エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑴ 昴と望と真由

名物になりつつあります

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「望! 頼むから、少し話し合おう!」
「俺は話すことなんてねえ!」
「そうやって、お前が逃げるから何も変わらないんだろ!?」


 望と最後に二人で話したのは、いつのことだっただろうか。
 覚えてもいられないほど、その記憶は遠くなってしまう。
 最後に望の笑顔を……望はどんな風に笑うんだったっけな。


「勘違いするな! 俺には、お前と話をしてる時間なんてねえ!」
「ま、待てよ! 望!」


 舌打ちをしてから、そのまま俺に背を向けて立ち去ろうとする望の腕を、俺は掴んだ。


「気安く、触ってんじゃねえ!!」
「おわっ!?」


 そして、俺はまんまと振り払われてその場に倒れるのだった。


「望、もうやめて! 昴、大丈夫!?」
「真由……」


 地面に座り込んだままの俺に、真由が真っ青な顔で駆け寄って来る。
 そして、大げさなほど何度も俺の体の異常がないか確認する。


「これでまた俺は、悪者ってか?」
「望、ふざけないで! きちんと、昴に謝りなさいよ!」
「喧嘩売ってきたのは、そいつだ!」
「何で……何で、そんな風に……」
「通常運転で家族喧嘩してる真っ最中に邪魔してごめんなんだけど、正直ワンパターンで飽きてきたのよね? 他にバリエーションないの?」
「は? あ……ゾーイか」


 望と真由の言い争いがどんどんヒートアップしてきて、さすがに止めに入ろうとしてた時に聞こえたのはゾーイの声だった。
 俺達が視線を向けると、ゾーイは地面にあぐらをかいて腕を組んで俺達を見物していた。
 そこに場違いというか、まるで空気を読めてないというか、最初から空気を読む気なんてないというか……
 飽きてきたって、あぐらって……
 俺達の喧嘩のことを映画か何かかと思っているのかな……


「何で、お前にこの状況を評価されねえといけねえんだ! そもそも、これは見せ物じゃねえ! 散れ!」
「あら、それは失礼? こんな広場のど真ん中でおっ始めたから、てっきり何かのショー開幕かと思ったわ」
「何が、ショー開幕だ! まず、初めて会った時から思ってたが、お前は本当に俺のこと舐めてるよな!?」
「え? まさかだけど、尊敬されてると思ってたの? ちょっと周りより顔が整ってるからって、自惚れじゃない?」


 これまたゾーイの圧倒的優勢で、望との言い争いは続く。
 俺はゾーイに言われて、改めて周りをぐるりと見回した。
 ここは、ワンニャン王国のど真ん中で人がよく行き交う場所。
 横を通り過ぎる人々は全員、俺達のことをまたか……とでも言いたげな、ほぼ言っている目で見ている。
 ここのとこ、毎日こんなだからな……


「この……クソ女……今日こそは……!!」
「わあああああ!! 望、ここは抑えろ! ゾーイも煽らないでくれ!」
「落ち着いて!? あ、とりあえずは、この場所を変えない!?」
「場所もクソもねえ! お前らと同じ空気なんざ吸いたくねえ!」


 そう怒鳴り散らすと、この前会った猛獣みたいに望は俺達を睨み、その場を去って行った。


 ***


 俺達は、ワンニャン王国に元々あった教会で生活している。
 最初は、レオやモカが自分の家に来ればと言ってくれたのだが、さすがにこの大人数では悪いからと、俺達人間の家を作り終わるまでの間だけ、この教会で生活をすることに落ち着いたわけだ。
 礼拝堂の奥には、十分すぎる広さの寝泊まりできる部屋があるしな。
 ワンニャン王国では、リンという神様を信仰してるようだ。
 けど、おかしな話で、どんな姿なんだと聞いたら、レオやモカは姿形や何を成し遂げたのかも知らないという。
 そんな神ありか? てか、信仰ってのはどこの世界にもあるんだな。


「本当に、大丈夫……?」
「何度も言うけど、単なる擦り傷だよ」
「けど、結構強く腰とか……」
「大丈夫だってば」


 俺はそんな教会の医務室で、真由の押しの強さに負け、俺の右手を包帯でぐるぐる巻きにされている。
 こんなの作業できないだろ……
 ついでに、今さっきは無駄に上半身の身ぐるみを剥がされたばかりだ。
 

「気が済んだろ? 俺の服を返せ」
「う、うん……」


 渋々という感じで、真由は俺に服を返してそれを俺は着ていく。
 けど、そんな時に鋭くまっすぐな視線を感じて、俺は視線の主に問う。


「ゾーイ? な、何か、俺に言いたいことでもあるの?」
「ある」


 即答で答えた、俺にいまだ謎の視線を送り続けるゾーイ。
 というか、百歩譲って真由がいるのは納得できるとして、ゾーイは何でここについて来たんだ!?


「どうかした……?」
「ねえ、昴の左腕ってさ、肩よりも上に挙げられないの?」
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