ホラフキさんの罰

堅他不願(かたほかふがん)

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五 浜辺の悲劇 一

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 どう処理したらいいものか。岩瀬の悩みに道筋をつけたのは、彼自身の身体だった。かなりはっきりと胃が鳴ってしまい、恩田は吹き出した。

「先輩、ちょっとお腹鳴り過ぎですよ」
「うるさいな。いいよ、俺ん家に上がれよ」
「えっ……?」
「この辺、余り気の利いた店はないからな。こっちからも話しておきたいことがあるし」
「でも、ご飯はどうするんですか?」
「恩田は食べたのか?」
「はい、一応」
「なら、俺も簡単にすませる。ただ、散らかってるからちょっと外で待っててくれ」
「先輩」

 恩田は改まった表情になった。

「何だ」
「いやらしいこと考えてるでしょ」
「するかーっ! いい加減にしろ。ここで話を続けるか?」
「それは寒いから嫌です」
「なら黙ってついて来い」

 岩瀬は歩き始めた。すぐにアパートの階段についた。

 帰宅それ自体が一大事業のような気がする。本来なら、自分一人で心おきなく食って寝るところなのだが。

 自宅の玄関前で鍵を出し、ドアを開けた。靴を脱いで上がってからは、猛烈な勢いで都合の悪い品……湿布が入ったままのゴミ箱、食卓に置いたままの薬に『合理主義と新大陸の魔女』、干されたというより晒されたままになっている洗濯物……を片づけた。ついでにベッドも整えて薬も飲んだ。本来なら食後用だが、このさい飲まないよりはましだろう。

「いいぞ」

 十分後、岩瀬は玄関を開けた。

「お邪魔しまーす」

 恩田が挨拶してきて、不意に悟った。母親以外の女性が自分の部屋に来るのは生まれて初めてだ。

「へええっ、これが男の人のお部屋なんですね」
「あんまりじろじろ見るなよ。ベッドの縁にでも座っててくれ」
「はーい」
「すまんが食事にする。すぐ終わらせるから待ってろ」
「大丈夫ですよ」

 岩瀬は冷蔵庫を開けた。もうほとんど作り置きは残ってない。それでも、生卵と冷凍米飯をだした。米飯を電子レンジで解凍し、生卵をかけて醤油を足らす。あとは箸と口を動かすだけだ。

 いただきますもごちそうさまもないまま、岩瀬は使い終わった食器を洗った。

 ようやくにも、恩田をもてなす準備に移れる。といってもお湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れるくらいだ。つけ合わせはビスケットしかなかった。

「悪いな、こっちの椅子まできてくれ」

 岩瀬が声をかけると、恩田は食卓の椅子に座った。

「お待たせ」

 岩瀬はコーヒーを出した。

「ありがとうございます」

 恩田が受け取ってから、岩瀬は自分のを作って彼女の向かい側に座った。

 砂糖やミルクも添えてあったが、恩田は何も使わずに飲み始めた。岩瀬は両方使ってから一口飲んだ。
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