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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
リセットはできないんだ
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「女、子どもは留守番よ」
言い返すことなんてとてもできない圧倒的なオーラを放つゾーイと、その目の前に立っている、まるで蛇に睨まれた蛙のような状態の真由とソニア。
誰もが一歩後ずさるが、その時の地面を擦る音さえ許されないような雰囲気。
俺達は、談話室のそれぞれの定位置のイスに座りながら、その三人をただただ見守ることしかできなかった。
「お願いよ、ゾーイ! じっとここで待ってるなんて、嫌なの! 私も救出隊に同行させて!」
「何度言っても、許可はしないから」
「ゾーイのわからず屋! ケチ!」
「何とでも言えばいいわ。ダメなものは絶対にダメ」
埒が明かないとか、可哀想だというのはこういう状況を言うのだろう。
真由は涙目でゾーイに食い下がり、ソニアは大声で不満を叫ぶ。
それら全てをゾーイは真顔で淡々と流していく、その繰り返しだ。
もうこのやり取りは朝から三時間ほどは余裕で続いているが、どちらも一切折れる気配はなかった。
「わ……私、医療科だし! きっと、ケガをしてる人も多いと思うし、絶対役に立てるわ!」
「はあ……何度も言うけど、それならここでシャノンと待ってて。ケガ人を山のように連れ帰るかもしれないんだから」
真由は諦めず、一所懸命にゾーイの説得を試みるが、ゾーイはため息をついてサラリと流していく。
あれから、少し寝て……いや、俺は全然寝れなくて、それは多分、ゾーイ以外は全員そうだったと思う。
優れない顔色のまま、いつもと同じようにデルタとソニアが作ってくれた朝食を食べて、俺達は準備を始めた。
準備とはもちろん、ナサニエルに行く準備で……罠にかかりに行く準備だ。
レオとモカは、事の次第を王国全体に包み隠さず話した。
そして、残りの兵士はもちろん、王国の男は全員ナサニエルに向かうこととなったのだ。
女、子どもは基本的に留守番だ。
ゾーイが言うように、ローレンさんはそのことに納得し、王国で待っている。
けど、それならば、真由とソニアも留守番することに大人しく同意したのだろうが、例外があったのだ。
「どうしてよ!? 男連中が全員行くことはまだ納得できるけど、ゾーイとモカだって、ナサニエルに行くじゃない! それなのに女と子どもは留守番とか、絶対おかしいじゃん!」
「ソニア、落ち着けって……」
「兄貴は口出ししないで、黙ってて!」
ソニアが怒鳴る姿を見兼ね、デルタが宥めようとするが、ソニアはそれをものすごい剣幕で跳ねのける。
そんな妹の様子に、デルタは苦笑いで身を引いていた。
そう、例外とは、ゾーイとモカだ。
ソニアが言うように、ゾーイとモカは俺達と一緒にナサニエルに行くことになった。
「おかしくないわよ。今は、一人でも多くの戦力が必要な時なの。動ける奴と役に立つ奴は、強制参加なの」
「だから! それなら、あたしと真由の二人が入ったら戦力アップじゃん!」
「違う。あのね? 今回は、頭数が多ければいいって問題じゃないの。今回は量より質なの」
「足でまといには、絶対にならないようについて行く! 約束するわよ!」
何の進展もしないゾーイの返事に、ソニアはイラついてどんどんヒートアップしていく。
けど、その一方で、淡々と言い返すゾーイは顔色一つ変えることはなく……
「わかってないわね? いい? 足でまといにならないは最低条件なの。それ以上の働きをして、戦力になってもらわなきゃ困るのよ。今、ナサニエルがどんな状態なのかわからないの。どれぐらいの敵がいるか、何もわからないのよ?」
ゾーイは容赦なく、ソニアに厳しく正しすぎる言葉を吐き捨てた。
俺達を入れた王国側の戦力は、およそ五百人といったところだ。
ナサニエルに残っている、おそらく監禁されてるだろう生徒達は約二百人。
そんなナサニエルを制圧したフウタが率いるモーリス達側が、一体どれだけの戦力を持ち、俺達がやって来るのを待ち構えているのか……
それは誰にもわからないことだから。
「戦闘だってあるかもなのよ? そうなったら、あんたら二人はどうするの? 守ってもらうじゃダメなのよ? これはゲームじゃないんだから、失敗してもリセットなんてできないのよ?」
さらに続けていたゾーイの言葉が決定打となったか、ソニアは俯いて、それは悔しそうに押し黙った。
隣の真由も、涙をこらえてるような表情をする。
