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第三章-⑸ クレアとハロルド
とんちんかんなお前はいい奴
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「ていうか、笑ってる場合か!? クレアには、やらなきゃいけないことがあるでしょう?」
すると、話題の中心人物のゾーイが手をパンッと叩き、話題転換をしてきた。
「え? やらなきゃいけないこと?」
「そうよ? まあ、とにかく、その太眉くんに言うことあるでしょ?」
突然の指名をされたクレアは最初は戸惑っていたが、ゾーイがハロルドのことを指し示したことで、察したような顔をした……ゾーイ、まさか最初から?
「え? あ、いや……わ、私に!?」
「パニクるな、騒ぐな。鬱陶しいわ!」
一方で、ハロルドはまさか自分がとは思ってなかったらしく、それは大慌てだった。
まあ、すぐにゾーイから暴言からの頭を小突かれていたけど……
「まあ、あたしは、あんた達の間に何があったかなんて興味ないけど、あんた達の微妙な距離感とギスギスしまくった空気のせいで、ここ最近は生き地獄なんだとよ。ねえ、昴?」
「え、え!? 俺に聞く!?」
「当たり前でしょ? ここにいる、被害を被ってる一般ピープル代表は、あんたしかいないんだから」
そして、今度は方向転換して俺に話が回ってきて、俺は声が思わず裏返る。
一般ピープルって……まあ、ゾーイは気にしてないだろうとは薄々思っていたけど、被害ってほどでは……
「わ、わ、私は! その、特に何も気にしてはいないぞ!? 故にだ、クレアもこれまでと同じように……」
「甘やかしてんじゃないわよ」
けど、俺がどう答えようか迷っていると、その沈黙を肯定だと捉えたのか、大慌てでハロルドは気にするなとクレアのことをフォローするが……
すぐに、ゾーイの淡々とした言葉によって遮られるのだった。
「あたしね、自分が損することって死ぬほど、嫌いなのよ。けど、同じぐらいにムカつくことがあるのよね?」
ゾーイの言葉に、怯えたように、一歩下がるクレアとハロルド。
その場の空気に耐えるように、俺はゴクリと息を呑んだ。
「それは、影でバカみたいに努力してるのに、報われない奴を見ること。けど、それ以上に反吐が出そうになるのは、その報われない奴に甘えきって、その上にあぐらをかいて曖昧にすること。そんな光景を目の前にすると……まあ、面倒だし、柄じゃないけど、ぶっ壊したくなるのよね?」
ゾーイの言葉は、クレアとハロルドにそれぞれ深く、深く、刺さっただろう。
クレアには、ハロルドに甘えて自分の今の状況から逃げるなと……そして、ハロルドには、クレアを思うなら時には厳しくなれと……
きっと、ゾーイは二人にそう言ってやりたいのだ。
「こんな極限状態で、他人を思いやれるのは、ほとんど奇跡でバカだとあたしは思うのよ……ハロルドは、家族以外では結構な上位に入るぐらいクレアのことを思いやってる。それに応えないのと、切り捨てるのとでは違うと思うけど?」
毎度の如く思うけど、バカとか余計な一言いらないだろうよ。
ハロルドは、優しくていい奴だって素直に言えばいいのに……
まあ、確かにそんなことしたら、単純にバカって言われたことにショックを受けてて、まったくゾーイの言葉を汲み取れてないハロルドが、面倒になることは少し想像できるけどね?
「……アランが好きになるわけね」
「は? 何か言った?」
「大したことじゃないわよ!」
そして、クレアは少し切なそうに、吹っ切れたように小さく呟いた。
まあ、当の本人のゾーイはハロルドに気を取られて、聞いてなかったみたいだけど。
「ハロルド……この前は本当にひどいことを言って、ごめんなさい! あなたは私を心配してくれただけなのに、私は自分のことしか考えてなくて、あなたを傷付けてしまったわ……」
クレアは心から、ハロルドにしっかりと頭を下げて謝った。
「……クレア、頭を上げてくれ。君が笑っていることが、一番私は嬉しいんだ。私は君に何をされても、この先も傷付くことはないだろう。そこは揺らがない自信があるんだ! だから、本当にもう大丈夫なんだ……クレア」
そして、ハロルドは普段からは想像できないほど凛々しく、はっきりとクレアに自分の気持ちを伝えた。
ハロルド、お前はかっこいいよ?
きっと、もう二人はお互いにお互いの気持ちをわかっている。
その上で、ハロルドはクレアに告白をしなかったのだ……そのことを、きっとクレアもわかっているだろう。
ゾーイは怒るかもしれないけど、世の中には曖昧にしておいた方がいいってことも、時にはある。
今のクレアとハロルドの関係が、まさにそうだから。
「あー、これで一段落ね? クレア、今日はご飯食べなよ~? 明日に何があるかわからないんだから、体力温存しといてよ? さて、部屋で寝よ……」
「ゾーイ、待って!」
ゾーイの言う通りに物事は一旦の解決を見せ、ゾーイはクレアに要件だけを告げてさっさと帰ろうとした。
しかし、そんなゾーイの車椅子の動きを止めたのは、クレアだった。
「私、あなたに負けたくないわ!」
そして、クレアはゾーイの目をしっかりと見て宣言したのだった。
すると、話題の中心人物のゾーイが手をパンッと叩き、話題転換をしてきた。
「え? やらなきゃいけないこと?」
「そうよ? まあ、とにかく、その太眉くんに言うことあるでしょ?」
突然の指名をされたクレアは最初は戸惑っていたが、ゾーイがハロルドのことを指し示したことで、察したような顔をした……ゾーイ、まさか最初から?
