ。」

「分かってる。茨はゾンビに集中しててくれ。俺もなるべく急ぐから。」

「・・・すまん。」

「謝るなよ、俺だって皆に謝罪したい事は山の様にあるさ。」

「・・・。」

「あの音は何だ?」

「え?」

もうすぐ、十字交差点に差し掛かろうという時
どこからか、軽快に走って来るような足音が聞こえた。

「例の仲間か?」

「いや・・・まさか・・・。」

赤い雨が降り、ゾンビが活性化している中
わざわざ何処に居るかも分からない俺を探しに来るほど、愚かな選択を彼らがするとも思えない。
そんな選択をするようなメンバーならとっくに死んでいただろう。

妙な胸騒ぎを覚える。
だが、軽快な足音は少しずつ、近付いて来るのだ。
その足音に合わせ、心拍が上がっていくのが分かる。
耳のすぐ横で、鼓膜を振動させる音・・・それが心拍だと気づいた時
俺は、全身に力を込めていた。

次の瞬間
立ち止まっていた二人は、目を見開いたまま唖然とした。
眼前に捉えた光景があまりにも理解不能だったからだ。

「な、なんだ・・・アレってもしかして・・・。」

「!」

仙堂の言葉を聞き終えるより先に、虹色は走り出していた。
前傾姿勢で身を低く、木刀の柄に手を添えて・・・。
この一瞬、虹色は直感していた。
「ソレ」を放置しておけば、後々とんでもない事になると。
今ここで始末しなければ。と

眼前に現れた「ソレ」は
競技用のハーフパンツを履き、タンクトップに身を包んだゾンビであった。
身体の至る所から出血をしながら、十字交差点に優雅に走り込んできた様を
二人は見たのだ。
そして、そのゾンビは走って来る虹色を眼中に捉えると
クラウチングスタートで走り出した。

「ゾンビ風情が!っざけんな!」

虹色の木刀から放たれる居合「横一閃」
「ドチャッ」という鈍い音と共に、静まり返る・・・。
だが、全てを後ろで見ていた仙堂が叫ぶ。

「茨!後ろだぁ!」

しかし、仙堂の声は耳に届かなかった。
虹色の木刀は、何かに触れた感触を残さず、空を切ったのだ。
にも拘わらず、目の前の障害が排除された事に、虹色は混乱していた。

「な・・・何だ。今、何が起きたんだ・・・。」

全てを見ていた仙堂は、より一層深刻に叫ぶ。

「茨ぁ!」

横一閃の直前、アスリートゾンビは高跳びの要領で虹色ごと木刀を避け
背後に落ちてきたのだ。

仙堂の呼びかけに応じ振り返った時
アスリートゾンビは既に立ち上がっていた。
その足元には、着地時に飛び散ったであろう血がその現実を物語っていた。
アスリートゾンビの顔面は上半分程が潰れ、原形を留めていない。
しかし、ゾンビは後ろに向き直し仙堂たちの方を向くと
にやりと笑い、再びクラウチングポーズをとった。

直後、「マズい!」と振り下ろした虹色の木刀は
再び、ゾンビを捉える事無く空振りした。

「う、嘘だろ!?おい、来るな。ぅわぁぁぁぁ!」

仙堂は自身の最後を覚悟し、その場に倒れ込み身を丸めた。
しかし、ゾンビが襲ってくる事は無かった。
頭部の潰れたゾンビは道半ばで倒れ込み活動を停止したのだ。

「・・・大丈夫か?仙堂。」

「・・・あぁ。アイツ、もう動かないんだよな・・・?」

「多分。」

「は、早い所、お仲間に合流した方が良さそうね。」

「あぁ、力仕事を任せて悪いがあと少しなんだ。やってくれるか?」

「お、おう。すぐ準備する。」

ここに来てイレギュラーに見舞われてしまったが
皆の待つコンビニは目と鼻の先。
これ以上、皆に不安を掛けないためにも。と先を急ぐ二人であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

東京が消えたなら。

メカ
SF
2XXX年、日本最大の山「富士山」が噴火した。 その時、貴方は 「どう生き延びますか?」

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

処理中です...