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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
覚悟皆無でお遊戯会決定
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「わかった。あんたら全員殺して、あたしだけ生きるってのは、どう?」
ウェーブがかった高い位置に結ばれたポニーテールが、ゆらりと風に揺れる。
全てを見透かしているかのような、透き通る青の瞳が光る。
君のたった一言で俺達はいつだって支配されてきた。
それがわかってるというように――ゾーイ・エマーソンは笑うのだ。
その場の……戦場にいた全員が、争うことをやめ、たった一人の少女をその視界に入れるために、遥か上を見上げた。
「さてと……祭りの始まりじゃああ!!」
すると、一瞬は静まり返っていた戦場に再びというより……それ以上の悪夢が訪れることになった。
ゾーイの高らかなやけに響いた叫びとともに、次々と味方や敵は関係なくバズーカは連射され、地面を削り上げて、辺り一面に爆音と悲鳴が響く事態。
「ゾーイ!?!? 今度ばかりは、おかしいわよ!? 正気なの!?」
「どうするつもりなんだ!?!? このままでは死人が出てしまうぞ!!」
「もう頼むから、落ち着けって!! この後のことを考えてくれよ!!」
あまりの爆音に耳を押さえ、衝撃で転げ落ちないように踏ん張る、俺達。
クレア、ハロルド、コタロウの三人が代表し、そのバズーカの爆音に埋もれることのないようにこれでもかと大声を張り上げている。
すると、タイミング良く、バズーカの連射は止まったが、それは三人の訴えに答えたというよりは……
「あー、残念ね。弾が切れちゃった」
ゾーイは驚くほどの棒読みで、どこに隠し持っていたのか拡声器でそう呟く。
もう、何が何やら……俺はこの時点でどっと疲れが溢れ出していた。
「なっ……何が弾が切れただ、何が!! 頭の中どうなってんだ!!」
「ふざけやがって、このイカレ女が!!」
「信じられないんだけど!? 私達のこと殺すつもり!?!?」
王国の犬族と猫族、百鬼夜行、他の生徒達、本当にあちこちから味方や敵が関係ない状態で、ゾーイに対しての誹謗中傷が飛び交う始末。
まあ、そりゃそうだろうよなんて、俺達は目を合わせていたのだが……
「殺すつもりだったけど」
聞き間違いかと思ったが、君の声は良くも悪くも、よく響く。
拡声器を通した迷いのない言葉に、俺達は再び言葉を失っていた。
「……とか言ったら、どうするのよ?」
それは例えるならば、大きな今にも割れそうな風船に針が刺され、破裂することなく萎んだような状態。
まるで刺されるような空気は、その空気を作り上げた張本人のゾーイの淡々とした口調でぶった斬ることになった。
俺はそこで、止めてた息を吐き出す。
冗談だったのか……こんなに嘘でよかったと思うこともないと、俺だけじゃなくてその場の誰もが思っただろう。
「ねえ、暇になっちゃったから、興味本位で聞くんだけど、この中で人を殺したことある奴っている?」
けど、あいもかわらず、ゾーイのその青い瞳の真意を読み解くことは、俺にはまだできなかった。
ゾーイは、さっきの自分の発言の流れを完全に無視して、俺達にまた厄介な質問を投げかけてきたのだ。
当然だけど、その質問に答える者は誰一人いなかったのだが……
「何だ、揃いも揃ってこの戦争に覚悟を持ってないのね? じゃあ、これってお遊戯会か何か? あんたら全員さ、戦争を自由を掴み取って支配するための最終手段って思ってる? 違うからね? はっきり言わせてもらうけど、戦争はただの殺し合いだからね?」
それに返ってきたゾーイの答えは、まあ散々なものだった。
けど、それで気付いたことがある。
俺達が気付いた時点で、どれほどこの戦乱の状態が経過していたのかどうかはわからないけど、この時点で誰も死人が出ていなかったのだ。
ここから見た状態だとあまり正確にはわからないが、ケガをしてる者は少し見当たるが、明らかな死体は見当たらなかった。
少し前にレオに聞いたことがある。
地上では、殺害はこの世界の最大の悪とされており、その罪は死んでも消えることのない恐ろしいものだと、これは地上の神リンの啓司だと、子どもの頃に教えられるのだとか。
だから、よほどの理由でもない限りは犬族や猫族は仲間の命を絶つ行為をすることはありえないのだそう。
まあ、それを聞いたゾーイがあたし達のことは処刑したくせにと、何とも鋭く正直な気まずい指摘をしていたことは苦笑いしか出なかったが……
荒くれ集団だと噂されている百鬼夜行さえも殺しをしないのだと聞いたが、この状況を見るにそれは本当なのだろう。
他のナサニエルの生徒も、もちろん同じで俺達も同様だが、誰かを刺すという行為すらできる者はほぼいないだろう。
「それじゃ聞くがな? そんなこと言うくらいなら、お前は誰かの命を絶ったことがあるのかああああ!?!?」
「……人は殺したことなんてないわよ」
言われっぱなしに腹が立った百鬼夜行の一人の猫族が、大声でゾーイに叫ぶ。
その挑発に対して、ゾーイはそれまでよりも明らかに物静かに呟いた。
