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何で、こうなるの! ~その4~
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「で、そいつは誰だ?」
「俺の名は、カスール。火の精霊『サラマンダー』だ。」
「自己紹介、どーも。それで?なぜ、その精霊が此処に居るのかね?ディオナ君。」
「えーっと・・・そのぉ。」
「ゴブリンに追いつめられ、古城に逃げ込んだ。そこにこいつ等が入って来た。」
「なるほど。今回のゴブリン騒動は、君のせいか。」
「そうだ。」
「しかし、それなら・・・なぜそんなにバツが悪そうにしているのだ?二人とも。」
「それが・・・ね。何と言いますか・・・。」
「私が言うわ。」
「シルヴィーさんも何か存じているので?」
「彼は、ただゴブリンに追われていただけではないのです。」
「というと?」
「魔王です。」
「ほう。魔王ねぇ・・・。は?魔王?」
「えぇ。その魔王から手引きされ、それを断ったが為に追われた様なのです。」
「・・・。」
「魔王ですと!いかん。すぐに王都に知らせるべきですよ!リョウ様!」
「・・・。」
「俺も、おっさんの意見と尊重する。人間、直ぐに王都へ行くべきだ。」
「分かった。行くよ。どうせ、そうしないと詰みゲーだろうし。」
「そうと決まれば、村長!晩御飯食べさせて!」
「ディオナ!お前なぁ!」
「まぁまぁ、固い事言うなよ。ブラザー。」
「誰がブラザーだ!さっさと出立の準備をしろ!」
「リョウ様、夜の出立は何かと不便ですから・・・。どうか、一晩はお泊り下さい。我々は皆さんを歓迎しますので。」
「村長さん・・・。分かりました。」
「いぇーい!」
「はしゃぐな!」
こうして、村を救った俺達は、一晩の祭を謳歌した。
早朝。
朝焼けが幾分かの肌寒さを覚えさせる。
しかし、不思議な事にこの世界の気候は、四季の概念がない様に感じる。
肌寒さの割に、風が吹かなければどうという事は無い。
だが、吐く息は白く、土にはやや湿ったような香りと霜柱のような物が垣間見える。かといって、日中ほ程よい暖かさを感じ、緑や太陽そして踏みしめる土は心の温度すらも底上げするようだった。
どれくらい歩いただろうか。村長に託された地図を広げ、大体の場所に視線を落とす。目的地との距離を見比べ繭をしかめる。
本来であれば、愚痴の一つでも言ってやりたい所だが、視線を上に戻し風景を眺めると怒りの感情は失せた。
「のどかな場所だね・・・。静かで、心地いい。」
「木や植物は精霊の力を持ってしても、どうにか出来るものではないよ。」
「ディオナ?」
「えぇ、これらの自然を壊してしまう事は簡単です。ですが、育むとなるとそれは人並みならぬ愛情と時が成せる業でしょう。」
「俺達、精霊の中でも『絶対禁忌の掟』がある。」
『植物を殺す事なかれ、命の祖は植物により育まれ植物と共に生きた。』
一陣の風が背中を押し三人の精霊が声を合わせ、その掟を説く。
その顔は、真剣な眼差しであった。
その顔を見るなり、俺は涙が溢れた。
コンクリートジャングルで生きて来た俺にとって、目の前に広がる木々が、背中を押す風が、土の匂いが。何もかもが懐かしかったのだ。
俺が生まれた町は、決して田舎という訳ではない。だが、人の持つ本能なのだろうか?現状に佇む青年がちっぽけに思えて仕方がないのだ。
雄大な林道に包まれた青年は、かつて少年であった事を思い出すのだ。
青年の視界に映る、その少年たちは、実際にあった過去などではなく、見聞きして知った『こんな時代があった』と言わんばかりの少年たちだ。
麦わら帽子をかぶり、虫取り網を片手に走る少年たち。
彼らは、一体どこへ消えてしまったのだろうか。時代に流され消えていった『心の余裕』はどこへ・・・。
「どうしたのだ?リョウ?」
「え?」
「なぜ、泣いておる?」
「・・・なぜ、だろうね・・・。」
こんなはずじゃなかった。こんな大人になりたかった訳じゃない。
でも、大人になれて良かった。
大人になるって事は、薄汚れる事じゃない。河原の石と同じだ。
角が取れ、生きにくい世の中でも柔和に生きる事。それが大人なのだ。
牙を失う訳じゃない。
能ある鷹は、爪を隠すのだから。
「あと、三日もすれば王都に着くさ。皆、日も傾いてきたし夜営の準備をしようか。
王都城壁前にて。
足を棒にしながらも、たどり着いた王都。
だが、奮闘虚しくその勢いのまま王都への入場はできなかった。
これもフラグブレイカーのせいだろう。
我々が王都へ辿り着くより先に、魔王の活動が活発になった旨が伝わったのだ。
その結果、王都城壁前では検問が敷かれ、不要不急の出入りは制限されていたのだ。
魔王の動向を伝えようにも、既に情報が入っている為に、王の前に召喚される事も叶わなかった。
