ホラフキさんの罰

堅他不願(かたほかふがん)

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六 なし崩し 二

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 日帰りでこつこつ調査を重ねるのが王道だろう。

「ちょっと時間が残ってますし、無人駅に行ってみませんか?」
「俺もそう思っていたところだ」

 ここまできて、恩田の提案を断る手はない。さっき教わった通り、港の裏へ進むとすぐに見えた。

 コンクリート製のプラットホームには、『勝田』と記載された駅名標があった。ちなみに湯梨水門橋はここから一駅上りの『湯梨』から歩いて十分ほどになる。

 駅名標の隣には時刻表があった。さすがに、それらに落書きする人間はいない。

「ホラフキさん……どこでしょうね?」
「手分けして探そう」
「はい」

 探すといっても、駅名標と時刻表以外はせいぜいプラットホームと道路を仕切る金網があるくらいだ。待合用のベンチすらなかった。

「先輩、見つかりましたか?」
「いや……」

 思いつける箇所全部を、二、三分かそこらですぐに調べ尽くしてしまった。

 岩瀬は腕時計で時刻を確かめた。午後三時四五分。日没までわずかな時間しかない。

「ずっと立ちっぱなしでしたし疲れました。ちょっと休憩しませんか?」

 自分から持ちかけたのに、恩田はエネルギーが長持ちしなかった。

「そうだな。ジュースでも飲もう」

 ちょうど、無人駅のすぐ脇に自販機がある。

「やったー!」
「自分の分は自分で出せよ」

 恩田の調子の良さに、岩瀬はつい警戒した。

「当たり前ですよ、そのくらい。先輩こそあたしにおごって貰いたいんじゃないですか?」
「バカ、そんなはずないだろう」
「冗談ですよー。先輩、疲れてるんじゃありませんか?」

 恩田はくすくす笑いながらプラットホームを降りた。岩瀬も続いた。

 自販機で、恩田はオレンジジュースを買った。岩瀬は財布を出したが、手が滑って小銭を落とした。

「おっと」

 かがんで小銭を拾った直後、不意に閃いた。

 落書きを発見したのは小さな娘だ。大人じゃない。即ち視点が異なる。

「先輩、どうしたんですか?」

 オレンジジュースの缶を持ったまま、恩田は目を丸くした。岩瀬は小銭ごと財布をポケットにしまい、無人駅の出入口で腰を沈めた。すくい上げるように視線を地面からプラットホームへ移す。

「見つけた」
「え?」

 当然ながら、出入口は金網が区切られている。その支柱にホラフキさんがいた。支柱は金属製だから、マジックペンか何かで書いたのだろう。

 洞窟で目にしたのと変わらない、赤い布を丸ごとかぶった姿だ。ご丁寧にも『ホラフキさんだーれだ』と下手くそな字で書き添えてある。岩瀬の親指くらいでしかなく、探しかたを変えない限り見過ごしていただろう。

「わっ、スゴいじゃないですか先輩!」

 ほめたたえつつ、恩田はオレンジジュースのプルタブを開けた。 

「いったい、誰が書いたんだ?」
「やっぱり小さな子なんじゃないんですか?」
「とは決められないな……大人でもやろうと思えばこの高さで書ける」
「でも、わざわざそうする理由がないですよ」

 恩田はオレンジジュースを一口飲んだ。

「恩田、洞窟とこの落書き以外でホラフキさんの絵を見たことあるか?」
「いえ、ないです」
「俺もだ。ネット上の都市伝説だからな。にもかかわらず、全く同じ表現で別々な場所にあるということは……」
「ということは?」
「同一人物があちこちに書いて回っている可能性が高い」
「ただの偶然じゃないんですか? お化けなんて似たり寄ったりなイメージですし」
「だからって名前から色まで同じにはならないだろう」

 岩瀬は、自分のスマホで落書きを撮影した。
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