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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
嫌味を通り越して悪口ですよ
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「ハロー、振られ野郎! 元気?」
その夜に、サトルの部屋に入って来たゾーイの開口一番はそれだった。
「ゾーイ!? どうして、君はそういう繊細な部分をエグるような……!! まず、橘さんは振ったなんて言ってないだろ!?」
「は? 言ってなくたって、どっちが振った側かなんて明白じゃないのよ」
「そういう問題じゃなくてね!?!?」
「昴! もういいから! 庇ってくれるのは有難いけど、絶対に勝ち目はないだろうからやめとけ? なっ?」
どんなに長く一緒に過ごしても、ゾーイのデリカシーの皆無っぷりが治ることはなかった。
というより、何だか前よりもパワーアップしてないか?
けど、サトルの止める言葉通り、俺がゾーイに勝つことは、太陽が西から昇るくらいありえない。
自分で言ってて悲しくなるが、事実なので俺は大人しく身を引いた。
ナサニエルから帰還して、それぞれの部屋に戻ろうとした時に、俺はサトルに呼び止められた。
その時に俺はサトルから、夜にゾーイと一緒にサトルの部屋に来てほしいと言われたのだ。
サトルの部屋に先に着いたのは予想通りに俺で、ゾーイがとんでもない言葉とともに入って来るまで、俺達はいつも通りのくだらない会話をしていた。
俺は、サトルといつも通りに会話を楽しむことができていただろうか……
サトルに隠し事をされてたとわかった日から、俺は何とも言えない気持ちをサトルに抱えていた。
そんな思考を巡らせていると、ゾーイはサトルに促されるままに、俺の隣に座ったのだ。
「……菜々美は、何て?」
「話し合って決めたって言ってたわよ」
「気を遣わせちゃったかな……」
「しかも、最後の最後までね? まったく手のかかる最低な元彼だわね」
容赦も遠慮もないゾーイの言葉に、サトルは目に見えて沈んでいた。
本当に、今回は特にゾーイの言葉はグサリと刺さるものばかり……
けど、サトルはそれら全ての言葉を真正面から受け止めているようだった。
「菜々美は母さんに似てるんだ。顔とかじゃなくて、性格や考え方とかが……」
「それで付き合ったのか?」
「……最低なんだけど、好きになれると思ったんだ」
「どこまでも、マザコンの腐れ野郎ね」
悲しそうに、切なそうに母親のことを語るサトルの言葉に付け足すように、俺はサトルに問いかけた。
そのサトルの覇気のない答えに対するゾーイの言葉は、これまた揺るぎない辛辣なものだった。
「本当にね……母さんが殺された時、僕は安全な場所に逃がされたんだ……全て僕を守るためだったんだろうけれど、そのおかげで僕は家族を失った」
辛く苦しいことを思い出してるはずなのに、サトルは絶対に涙を浮かべる素振りすらなかった。
きっと、両親のことで泣くことに、サトルは涙を使い果たしたのだろうと俺は思ってしまった……もう、サトルは、泣けないのだ。
「だから、二度と失わないようにしようと誓ったんだけど……結果、それが菜々美を傷つけたし、みんなにも、特に昴とゾーイには本当に迷惑をかけた。本当に申し訳なかった……」
「サトル、頭上げろって! ゾーイはともかく、俺は別に……」
サトルは震えながら、その場で床に額をつけて、俺達に土下座をした。
俺は思わず、サトルに叫んでしまう。
そうだよ、俺は別にサトルに謝ってほしいわけじゃなくて……
「昴。あんたさ、そこの最低マザコン野郎に聞きたいことあるんでしょ?」
「え……?」
そんな時に俺の心を読むように、ゾーイが俺のことを見てそう告げてきた。
「サトルに隠し事されてたってわかった時から、落ち着きないのをあたしが気が付かないとでも思ってるの?」
間抜けな声が出た俺に対して、呆れたようにため息をついたゾーイは何でもお見通しだという具合に、淡々と告げる。
そうだね、君に隠し事をするなんて無理な話だったね……
「……サトル。お前は、俺のことをどう思っていたんだ」
君の言葉に背中を押されるのは、もう何度目だろうか。
けれど、君の少しだけ回りくどくて棘のある言葉は、自然と俺や他の人間の足を進めさせるのだ。
そう、だから、今回も俺はまた一歩勇気を振り絞って前に出てみたわけだ。
その夜に、サトルの部屋に入って来たゾーイの開口一番はそれだった。
「ゾーイ!? どうして、君はそういう繊細な部分をエグるような……!! まず、橘さんは振ったなんて言ってないだろ!?」
「は? 言ってなくたって、どっちが振った側かなんて明白じゃないのよ」
「そういう問題じゃなくてね!?!?」
「昴! もういいから! 庇ってくれるのは有難いけど、絶対に勝ち目はないだろうからやめとけ? なっ?」
どんなに長く一緒に過ごしても、ゾーイのデリカシーの皆無っぷりが治ることはなかった。
というより、何だか前よりもパワーアップしてないか?
