異世界なんてもう嫌だ

メカ

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いざ、魔王討伐!・・・したいのですが。~その4~

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「おーい、亮。明日って暇?」
「・・・え?」
「ほら昨日、渋谷に新しいゲーセン出来たっていうじゃん。行かね?」
「あ・・・う、うん。」
「おし、待ってるからな!」
「ちょ、翔!」

気さくに話しかけてきた彼は、小学校時代からの腐れ縁
水木 翔(かける)。
彼は人生の凡そ半分を共に生きて来た友だ。

だが、俺は自分に起きた現象が分からず
混乱したまま、空返事を返した。
しかし、それを聞くなり、彼は先に教室を後にしたのだ。

西日指す教室。どこか懐かしいものを感じる。
しかし、なぜそんな事を思うのだろうか。
まるで、遠く過ぎた過去の様に・・・。
思えば、俺は何か考え事をする時は、決まって教室に一人
最後まで残って考えに耽っていた。

なぜだろう。
自分は椅子に座っているのに
まるで、その姿を自分自身が見つめているような・・・
そんな切ない感覚に陥った。
振り返るのが怖かった。何もかも、終わってしまいそうで。

机に頬杖をついて外を見る若者は、思いを振り切ったように立ち上がり
教室を後にした。


・・・昔からそうだった。
クラス全体で見れば目立つ方ではなかった。
でも、一緒にいたグループの中では濃い方だと勝手に思っていた。
弄られキャラで、俺が居なきゃ場が締まらない。本気でそう思っていた。
でも、実際はそんな事は無く・・・。
俺が居なくても、グループのまとまりは良くて・・・。
気付けば、何時も・・・グループの輪の外から皆を見ていた。
そんな、俺の名を何時も明るく呼んでくれた女の子
佐々木 楓。
高2の春、俺達は付き合い始めた。
彼女は、俺が輪から外れていきそうになると
途端に引き戻すような・・・そんな明るい子だった。

時は流れ、社会人になった。
だが、理想や希望を持たず社会にでた若者が
荒波に潰されるのは火を見るより明らかだった。

二十歳にして、抑鬱を発症した俺は、自宅で首つりの未遂を行い
精神病棟へ強制入院となった。
最初の一週間は、ベットに縛り付けられたまま。
その後、暴れる兆候がない。という事で拘束は解かれた。
それからというもの、俺はベットの横に腰かけ空を眺める生活だ。
そんな生活が二年続き、多少回復した俺は、無事退院となった。

「堺君、外・・・大丈夫そうかい?」
「・・・えぇ。先生。二年間、ご迷惑をお掛けしました。」
「今度は辛くなる前に、相談に来るんだよ?」
「・・・はい・・・。」
「亮君、行こ!」
「か、楓・・・。待っててくれたの?」
「お昼、何食べる?」
「そ・・・そうだなぁ・・・。」

それから更に二年が過ぎ、俺は漸く社会に少し馴染んだはずだった。
だが、もう・・・。

「・・・ここは・・・?」
「お、やっと起きたか。」
「なぁに!オジサンに顔見せなさい!」
「こら、ディオラそんなに前のめりにならないの!」
「皆・・・。」
「おう、顔色も良いし、大丈夫そうだな。」
「一安心ですね。」
「う・・・うぅ。リョーーーーウ。」
「うわっふ!い、いでぇ!いでででで!」
「あ!ディオラ!ダメですよ!もぅ!・・・離れなさい。」

「で、皆あの後どうなったの?」
「俺が説明してやるよ」
「頼むよ、カスール。」
「リョウが倒れた直後、ディオラが起きてな。状況を察する・・・というか
目の前に倒れてるアンタを見て発狂して暴走した。そのお陰でオーガは撃退できたが
こっちまで死にかけてな・・・。そこに
オーガの本隊を叩いてたこのジジィに遭遇して事なきを得た!」
「じ、ジジィ?」
「儂じゃ。」

奥から顔を覗かせたのは、小汚い口髭を多く蓄えた老人だった。

「あ、貴方は・・・。」
「人に名を聞くなら、先に名乗らんかい。」
「す、すみません・・・。僕はリョウと言います。・・・堺 亮。」
「ふん、そんなの知っとるわい!」
『こ、このジジィ・・・!』
「今、よからぬ事を考えたであろう?」
「や、ヤダなぁ。そんな訳・・・。」
「まぁ良い。儂は土の精霊ノーム。名は『ドリス』と言う。」
「と、とうとう揃っちゃったのね・・・。」
「でな、このジジィが、土を使ってディオラの水を吸い上げちまった訳さ。」
「なるほど・・・それで、こんなにチビっこくなってる訳ね・・・。」
「えっへん!」
「褒めてねぇよ・・・。」
「お前さんら、魔王を倒しに行くそうじゃな・・・。」
「そ、そうです。何かご存じなので?」
「悪い事は言わん。引き返しなさい。このまま行っても徒労に終わるじゃろう。」
「そんなに危険なのですか!?」
「あぁ、怪我人がそんなに無理するでない!危険何てものではない。もう手遅れじゃ。」
「そ、そんな・・・。」
「ケガを治したら、他所へ移って余生を楽しみなさい。」
「・・・。」

その夜の事・・・。
「おい、ディオラ。」
「ん?」
「ノームのじいちゃんの話、本当かな。」
「どうして?」
「確かに、俺のスキルならあり得る話だが・・・。お前のスキルの事もあるし。」
「何か、打開策があるはず。と。」
「どう思う?」
「ん~・・・。」
「・・・。」
「んんん~~。」
「・・・。」
「んんんんん~!」
「・・・。」
「ま、そんな事より天然水飲めやぁ。」
「何でそーなる!」
「会っても居ない魔王の事なんて知らないさー。そんな奴の事よりリョウのケガが心配ぞな!」
「あー、そうかい。そういう奴だったな。お前は・・・。」
「とにかくゆっくり休め、リョウ。」
「あ・・・おい。待てよ。」
「ん?」
「いや・・・何でもない。」

似ていた。
去り行く背中が、何時も俺の先を歩いていた彼女に。
『行かないで。』その一言が言えなかったから・・・。
一番、思い出したくない物を、嫌でも思い出させるその後姿が
後の俺をしばらく悩ませた・・・。
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