悪役令嬢の私は聖女に浮気した第三王子から婚約破棄され宮殿も実家も追放になったので、試し斬り職人に弟子入りして彼の溺愛独占しますわ!

 「このぺてん師めが!」

 白昼。宮殿の私室で、吐き捨てるように宣言した婚約者……第三王子のバル殿下。その直後、鎧兜姿の衛兵達が私を囲んだ。

「御実家まで案内します」

 衛兵の一人がそう告げたときには、殿下は私に背をむけていた。まさか、自分が利用するつもりだった聖女に足をすくわれるとは!

 手も足も、口さえだせないままその日のうちに実家へ連れられると、門番が私をのせた馬車をとめた。

「我が主君から、出戻りの娘などは当家に存在しないという言葉がありましたので」

 門番の説明が、私を凍りつかせた。

 自分でもわかっていた。王子の婚約者という地位を守るために、他人を陥れたのだから。誰もが私を恐れるのが快感ですらあった。いまさら報いを恐れても手遅れだ。

 馬車からも実家からも放りだされた私はあてもなくぶらぶら歩き、いつしか川を見おろす崖まできていた。小さなころ、家族でピクニックにきた場所だ。

 皮肉な気持ちを噛みしめながら、いっそ身投げしようかと思っていたとき。

 一人の青年が、剣をたずさえやってきた。青年は私を無視して隣にたち、おもむろに剣を抜くと……沈みつつある夕陽を横一線に斬った! ように見えたのは錯覚だった。でもたしかにそう見えた。

「ふむ。まあまあか」

 青年は抜き身の剣をためつすがめつそうつぶやいた。

「あのう、もし……」

 勇気をふるって、私は声をかけた。

 私の受けたざまぁは、ここから逆転する。でも彼、鑑定士のくせに恋愛音痴なの。さっさと私を溺愛しなさい!
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