ゾーイの言葉は間違っていないし、むしろ正論だ。
正体不明の敵の罠に自らかかりに行く俺達は、とても滑稽だろう。
命に関わるかもしれない場所に、本音を言うと俺は行きたくないし、真由には諦めてほしいし、望にさえ本当はここで待っていてほしいほどだ、けど……
「お願いします、ゾーイ……菜々美のことを助けに行かせて……!!」
今回だけは真由が絶対に譲ることはありえないだろうと、俺は思った。
予想通りに、真由はゾーイに向かって土下座をしたのだから。
言い返すことなんてとてもできない圧倒的なオーラを放つゾーイと、その目の前に立っている、まるで蛇に睨まれた蛙のような状態の真由とソニア。
誰もが一歩後ずさるが、その時の地面を擦る音さえ許されないような雰囲気。
俺達は、談話室のそれぞれの定位置のイスに座りながら、その三人をただただ見守ることしかできなかった。
「お願いよ、ゾーイ! じっとここで待ってるなんて、嫌なの! 私も救出隊に同行させて!」
「何度言っても、許可はしないから」
「ゾーイのわからず屋! ケチ!」
「何とでも言えばいいわ。ダメなものは絶対にダメ」
埒が明かないとか、可哀想だというのはこういう状況を言うのだろう。
真由は涙目でゾーイに食い下がり、ソニアは大声で不満を叫ぶ。
それら全てをゾーイは真顔で淡々と流していく、その繰り返しだ。
もうこのやり取りは朝から三時間ほどは余裕で続いているが、どちらも一切折れる気配はなかった。
「わ……私、医療科だし! きっと、ケガをしてる人も多いと思うし、絶対役に立てるわ!」
「はあ……何度も言うけど、それならここでシャノンと待ってて。ケガ人を山のように連れ帰るかもしれないんだから」
真由は諦めず、一所懸命にゾーイの説得を試みるが、ゾーイはため息をついてサラリと流していく。
あれから、少し寝て……いや、俺は全然寝れなくて、それは多分、ゾーイ以外は全員そうだったと思う。
優れない顔色のまま、いつもと同じようにデルタとソニアが作ってくれた朝食を食べて、俺達は準備を始めた。
準備とはもちろん、ナサニエルに行く準備で……罠にかかりに行く準備だ。
レオとモカは、事の次第を王国全体に包み隠さず話した。
そして、残りの兵士はもちろん、王国の男は全員ナサニエルに向かうこととなったのだ。
女、子どもは基本的に留守番だ。
ゾーイが言うように、ローレンさんはそのことに納得し、王国で待っている。
けど、それならば、真由とソニアも留守番することに大人しく同意したのだろうが、例外があったのだ。
「どうしてよ!? 男連中が全員行くことはまだ納得できるけど、ゾーイとモカだって、ナサニエルに行くじゃない! それなのに女と子どもは留守番とか、絶対おかしいじゃん!」
「ソニア、落ち着けって……」
「兄貴は口出ししないで、黙ってて!」
ソニアが怒鳴る姿を見兼ね、デルタが宥めようとするが、ソニアはそれをものすごい剣幕で跳ねのける。
そんな妹の様子に、デルタは苦笑いで身を引いていた。
そう、例外とは、ゾーイとモカだ。
ソニアが言うように、ゾーイとモカは俺達と一緒にナサニエルに行くことになった。
「おかしくないわよ。今は、一人でも多くの戦力が必要な時なの。動ける奴と役に立つ奴は、強制参加なの」
「だから! それなら、あたしと真由の二人が入ったら戦力アップじゃん!」
「違う。あのね? 今回は、頭数が多ければいいって問題じゃないの。今回は量より質なの」
「足でまといには、絶対にならないようについて行く! 約束するわよ!」
何の進展もしないゾーイの返事に、ソニアはイラついてどんどんヒートアップしていく。
けど、その一方で、淡々と言い返すゾーイは顔色一つ変えることはなく……
「わかってないわね? いい? 足でまといにならないは最低条件なの。それ以上の働きをして、戦力になってもらわなきゃ困るのよ。今、ナサニエルがどんな状態なのかわからないの。どれぐらいの敵がいるか、何もわからないのよ?」
ゾーイは容赦なく、ソニアに厳しく正しすぎる言葉を吐き捨てた。
俺達を入れた王国側の戦力は、およそ五百人といったところだ。
ナサニエルに残っている、おそらく監禁されてるだろう生徒達は約二百人。
そんなナサニエルを制圧したフウタが率いるモーリス達側が、一体どれだけの戦力を持ち、俺達がやって来るのを待ち構えているのか……
それは誰にもわからないことだから。
「戦闘だってあるかもなのよ? そうなったら、あんたら二人はどうするの? 守ってもらうじゃダメなのよ? これはゲームじゃないんだから、失敗してもリセットなんてできないのよ?」
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