エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑶ ラスボスとの直接対決

季節外れのサンタ気取り

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「は、はあ……!? そ、そんな、急に何を言い出すんだよ、真由!」


 そう俺は真由の背中に叫んだが、真由は俺を振り返ることはなかった。


「何を言っているとは、むしろ君へのセリフだぞ? 昴くん」


 それどころか、妙に落ち着いた口調のハロルドの言葉に振り返ると、俺、ゾーイ、望、ローレンさんを囲むように、他のみんなが立ち塞がっていたのだ。
 待てよ、この展開って、まさか……


「下がって別ルートを探すなど、そんな選択肢は初めからないのだよ」
「後戻りは許されないと、あなたは身に染みてわかっているでしょう」


 大人びた笑いを零すハロルドと、眼鏡を外して深く息を吐いたモーリスは、俺の右方向へ。


「そもそもさ、僕達はもうここで離れることが最善なんだよ!」
「そうね……私達はもう、あまり体力が残っていないわ。一緒に行っても足でまといになるのは目に見えてる」


 まったく場にそぐわない明るい声を出したジェームズと、覚悟を決めたように言い放ったクレアは、俺の左方向へ。
 それぞれが、向かってくる追っ手と対峙するようにそこにいた。
 ああ、さっきと同じになる、みんなはここで……


「わかった。じゃあ、ゆっくり休みな」


 君はどうして、そんな強いのか……俺はまだ覚悟ができていないのに。


「ゾーイ、待っ……!!」
「昴、行くぞ!」
「待てって、望……!! 真由! 残るとか言うなよ! 一緒に行こう!」


 往生際が悪い俺を他所に、もうゾーイは前を向いていた。
 ゾーイを引き止めようと伸ばした俺の手を握り、望は俺のことを連れて行こうと声を荒らげた。
 けど、どこまでも情けない俺は、その手を振り切り、せめて真由だけでもと手を伸ばしたのだが……
 

「昴、ごめん……私は残る」


 当たり前だが、その俺の手は真由に受け取ってもらえるはずもなかった。


「何でだよ……!?」
「昴! ゾーイとの約束忘れたの!?」


 それでも叫ぶ俺の両肩を掴んで、俺を留まらせたのは菜々美だった。


「離れても、止まらないで……それが恋人だとしても! 昴は先に進まなきゃダメなのよ!? 今、真由がどんな思いで送り出してるかわからないの!?」


 俺を叱って説得している菜々美の顔は真っ赤で、そこには怒りとか、悲しみだとかの感情が溢れていた。
 わかってる、もうみんなは俺達四人のことを庇ってボロボロだ。
 とっくに足が限界で走ることだってままならないだろうし、人数が多くなるほどスピードは落ちていく。
 俺達四人だけで、このまま目的地まで突っ切るのが最善ってわかってる、頭ではわかってるんだよ、けど……


「昴、行ってくれ……!!」


 そんないつまでも踏み出せない俺に声を上げたのは……


「サトル……」
「真由のことは、僕の命よりも優先して守るって約束する! だから、昴! お前は、俺達の希望を……ゾーイを届けてくれ! そして、見届けろ!」


 サトルはいつもの余裕のある笑みはどこに置いてきたやら、立っているのが奇跡のように膝が笑っている。
 それでもサトルは、俺にまっすぐと手を伸ばすんだ。
 ごめんな、サトル? こんなに弱くて頼りない親友で、強くなりたいな……


「それと、バカみたいなこの場の空気に酔っているようなこと言うけどさ……僕の魂、お前に預けるよ!」


 泣きたかった……けど、泣くのはここじゃないと思った。
 じゃあ、その魂は、俺が全力で届けなきゃいけないよな……青春ドラマかよ。
 ありがとう、みんな……俺はもう、振り返るのはやめるよ。
 俺はサトルから伸ばされた手を取って立ち上がり、この世で一番大好きな子に告げる。


「真由、また後でな! 行ってくる!」


 真由は頷くだけだった……それだけでよかった、伝わった。
 背中が震えていたのがわかったから。


「バカじゃん? 今生の別れじゃないでしょうが」
「……ごめん、もう大丈夫だ」


 ようやく決心がついた俺を、ゾーイは呆れた顔で待っていた。
 けど、特に俺の謝罪の後に言葉が続くことはなく、俺に目を合わせると、君は深いため息をついて、無言で走り出す。
 慌てて、俺、望、ローレンさんは、その背中を必死に追いかけた。


「はあ、はあ……あー、もう足が……!!」
「限界だああ! 使いもんならねえ、完全にこれは……」


 とにかく、俺達は目の前のことに対処していくのに必死だったんだ。
 ひたすら走り続けて、最短ルートで最上階に駆け上って、しつこい追っ手をゾーイが先陣を切って迎え撃つのを、俺と望がサポートして、ローレンさんのことを守って……
 だから、ほとんど思考が動いてない状態で、俺と望はゾーイの言われるままにそこに突っ込んでと言われて、どこかの部屋の扉に体当たりをしたんだ。
 そして、そのまま力尽きた俺と望は床に倒れ込んだから、わからなかった。


「これは、これは……噂の元気のいいお客人というのは、君達のことかな?」


 空島にいる時に、何度となく画面の向こうで聞いていた心地よい声。
 不思議な安心感があると評判で、その人気の一つの大きな要因となったとまで言われたその声だが、今の俺は張り付くような恐怖に体が動かなかった。


「少し、元気が良すぎましたか?」


 そんな時に響いた、俺達の希望となるその淡々として、堂々としたソプラノ。


「おや、君は?」
「ただの通りすがりです。騒がしくしてしまって、申し訳ありません。実はあたし達、今日はあなたへの贈り物を届けに来たんです」


 ゾーイは臆することなく、むしろ対等に張り合って、相手と話をしていた。
 贈り物……君の言葉のチョイスは、普段と変わらないね。
 それ、とんでもない皮肉だと思うよ?


「……お久しぶりです、おじい様」


 ゾーイの手を挙げて紹介をするような仕草とともに、後ろから現れたローレンさんは、そう震えながら告げた。
 俺達はついに、ラストステージへと足を踏み入れたのだ。
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