異世界なんてもう嫌だ

メカ

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何で、こうなるの! ~その1~

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「おはようございます。英雄殿」
「お、おはようございます。・・・村長さん。」
「先のお話の続きですが、村の東の果てに位置する古城。そこに夜な夜な賊が入り込んでいるかもしれない。と報告がありまして・・・。」
「賊?」
「えぇ。現在、古城は誰も住んでは居ないのですが、夜になると灯りが灯されているようなのです。あの古城には、重要な文化財が奉納されている故、賊が漁っているのかもしれません。」
「な、なるほど・・・。」
「英雄殿には、その様子を見に行ってもらいたいのです。」
「村長さん。英雄と呼ぶのは辞めてください。俺は、堺 亮。リョウと呼んでください。それに、村長さんが望むような結末は俺には難しいかと。」
「リョウ殿、滅相もない。賊を倒せとは申しませんとも。本当に賊が古城に出入りしているのか、それを確認いただきたいのです。後の事は、しかるべき場に申し出て、しかるべき対処をしてもらうのが、我々やリョウ殿にも宜しいかと。」
「な、なるほど。それを聞いて安心しました。古城までの詳しい道のりを知りたいのですが・・・。」
「こちらに地図を用意してあります。どうぞお使いください。」
「ありがとうございます。準備が出来次第、出立しますので。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
「・・・はぁ。」
村長宅を後にした俺は、ふと元の世界での出来事を思い出していた。

俺は一介のサラリーマン。
定時に出勤し、上司や同僚に挨拶回り。業務が始まるとパソコンを前で眉間にしわ寄せ。昼食を終え、外回り。お得意先での大して役にも立たない名刺交換。
どうでも良いお世辞やオベンチャラでご機嫌取り。本題に入り商談。
今まさに、村長宅でこれらの事を一気に行ったように思えたのだ。
そして、しまいには、仕事を終えた後の溜息までも再現出来てしまった。
何が悲しくて、溜息なんかつかなきゃならない?どの世界でも忘れることない習慣に嫌気がさした。
思えば、あの日もお得意先で、ミスをしたことが始まりだった。
たった一枚の紙ペラ。その紙ペラを間違えて持って行ったが故に、上司からの風当たりは酷いものだった。
その日の帰り、俺はあの事故にあったのだ。
今頃上司は青い顔で『俺だったもの』と対面しているだろうか。否、きっと不慮の事故だと言い聞かせ「この度は・・・。」などと当たり障りない事を言っている事だろう。
自分の価値の薄さにホトホト嫌になる。
「それで、どうするの?」
唐突に質問を投げたのはディオナであった。
「そう聞かれても、プランなんて・・・。」
「じゃあ、とりあえず村長の言う通り、見に行こうよ。」
「・・・そうだな。」
一行が村の出口へ向かう途中、一人の叫び声が響いた。
「誰か!そいつを捕まえてくれぇ!食い逃げだぁ!」
後ろを振り返ると、猛スピードでこちらに迫って来るフードを被った者が追われていた。
「ッチ、しつこい店主だ。」
「逃がさないぞ!」
「ん?ありゃ、丁度いい。」
「・・・嫌な予感。」
フードを被った者はスピードを緩める事無く後方や前方を見比べ、その一瞬に目が合ったような錯覚に陥った。
「動くな!動いたらこいつを殺す!」
「ちょ!何を。や、辞めろよ!」
「っち、おとなしくしろ!」
「痛てぇ!イデデデ!分かったから!放せ!」
猛然と突き進んできた盗人と揉み合いの末、からめ手を取られ、成す術なく人質となった。
「行きずりの人を人質に取るとは・・・中々、意地汚いじゃないか。食い逃げ風情が!」
「黙れ!道を開けろ、ボンクラ店主!こいつがどうなってもいいのか!」
「くそぉ・・・。」
「・・・この場合、どうしたらいいのかな?シルヴィー。」
「黙って従うしかないでしょう?状況が分かっていますか?ディオナ。」
「ん~。さっぱり!」
「おい、お前、あの二人は連れか?」
「あ、あぁ。そうだ。」
「はっ。随分と苦労する連れが居たな。」
「・・・否定できん・・・。」
「村の外まで付いて来れば、解放してやる。」
「はぁ、どうぞ。ご随意に。」
「話が早くて助かるよ。村から出たら、解放する。それは約束する。」
「・・・。」
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