落チル夢

織田 獺

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一話

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クレルデリア帝国 サライートゥカ村

いつもの様に仲のいい老夫婦が、朝の日課である畑の整備をしていた。堆肥を撒き、一段落という所で事件が起きた。老夫婦が外にテーブルを出し、休憩のティータイムをしていると、そこに木陰に置いてあったくわがふわりと消えたのだ。しかし、誰かにぬすまれたわけでもない。まるで元々煙が入った容器に蓋をしていて、その蓋を開けた時のように消えたのだ。それを村の皆へと伝えると、なんとまぁ二人ともボケたものだと言う目とともに作り笑顔が向けられた。
ついには老夫婦もそんなこと起こるわけがないと、弁解するのを諦め、くわはどこかに置いたのを忘れてしまっただけで、いつか出てくるかもしれないと思い始めた。
それから数日は平和な日々が続いた。しかし、今度は肉屋とその隣の魚屋から豚1匹と氷と魚がぎっしり詰まった木箱が消えたという。
肉屋に至っては豚舎から出るのが苦手な豚の尻を押している最中にふわりと消えたらしいのだ。魚屋は肉屋の嫌がらせかとも思い、肉屋の周辺や豚舎を調べたが木箱などないし、むしろよく見かける模様の豚がいなくなっていることを確認するだけとなった。
しかし、これもまた2人は酒好きともあって二日酔いの頭痛で正確な判断は出来なかったのではと村の皆は考え、曖昧となってしまった。 そこから、連日のように色んなものが消えた。ただ、取るに足らないものが多かった。メガネ入れに入っていた老眼鏡や蔵にしまっておいた古い服、家の裏にひっそりと生えていた健気な花など普通にどこかに行ってもおかしくないものばかりであった。今まで1番大きなものと言えば、豚と魚のはいった木箱くらいであった。
けれどやはり、その現象は村人からしたら恐怖と対象であった。いつ何がどのような理由で消えるかも分からないのだ。
法則性もなく、消える。これほど怖いものはないだろう。
村長は首都のエレイデンより、魔道士を派遣することを提案した。
しかし、村人はいい顔をしなかった。なぜなら、魔道士は自らの私利私欲のためにしか動かない高慢で強欲なものなのだ。
1度、盗賊が村を襲った時も応援要請をしたが、一大事というのに、報酬の交渉がさきでなければ動かないというのだ。結局盗賊を追い払ってもらったものの、村は全体の半分の財産と30頭の牛を失ったのだ。村人の中には盗賊の盗んでいったものの方が、まだ少ないと言い出す始末であった。今度はどれくらいの財産を差し出せば良いのだろうか。それならば、多少の紛失だと耐えた方が良いのではないか。
村人の頭の中はそればかりであった。
しかし、何週間かものが消え続けて、ついに恐れていたことが起こってしまった。
村の中心にある噴水で幼い双子の姉妹、アリナとサリナが遊んでいたとき、妹であるサリナが石につまづいて転んだ。長く伸びた噴水の影にすっぽり入るように頭から勢いよく地面に倒れた。
そこに心配したアリナが手を伸ばすと、サリナはその手をとる寸前でふわりと消えた。
「…サ…リナ…?」
アリナが、確かめるように地面をじっと見つめる。そして何も掴んだ感触のない右手を握ったり開いたりを繰り返した。そして、首を傾げた。
「ママー、サリナが消えちゃったー」
その言葉は、アリナにとってはどうということもないことであった。ただただ、いなくなった。これで、もう二度と会えなくなるなど考えてすらいなかったのだ。
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