エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

狂った計画と君との距離感と

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「そう。祖父が空島の首相に就任し、状況がすべて変わったわ……怖いものがあまりなくなったと言った方が正しいのかもしれないけど、祖父が国民の支持を集める水面下で、着実に神変動説を叶える計画は進行していった……!!」


 ゾーイの言葉に続くローレンさんの言葉は震えており、ローレンさん自身も体を抱き込むようにしていた。
 よく見ると、とても顔色も悪かった。


「確かに、空島のトップ……それも国民の絶対的な信頼を得た奴にとったら、歴史の表舞台的にはまったく無名の人間の手記の暴露本が出たところで、痛くも痒くもねえわな?」
「権力を得た者にとって、遥か昔の人間の言葉など、赤子の手をひねるぐらいのことなのでしょうね」


 そんなローレンさんを他所に、望は冷静に吐き捨て、続くモーリスも眼鏡をかけ直しながら鋭く指摘をしていた。
 本当に人間は、見た目で判断してはダメなんだな……その腹の奥底で、一体何を考えているのかなんて、わかったものじゃない。


「それで? そこからの、物語の進行状況はどうなっていったわけ?」


 まあ、何を考えてるかわからないってことに関しては、この中ならダントツでゾーイに当てはまるよな……
 そんなゾーイは、震えているローレンさんにお構いなしに、通常通りに真顔で問いかけている。
 しかし、ローレンさんも、そのゾーイの真顔を前にしたからなのか、落ち着きを取り戻し、再び話し始めたのだ。


「……そこからの毎日は同じよ。どうやって神変動説を遂行するのか、そればかりが一族の大人達の間で話し合われてたけど……その話し合いに終止符を打ったのも、祖父だったわ」
「それが、ナサニエルを地上に落とす計画の始まりだったってこと?」


 わかっていたが、わかっていても質問せずにはいられなかった。
 だから、俺は、あえてそんなバカげた質問を投げかけた……ローレンさんが頷くことをわかっていて。


「ど、どうして……? どうして、ナサニエルだったの!?」
「祖父が言っていたのは、未来への希望溢れる若者を地に落とすことで、神の怒りを表現できるからって……そして、その執行人に選ばれたのが私と……」


 責めるような強い口調で、ジェームズはローレンさんに詰め寄った。
 それにローレンさんは力なく淡々と答えていたのだが、最後まで言葉を紡ぐことはなかった……後に続く言葉は全員が察しただろう。


「死んだ……あ、違うわね? あんたが殺した男ってことね?」


 そして、それをゾーイが全力で煽ることも、全員わかっていただろう……


「あんたはあの日に、あの男を清掃員としてナサニエルに忍び込ませた。それで最初は……そうね、監視カメラに細工をしたかな? そのまま、あんたらはコックピットに行き、ナサニエルとシエロを切り離した。男の方は、これで終わりだと、あとは脱出するだけだと安堵したでしょうね? 現実って残酷よね」


 否定しないところを見ると、ゾーイの推理は当たっているのだろう……けど、ゾーイは見事な推理を披露しながらもこれでもかと、ローレンさんを煽る。
 もうそれは、殺意を覚えるであろうほどに煽っていく。
 けど、謎も解けたことがある……ナサニエルとシエロを切り離すには限られた人間しか知らないパスワードを入力しなければならないのだが、納得だ。
 空島の首相なら、そんなもの簡単に手に入るだろう。


「けど、疑問なのよね? あんな大男にどうやって毒を飲ませたの?」


 そして、ゾーイはいつも通りに淡々と自分の中のペースを乱すことなく、話を進めていくのだ。
 けど、その質問をした瞬間に空気に亀裂が入った気がした……


「そんなこと、今は……!!」


 当たり前だが、ローレンさんはこれ以上ないってぐらいに、ゾーイのことを真っ直ぐに睨みつけていた。
 心の底からの憎しみのすべてを込めたような、そんな睨みだった。
 しかし、ゾーイがそれごときで、怯むはずも、引き下がるはずも……ましてや見逃すはずもなかった。


「約束破る気か? 話せ、逃げんじゃねえよ。自分が犯した罪と向き合えよ」


 同い年とは思えないような、頷くことしか許されないような迫力とオーラ。
 ゾーイは、また一瞬にしてこの場の全員の頂点に立った。
 どんな人生を送ってくれば、こんなオーラを出せるのか、生まれ持ったものなのか……そんな疑問が晴れるなんて日は来るのだろうか。
 とにかく、今言えることは、ローレンさんには勝ち目はないということだ。


「聞こえなかったのか?」
「あ……彼に、は……!! 彼には、持病があって、興奮や極度の緊張状態が続くと発作が出るから……あ、あ……!! 薬を常に持ち歩いてて、それを……毒に!」


 見事に震え、泣きそうになりながらローレンさんは言葉を紡いだ。
 ほとんど限界なのではないかと思うほどに、怯えきっていたのだが……


「あっそ、こりゃまた残忍だこと」


 話し終えた時には、ゾーイはしっかりといつものゾーイに戻っていた。
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