「え? あ、いや……わ、私に!?」
「パニクるな、騒ぐな。鬱陶しいわ!」
一方で、ハロルドはまさか自分がとは思ってなかったらしく、それは大慌てだった。
まあ、すぐにゾーイから暴言からの頭を小突かれていたけど……
「まあ、あたしは、あんた達の間に何があったかなんて興味ないけど、あんた達の微妙な距離感とギスギスしまくった空気のせいで、ここ最近は生き地獄なんだとよ。ねえ、昴?」
「え、え!? 俺に聞く!?」
「当たり前でしょ? ここにいる、被害を被ってる一般ピープル代表は、あんたしかいないんだから」
そして、今度は方向転換して俺に話が回ってきて、俺は声が思わず裏返る。
一般ピープルって……まあ、ゾーイは気にしてないだろうとは薄々思っていたけど、被害ってほどでは……
「わ、わ、私は! その、特に何も気にしてはいないぞ!? 故にだ、クレアもこれまでと同じように……」
「甘やかしてんじゃないわよ」
けど、俺がどう答えようか迷っていると、その沈黙を肯定だと捉えたのか、大慌てでハロルドは気にするなとクレアのことをフォローするが……
すぐに、ゾーイの淡々とした言葉によって遮られるのだった。
「あたしね、自分が損することって死ぬほど、嫌いなのよ。けど、同じぐらいにムカつくことがあるのよね?」
ゾーイの言葉に、怯えたように、一歩下がるクレアとハロルド。
その場の空気に耐えるように、俺はゴクリと息を呑んだ。
「それは、影でバカみたいに努力してるのに、報われない奴を見ること。けど、それ以上に反吐が出そうになるのは、その報われない奴に甘えきって、その上にあぐらをかいて曖昧にすること。そんな光景を目の前にすると……まあ、面倒だし、柄じゃないけど、ぶっ壊したくなるのよね?」
ゾーイの言葉は、クレアとハロルドにそれぞれ深く、深く、刺さっただろう。
クレアには、ハロルドに甘えて自分の今の状況から逃げるなと……そして、ハロルドには、クレアを思うなら時には厳しくなれと……
きっと、ゾーイは二人にそう言ってやりたいのだ。
「こんな極限状態で、他人を思いやれるのは、ほとんど奇跡でバカだとあたしは思うのよ……ハロルドは、家族以外では結構な上位に入るぐらいクレアのことを思いやってる。それに応えないのと、切り捨てるのとでは違うと思うけど?」
毎度の如く思うけど、バカとか余計な一言いらないだろうよ。
ハロルドは、優しくていい奴だって素直に言えばいいのに……
まあ、確かにそんなことしたら、単純にバカって言われたことにショックを受けてて、まったくゾーイの言葉を汲み取れてないハロルドが、面倒になることは少し想像できるけどね?
「……アランが好きになるわけね」
「は? 何か言った?」
「大したことじゃないわよ!」
そして、クレアは少し切なそうに、吹っ切れたように小さく呟いた。
まあ、当の本人のゾーイはハロルドに気を取られて、聞いてなかったみたいだけど。
「ハロルド……この前は本当にひどいことを言って、ごめんなさい! あなたは私を心配してくれただけなのに、私は自分のことしか考えてなくて、あなたを傷付けてしまったわ……」
クレアは心から、ハロルドにしっかりと頭を下げて謝った。
「……クレア、頭を上げてくれ。君が笑っていることが、一番私は嬉しいんだ。私は君に何をされても、この先も傷付くことはないだろう。そこは揺らがない自信があるんだ! だから、本当にもう大丈夫なんだ……クレア」
そして、ハロルドは普段からは想像できないほど凛々しく、はっきりとクレアに自分の気持ちを伝えた。
ハロルド、お前はかっこいいよ?
きっと、もう二人はお互いにお互いの気持ちをわかっている。
その上で、ハロルドはクレアに告白をしなかったのだ……そのことを、きっとクレアもわかっているだろう。
ゾーイは怒るかもしれないけど、世の中には曖昧にしておいた方がいいってことも、時にはある。
今のクレアとハロルドの関係が、まさにそうだから。
「あー、これで一段落ね? クレア、今日はご飯食べなよ~? 明日に何があるかわからないんだから、体力温存しといてよ? さて、部屋で寝よ……」
「ゾーイ、待って!」
ゾーイの言う通りに物事は一旦の解決を見せ、ゾーイはクレアに要件だけを告げてさっさと帰ろうとした。
しかし、そんなゾーイの車椅子の動きを止めたのは、クレアだった。
「私、あなたに負けたくないわ!」
そして、クレアはゾーイの目をしっかりと見て宣言したのだった。
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