異世界なんてもう嫌だ

メカ

文字の大きさ
上 下
5 / 13

何で、こうなるの! ~その3~

しおりを挟む
「よし、ディオナ、シルヴィーさん。始めるよ!」
日の出と共に、作戦は開始。
俺の称号『フラグクラッシャー』を避ける為、俺には作戦内容が知らされていない。更に、念を入れて俺は古城には乗り込まない。
後は、ディオナの持つ称号『フラガー』に全てを賭けるだけである。
作戦開始から凡そ五分、ただ待つだけというのもつまらないものだ。
俺は、白んでいく空を見上げた。
「お前、亮か?」
「ん?・・・佐々木?」
「やっぱり!久しぶりだなぁ!」
「おう!元気だったかよ?」
「まぁな。」
「どうした?」
中学の時、同級生だった「佐々木 雄太」。
小学生の時から知っている顔なじみで親しい友人だった。
外回りの合間に再会した旧友は、一見しても認識できない程、雰囲気が変わっていた。・・・俺は変わっていないのに。
よくある再会の挨拶の中、彼は酷く哀愁を映した顔をしたのだ。
「あぁ、実はさ。俺、もうすぐ親父になるのさ。」
「はぁ!結婚していたのか?お前!それに喜ばしい事だろ?」
「そりゃ、嬉しいけどさ・・・。」
「ん?」
「俺が親父って・・・。実感湧かなくてさ。」
「・・・。」
彼の雰囲気が変わった理由が分かった。
彼は大人になった。否、大人になりかけている。
俺には到底理解できない喜び・苦悩。
学生の頃、共にイタズラなどを考案していた悪ガキは見る影もなかった。
「そっちは、最近どうなの?」
「え?あ、あぁ・・・。相変わらずだぜ?」
「だと思ったぜ。昔と変わってないからな、お前。」
「そ、そうかぁ?」
「あぁ、良いなぁ。お前。ちょっとうらやましい。」
嫌味にも聞こえる彼の無垢な言葉は正直、耳障りだった。
一瞬は友の幸せを共に喜ぼうとした。だが、彼はその幸せを悩んでいる。
悩むだけなら寄り添おう。しかし、彼は喜びと同じだけ虚しさを覚えた俺を羨んだのだ。
「お前、それ本気か?」
「まさか、だが、冗談のつもりでもない。」
「どういう意味だよ?」
「何というか・・・もう少し、悩む時間が欲しかった。気を悪くしたなら悪い。」
「いや・・・良いけどさ。」
「そうだ、今度飲みに行こうぜ。これ、俺の連絡先な。何かあったらここに。」
「お、おう。」
時というのは残酷だ。
共に同じ時間を生きたはずの友と、少しの時間をずらしただけで、こうまで世界が変わるとは。
だが、運命というのは逆説的に魅力的である。
数日後、彼と飲みの場で再び顔を合わせた俺達だが
その時、彼の顔は以前の顔ではなく、覚悟が出来た顔であった。それを見て、安堵した。と同時に、運命は動き出した。
話がまとまり、解散が近づいたその時、彼の携帯が鳴り彼は慌てて帰った。
状況から察するに、子供が生まれる直前か、直後か。
友の幸せに一人、ほころんだ笑みでグラスの酒を飲み干し帰路に就こうとした。
店を出て、しばらく歩いた時、路地に目が行った。
女が座り込み、震えていたのだ。
「あ、あの・・・。大丈夫ですか?」
「・・・。」
一定の距離を保ったまま、俺は声を掛けた。しかし、その返答は無かった。
「何かあったのですか?」
「うるさい。」
「体調が悪いなら、救急車呼びますよ?」
「ほっといてよ!」
「!」
勢い良く、上げられた顔は、涙で目元が腫れていた。
「なによ!」
「えーっと・・・。道すがら、君が見えたから。助けが必要かと思って。」
「必要ない!」
「なら、立てる?」
「はぁ!ほっといてって言っているの!日本語通じる?」
「立てないの?へー。」
「立てるって!ふぁ!」
「おっと。」
立とうとしたその女性はふらつき、それを見逃さず手を差し伸べた。
普通のロマンスであれば、此処からあり得もしない展開になる。
だが、流石は現実だ。
女性を交番まで送り届け、その日を終えた。

翌日の土曜。
二日酔いに苦しむ俺の携帯が、頭蓋を叩き割る様に鳴る。
しかし、俺はその着信を取る事はなかった。
そして、俺は我に帰るのだ。
「・・・遅いな。皆。」
「リョウ様、お茶でもどうですか?」
「村長・・・。どうも。」
「何やら、遠い目をなさっていましたが、悩みがお有りですかな?」
「え、えぇ・・・。過去の事を少し。」
「人生とは、不思議な物です。」
「え?」
「欲しい物は、今や過去には存在しないのです。リョウ様の憂いの根源も恐らくは、今や過去に根差したものではないでしょう。」
「・・・。」
「私も、過去に戻ってやり直したい。そう思う事はいくつもあります。ですが・・・良いですか?過去を変えたとしても、その結果が目に見えて現れるのは、今ではなく『未来』なのです。例え、どんなに今欲しいと願っても。」
「未来・・・ですか。」
「えぇ。恥ずかしながら、私もこの答えに辿り着くまでに、これだけの時間を要してしまった訳です。」
「時間。」
「過去の時間は帰って来ません。ですが、過去の時間が未来の時間に置き換わってその答えが見えるのですよ。」
「村長、貴方はそれでも・・・悔いはない。と言えますか?」
「えぇ、人の人生。悔いは一瞬です。」
「?」
「その悔いは、思い出すから長いのです。」
「は・・・はぁ。」
村長の話は難しく、俺には半分も理解できなかった。それでも、こうして
話を聞いてくれる人の有難みを痛感するのだ。
「ただいまー!」
「ん?」
「リョウさん、無事にゴブリンは退治して、古城内はクリーンになりましたよ。」
「遅かったですね・・・心配していた所ですよ。」
「そ、それが・・・そのぉ。」
バツが悪そうな精霊二人の後ろに、もう一つの影を見て、俺は絶句したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女の代行、はじめました。

みるくてぃー
ファンタジー
「突然だけどこの家を出て行ってもらえるかしら」 ホント突然だよ! いきなり突きつけられた金貨100枚の借用書。 両親を失い家を失った私は妹を連れて王都へ向かおうとするが、ついつい騙され見知らぬ領地に取り残される。 「ちょっとそこのお嬢さん、あなたのその聖女の力、困っている人たちを助けるために使いませんか?」 「そういうのは間に合っていますので」 現在進行形でこちらが困っているのに、人助けどころじゃないわよ。 一年間で金貨100枚を稼がなきゃ私たちの家が壊されるんだから! そんな時、領主様から飛び込んでくる聖女候補生の話。えっ、一年間修行をするだけで金貨100枚差し上げます? やります、やらせてください! 果たしてティナは意地悪候補生の中で無事やり過ごす事が出来るのか!? いえ、王妃様の方が怖いです。 聖女シリーズ第二弾「聖女の代行、はじめました。」

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...