「・・・畜生。・・・何で、こうなるの!」
蹴り上げた石は、虚空を舞い、川の中へと沈んだ。
「俺の名は、カスール。火の精霊『サラマンダー』だ。」
「自己紹介、どーも。それで?なぜ、その精霊が此処に居るのかね?ディオナ君。」
「えーっと・・・そのぉ。」
「ゴブリンに追いつめられ、古城に逃げ込んだ。そこにこいつ等が入って来た。」
「なるほど。今回のゴブリン騒動は、君のせいか。」
「そうだ。」
「しかし、それなら・・・なぜそんなにバツが悪そうにしているのだ?二人とも。」
「それが・・・ね。何と言いますか・・・。」
「私が言うわ。」
「シルヴィーさんも何か存じているので?」
「彼は、ただゴブリンに追われていただけではないのです。」
「というと?」
「魔王です。」
「ほう。魔王ねぇ・・・。は?魔王?」
「えぇ。その魔王から手引きされ、それを断ったが為に追われた様なのです。」
「・・・。」
「魔王ですと!いかん。すぐに王都に知らせるべきですよ!リョウ様!」
「・・・。」
「俺も、おっさんの意見と尊重する。人間、直ぐに王都へ行くべきだ。」
「分かった。行くよ。どうせ、そうしないと詰みゲーだろうし。」
「そうと決まれば、村長!晩御飯食べさせて!」
「ディオナ!お前なぁ!」
「まぁまぁ、固い事言うなよ。ブラザー。」
「誰がブラザーだ!さっさと出立の準備をしろ!」
「リョウ様、夜の出立は何かと不便ですから・・・。どうか、一晩はお泊り下さい。我々は皆さんを歓迎しますので。」
「村長さん・・・。分かりました。」
「いぇーい!」
「はしゃぐな!」
こうして、村を救った俺達は、一晩の祭を謳歌した。
早朝。
朝焼けが幾分かの肌寒さを覚えさせる。
しかし、不思議な事にこの世界の気候は、四季の概念がない様に感じる。
肌寒さの割に、風が吹かなければどうという事は無い。
だが、吐く息は白く、土にはやや湿ったような香りと霜柱のような物が垣間見える。かといって、日中ほ程よい暖かさを感じ、緑や太陽そして踏みしめる土は心の温度すらも底上げするようだった。
どれくらい歩いただろうか。村長に託された地図を広げ、大体の場所に視線を落とす。目的地との距離を見比べ繭をしかめる。
本来であれば、愚痴の一つでも言ってやりたい所だが、視線を上に戻し風景を眺めると怒りの感情は失せた。
「のどかな場所だね・・・。静かで、心地いい。」
「木や植物は精霊の力を持ってしても、どうにか出来るものではないよ。」
「ディオナ?」
「えぇ、これらの自然を壊してしまう事は簡単です。ですが、育むとなるとそれは人並みならぬ愛情と時が成せる業でしょう。」
「俺達、精霊の中でも『絶対禁忌の掟』がある。」
『植物を殺す事なかれ、命の祖は植物により育まれ植物と共に生きた。』
一陣の風が背中を押し三人の精霊が声を合わせ、その掟を説く。
その顔は、真剣な眼差しであった。
その顔を見るなり、俺は涙が溢れた。
コンクリートジャングルで生きて来た俺にとって、目の前に広がる木々が、背中を押す風が、土の匂いが。何もかもが懐かしかったのだ。
俺が生まれた町は、決して田舎という訳ではない。だが、人の持つ本能なのだろうか?現状に佇む青年がちっぽけに思えて仕方がないのだ。
雄大な林道に包まれた青年は、かつて少年であった事を思い出すのだ。
青年の視界に映る、その少年たちは、実際にあった過去などではなく、見聞きして知った『こんな時代があった』と言わんばかりの少年たちだ。
麦わら帽子をかぶり、虫取り網を片手に走る少年たち。
彼らは、一体どこへ消えてしまったのだろうか。時代に流され消えていった『心の余裕』はどこへ・・・。
「どうしたのだ?リョウ?」
「え?」
「なぜ、泣いておる?」
「・・・なぜ、だろうね・・・。」
こんなはずじゃなかった。こんな大人になりたかった訳じゃない。
でも、大人になれて良かった。
大人になるって事は、薄汚れる事じゃない。河原の石と同じだ。
角が取れ、生きにくい世の中でも柔和に生きる事。それが大人なのだ。
牙を失う訳じゃない。
能ある鷹は、爪を隠すのだから。
「あと、三日もすれば王都に着くさ。皆、日も傾いてきたし夜営の準備をしようか。
王都城壁前にて。
足を棒にしながらも、たどり着いた王都。
だが、奮闘虚しくその勢いのまま王都への入場はできなかった。
これもフラグブレイカーのせいだろう。
我々が王都へ辿り着くより先に、魔王の活動が活発になった旨が伝わったのだ。
その結果、王都城壁前では検問が敷かれ、不要不急の出入りは制限されていたのだ。
魔王の動向を伝えようにも、既に情報が入っている為に、王の前に召喚される事も叶わなかった。
「・・・畜生。・・・何で、こうなるの!」
蹴り上げた石は、虚空を舞い、川の中へと沈んだ。
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