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十 分裂と統合 三

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 哀れみ。実験用のモルモットやサルに、研究者が時おり見せる哀れみがこもっていた。

「う、生まれた時から!?」
「はい。新生ギ計画にとって、あなたは一番重要な人間ですから」
「勝手に人をわけのわからない計画の一部にしないで下さい! 恩田! 最初から俺をだましていたのか!」
「先輩……全部先輩のためなんです」
「いい加減にしろ!」
「この展望台の地下に、全ての謎を解く鍵があります」

 久慈は冷静さを失わずに説明を重ねた。

「だったらさっさと発掘なり何なりすればいいでしょう!」
「とてもデリケートな構造物ですし、具体的にどこからどれくらい掘ればいいのかもわかりません。どうしても、あなたの……いや、あなたに取り憑いているホラフキさんの力がいるのです」
「く、狂ってる! ホラフキさんは要するに、脳の異常ってだけでしょう!」
「ホラフキさんだーれだ?」

 恩田が呼びかけた。

「だーれだ?」

 久慈と古里が唱和した。

「くっくっく……あははははは! わははははは!」

 ホラフキさんが、岩瀬の耳元でこの上なく耳ざわりな笑い声を弾けさせた。

「何がおかしい!」
「そういきりたつなよ。俺もちょっとは、こいつらの実力を認めてやってもいいな」

 ホラフキさんが、珍しく人間を肯定的に捉えた。

「犯罪だろうが!」
「落ちつけよ。あらかじめ警告してやっただろ?」

 ホラフキさんは平然としていた。

「こんなレベルだなんて聞いてない!」
「まあまあ、今はあいつらのお望みどおりにしてやろうじゃないか。公衆トイレの水場に行きな」
「……」

 不本意ながらも、岩瀬は応じざるを得なかった。久慈達はぞろぞろとついて来た。

「水場の水道を、左に一回と右に三回ねじるんだ」

 岩瀬が指示のとおりにすると、足元の地面が軽く振動し始めた。

 振動は次第に大きくなり、ちょっとした地震のように揺れた。ばりばりばりと音をたてて地面が左右に割れ、地下から鳥居がせり上がってくる。夕べ夢に出てきたのと同じだ。

 鳥居は、厳密には円形の皿のような地面に立てられた要領で皿ごと地上に出てきた。半径五メートルくらいか。鳥居の高さも五メートルほどある。

「乗れよ」

 ホラフキさんが勧めて、岩瀬は乗った。久慈以下も全員彼にならった。すると、鳥居は真下へゆっくり沈んだ。要するにエレベーターだ。土ぼこりや小石がぱらぱら落ちてくるが、このさいどうでもいい。

 鳥居がふたたび地中に姿を消すと、頭上が完全に閉ざされた。一瞬暗くなったがすぐ明かりがつく。エレベーターの内壁に、等間隔で照明がつけてあった。

 鳥居は、一同を数十秒の間地下へ地下へと届けていった。重々しい音と共に止まると、石畳の参道が伸びている。むろん、実際にはトンネルを改装してそのように見せている物だ。天井には、エレベーターよりずっとはっきりした明るさの照明がつけてあった。

 参道の幅は、これまた五メートルほどあった。

 新生ギ計画とやらの正体はさておき、悪趣味にもほどがあるだろう。岩瀬は、ホラフキさんがからんでなければ久慈達をここに残してさっさと地上に戻りたかった。

「ぼつぼつ先を急ぎなよ。種明かしは本殿でしてやるよ」

 ホラフキさんに急かされるまでもない。参道は、すぐに終わった。手水鉢はあるが水は流れておらず、誰もが無視した。

 それより、本殿だ。
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