異世界なんてもう嫌だ

メカ

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いざ、魔王討伐!・・・したいのですが。~その3~

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夕食も終え、後は眠るだけ。
しかし、ここから先は一筋縄ではないはずだ。
ただでさえ、巨悪である魔王を討ちに行くのだ。
その道のりが、平坦な物でない事は容易に想像がつく。
其処に、俺のフラグブレイカーとディオラのフラガー。
この二つのスキルの兼ね合いを考えると・・・
「一生、魔王に辿り付ける気がしねぇ・・・。」

予想は、想像を遥かに超えた形で現れた。

凡そ二日かけて辿り着いた中継地点にある小さな村。
その村は既に、オーガによって襲撃され村は遺棄されていた。

「冗談だろ。このままじゃ食料が底を尽きるぞ・・・。」
「水なら腐るほど出せるよ~?」
「おい、ディオラ。冗談を言ってる空気じゃないぞ。」
「・・・ま、まぁ何とかなるよ。オジサンのスキルを忘れたカニ?」
「だと良いが・・・。」
「カスール、道中出くわしたオーガは・・・ただの残党かな?」
「そうだろうさ。でもなきゃとっくに囲まれてるだろう。」
「・・・。」
「しかし、酷い有り様だ。」
「この村が堕ちたという事は・・・。」
「十中八九、この先は魔王軍に攻め落とされてるわな。」
「でも、納得いきませんね。」
「なぜです?シルヴィーさん。」
「ここまで侵攻しているのであれば、彼らが此処に居ない理由が説明できない。」
「・・・確かに。」
「次に進んだにせよ、それならこの手前で彼らの総戦力とぶつかって居なければ・・・。」

その直後、突然の爆発音と地鳴りが辺りを襲う。

「な、何だ!」
「近いぞ。」
「皆さん、固まって。」

爆発音は数回にわたり続き、俺達を安息させる事は無かった。

「おい。この爆発音。近付いてきてないか!?」
「じょ、冗談だろ?」

ディオラをおぶった俺は、足をこれでもかと開き、バランスをとる事で精一杯であった。
しかし、そんな中でも、ディオラは俺の背でイビキをかく始末だ。

「見ろ!煙が上がってるぞ!」
「確かに・・近い。」
「どうします?」
「そう言われても!」
「あれは!」
「ガァァァァァァァ!」
「リョウ!アブねぇ!」

結論が出るより先に、藪の中からオーガの集団が現れ
勢いよくこちらに猛進してくる。

人間、命の危機に思い出すのは、取るに足らない記憶ばかり。
子供の頃、よく友達と遊んだ公園。
あの頃は、良かった。未来の事なんて考えずに生きて居れたから。
でも同時に、思い出すのは・・・当時のコンプレックスだった。

「皆、今日は何する?」
「ここ最近、この公園ばっかりだったしなぁ。ちょっと飽きたよね。」
「じゃぁさ、隣町のぼた山公園まで鬼ごっこしながら行くのは?」
「賛成!」
「良いね。やろう!」
「ちょ、ちょっと皆!隣町にいくなら、鬼ごっこしながらは辞めようよ!」

友人たちが軒並み、賛成の意見を出す中、一人の少年は焦った顔で反対した。
それが、俺だ。
当時の俺は、学力もドベ、運動も音痴の
いわば「ドジで格好悪い奴」だった。
かけっこをすれば、決まって最下位。
鬼ごっこなんて、俺にとっては地獄の遊びだった。
鬼しかやれない、鬼しかできない、鬼にすら向いてない。
昔から、体力のなかった俺は鬼ごっこなどでは優先的に狙われ
物の数分で立場が入れ替わる。そんな奴だった。
だからいつも・・・。

「皆、一人狙いは無しにしようぜ。」
「おう。」
「ま、仕方ないな。お前も居るしな。」
「・・・。」

惨めだった。
自分から狙わないでくれ。なんて・・・。
悔しかった。
それでも、埋まらない実力の差が。

「がぁぁぁぁ!」
「くっそ!」

横一線、フルスイングでオーガの腕が飛んできたが
後ろに跳ねる事で何とか交わした。
得物を一発で仕留め損ねたことが悔しかったのか
オーガは地団駄を踏みながら、再び鋭い眼光をこちらに向ける。

『相手は鈍間だ。冷静に見れば当たる。ましてや、荷物を抱えている。逃げられるハズがない。』
そう言わんばかりに、こちらを見据えながらにじり寄って来るのだ。

次の瞬間、ストレートが来た。
振りが大きかった為に、しゃがんで交わしたが、次はないだろう。

「リョーウ!」

少し遠くから聞こえるカスールの声は
俺の耳には入らない。
だが、彼らも術を行使し、他を寄せ付けないようにしている事だけは分かっている。


「おい、ディオラ。何時まで寝てるんだ!起きろ!」
「ヌゥゥアァァァ!」
「うわっと・・・。や、やばい!」

次の攻撃をよけた事は良い。
問題は、そのせいで一瞬、体勢が崩れた事だ。
オーガはそれを見逃さない。見逃してくれる訳がない。
両手を合わせ、高く振り上げたその手は恐らく
考えなくても分かる・・・。

「振り下ろしか!」

体勢を治したいが、肝心の片足はまだ宙に浮いている。
脳の命令が伝達されるのに約0.4秒
そして筋肉が動くにも同じだけ掛かる
つまり、約1秒で次の考えを捻り出し、筋肉に伝えるなど
人間業ではない。現実的に不可能なのだ。

『死んだな。』

だが、不思議と体は別の動きをしたのである。

「ア゛ァァァァ!」
「っく・・・・うわぁぁ!」
「リョーーーーウ!」
「リョウさん!・・・そんな・・・。」

人の頭よりはるかに大きい拳で、人間の数倍以上の力で叩きつけられたのだ。
そりゃ普通に考えても重症だろう。
地面に倒れた得物を前に、オーガは高笑いを始めた。
だが、オーガは足元を見て悟った。

『倒れているのは人間だけだ。』

そう、俺は叩きつけられる直前
ディオラを後ろに跳ね飛ばしていたのだ。
結果として、受け身も取れずモロに一発が入ってしまったが・・・。
これでいい。

「・・・あの時・・・と、同じだな。っごふ、ごほ・・・。」

あの日・・・俺が死んだあの日
あの時も、上から鉄骨が降って来た。
その衝撃で、今と同じように地面に伏せって・・・。
周囲のざわめきがよく聞き取れなくなっていく感覚。
まさか、二度も味わうとは・・・。
ぼやける視界に映るオーガは、辺りを見回しディオラを探しているようだった。
そして、見つけてしまったようだ。
先ほどの一撃で伸びた得物になど目もくれず、歩を進め出したのだ・・・。

「に、げろよなぁ・・・相棒・・・。」

そこで意識が途絶えたのである・・・。
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