それを聞いた他の戦場に立たされてた奴らが、一斉にざわつき始める。
「けど、人が目の前で死ぬ瞬間は見たことはある。何度もね?」
しかし、その君の一言によって、俺達の周りはまた、音を盗まれたように静まり返るのだった。
ウェーブがかった高い位置に結ばれたポニーテールが、ゆらりと風に揺れる。
全てを見透かしているかのような、透き通る青の瞳が光る。
君のたった一言で俺達はいつだって支配されてきた。
それがわかってるというように――ゾーイ・エマーソンは笑うのだ。
その場の……戦場にいた全員が、争うことをやめ、たった一人の少女をその視界に入れるために、遥か上を見上げた。
「さてと……祭りの始まりじゃああ!!」
すると、一瞬は静まり返っていた戦場に再びというより……それ以上の悪夢が訪れることになった。
ゾーイの高らかなやけに響いた叫びとともに、次々と味方や敵は関係なくバズーカは連射され、地面を削り上げて、辺り一面に爆音と悲鳴が響く事態。
「ゾーイ!?!? 今度ばかりは、おかしいわよ!? 正気なの!?」
「どうするつもりなんだ!?!? このままでは死人が出てしまうぞ!!」
「もう頼むから、落ち着けって!! この後のことを考えてくれよ!!」
あまりの爆音に耳を押さえ、衝撃で転げ落ちないように踏ん張る、俺達。
クレア、ハロルド、コタロウの三人が代表し、そのバズーカの爆音に埋もれることのないようにこれでもかと大声を張り上げている。
すると、タイミング良く、バズーカの連射は止まったが、それは三人の訴えに答えたというよりは……
「あー、残念ね。弾が切れちゃった」
ゾーイは驚くほどの棒読みで、どこに隠し持っていたのか拡声器でそう呟く。
もう、何が何やら……俺はこの時点でどっと疲れが溢れ出していた。
「なっ……何が弾が切れただ、何が!! 頭の中どうなってんだ!!」
「ふざけやがって、このイカレ女が!!」
「信じられないんだけど!? 私達のこと殺すつもり!?!?」
王国の犬族と猫族、百鬼夜行、他の生徒達、本当にあちこちから味方や敵が関係ない状態で、ゾーイに対しての誹謗中傷が飛び交う始末。
まあ、そりゃそうだろうよなんて、俺達は目を合わせていたのだが……
「殺すつもりだったけど」
聞き間違いかと思ったが、君の声は良くも悪くも、よく響く。
拡声器を通した迷いのない言葉に、俺達は再び言葉を失っていた。
「……とか言ったら、どうするのよ?」
それは例えるならば、大きな今にも割れそうな風船に針が刺され、破裂することなく萎んだような状態。
まるで刺されるような空気は、その空気を作り上げた張本人のゾーイの淡々とした口調でぶった斬ることになった。
俺はそこで、止めてた息を吐き出す。
冗談だったのか……こんなに嘘でよかったと思うこともないと、俺だけじゃなくてその場の誰もが思っただろう。
「ねえ、暇になっちゃったから、興味本位で聞くんだけど、この中で人を殺したことある奴っている?」
けど、あいもかわらず、ゾーイのその青い瞳の真意を読み解くことは、俺にはまだできなかった。
ゾーイは、さっきの自分の発言の流れを完全に無視して、俺達にまた厄介な質問を投げかけてきたのだ。
当然だけど、その質問に答える者は誰一人いなかったのだが……
「何だ、揃いも揃ってこの戦争に覚悟を持ってないのね? じゃあ、これってお遊戯会か何か? あんたら全員さ、戦争を自由を掴み取って支配するための最終手段って思ってる? 違うからね? はっきり言わせてもらうけど、戦争はただの殺し合いだからね?」
それに返ってきたゾーイの答えは、まあ散々なものだった。
けど、それで気付いたことがある。
俺達が気付いた時点で、どれほどこの戦乱の状態が経過していたのかどうかはわからないけど、この時点で誰も死人が出ていなかったのだ。
ここから見た状態だとあまり正確にはわからないが、ケガをしてる者は少し見当たるが、明らかな死体は見当たらなかった。
少し前にレオに聞いたことがある。
地上では、殺害はこの世界の最大の悪とされており、その罪は死んでも消えることのない恐ろしいものだと、これは地上の神リンの啓司だと、子どもの頃に教えられるのだとか。
だから、よほどの理由でもない限りは犬族や猫族は仲間の命を絶つ行為をすることはありえないのだそう。
まあ、それを聞いたゾーイがあたし達のことは処刑したくせにと、何とも鋭く正直な気まずい指摘をしていたことは苦笑いしか出なかったが……
荒くれ集団だと噂されている百鬼夜行さえも殺しをしないのだと聞いたが、この状況を見るにそれは本当なのだろう。
他のナサニエルの生徒も、もちろん同じで俺達も同様だが、誰かを刺すという行為すらできる者はほぼいないだろう。
「それじゃ聞くがな? そんなこと言うくらいなら、お前は誰かの命を絶ったことがあるのかああああ!?!?」
「……人は殺したことなんてないわよ」
言われっぱなしに腹が立った百鬼夜行の一人の猫族が、大声でゾーイに叫ぶ。
その挑発に対して、ゾーイはそれまでよりも明らかに物静かに呟いた。
それを聞いた他の戦場に立たされてた奴らが、一斉にざわつき始める。
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