けど、サトルの止める言葉通り、俺がゾーイに勝つことは、太陽が西から昇るくらいありえない。
自分で言ってて悲しくなるが、事実なので俺は大人しく身を引いた。
ナサニエルから帰還して、それぞれの部屋に戻ろうとした時に、俺はサトルに呼び止められた。
その時に俺はサトルから、夜にゾーイと一緒にサトルの部屋に来てほしいと言われたのだ。
サトルの部屋に先に着いたのは予想通りに俺で、ゾーイがとんでもない言葉とともに入って来るまで、俺達はいつも通りのくだらない会話をしていた。
俺は、サトルといつも通りに会話を楽しむことができていただろうか……
サトルに隠し事をされてたとわかった日から、俺は何とも言えない気持ちをサトルに抱えていた。
そんな思考を巡らせていると、ゾーイはサトルに促されるままに、俺の隣に座ったのだ。
「……菜々美は、何て?」
「話し合って決めたって言ってたわよ」
「気を遣わせちゃったかな……」
「しかも、最後の最後までね? まったく手のかかる最低な元彼だわね」
容赦も遠慮もないゾーイの言葉に、サトルは目に見えて沈んでいた。
本当に、今回は特にゾーイの言葉はグサリと刺さるものばかり……
けど、サトルはそれら全ての言葉を真正面から受け止めているようだった。
「菜々美は母さんに似てるんだ。顔とかじゃなくて、性格や考え方とかが……」
「それで付き合ったのか?」
「……最低なんだけど、好きになれると思ったんだ」
「どこまでも、マザコンの腐れ野郎ね」
悲しそうに、切なそうに母親のことを語るサトルの言葉に付け足すように、俺はサトルに問いかけた。
そのサトルの覇気のない答えに対するゾーイの言葉は、これまた揺るぎない辛辣なものだった。
「本当にね……母さんが殺された時、僕は安全な場所に逃がされたんだ……全て僕を守るためだったんだろうけれど、そのおかげで僕は家族を失った」
辛く苦しいことを思い出してるはずなのに、サトルは絶対に涙を浮かべる素振りすらなかった。
きっと、両親のことで泣くことに、サトルは涙を使い果たしたのだろうと俺は思ってしまった……もう、サトルは、泣けないのだ。
「だから、二度と失わないようにしようと誓ったんだけど……結果、それが菜々美を傷つけたし、みんなにも、特に昴とゾーイには本当に迷惑をかけた。本当に申し訳なかった……」
「サトル、頭上げろって! ゾーイはともかく、俺は別に……」
サトルは震えながら、その場で床に額をつけて、俺達に土下座をした。
俺は思わず、サトルに叫んでしまう。
そうだよ、俺は別にサトルに謝ってほしいわけじゃなくて……
「昴。あんたさ、そこの最低マザコン野郎に聞きたいことあるんでしょ?」
「え……?」
そんな時に俺の心を読むように、ゾーイが俺のことを見てそう告げてきた。
「サトルに隠し事されてたってわかった時から、落ち着きないのをあたしが気が付かないとでも思ってるの?」
間抜けな声が出た俺に対して、呆れたようにため息をついたゾーイは何でもお見通しだという具合に、淡々と告げる。
そうだね、君に隠し事をするなんて無理な話だったね……
「……サトル。お前は、俺のことをどう思っていたんだ」
君の言葉に背中を押されるのは、もう何度目だろうか。
けれど、君の少しだけ回りくどくて棘のある言葉は、自然と俺や他の人間の足を進めさせるのだ。
そう、だから、今回も俺はまた一歩勇気を振り絞って前に出てみたわけだ。
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