エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

約千年前からの因縁でした

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「何よお澄まし顔でこっちの様子ばっかり伺って、あたし達の言葉わかってるくせにだんまり決め込んでさ。高みの見物ってやつなわけ?」


 よく通る声でそう問いかけたかと思えば、何とゾーイは縛られていた縄から脱出していた。
 そして、ゆっくりと処刑台の真ん中に出て来たのだった。
 え? 待って、まず縄をどうやって切ったんだ!?


「ちょっ、ゾーイ!? 縄が解けたの!?」
「まさか! ナイフで切ったのよ」


 あまりに突然で動揺を隠せないサトルの質問に、ゾーイは右手のナイフ見せてそう答える。


「どこにそんなもの持ってたの!?」
「ベルトに隠してたのよ。まあ、身体検査とかされなかったから、隠してる意味はあんまりなかったけどね」
「そ、そうですか……」
「何があるかわからないんだし。ナイフぐらいは持ってた方がいいよ?」


 開いた口が塞がらないとはまさにこのことで、会話してるサトルなんて最後は敬語になってるし……
 確かに、ゾーイ以外はあんまり危機感とかなかったなとは思うけど……
 まあ言われてみれば、こんな状況でゾーイが大人しくするなんておかしいって気付くべきだったのかもな……
 あれ? 待て待て、それよりだ!


「あ、それもそうだけど! ゾーイ、言葉がわかるって言ってたよな!? この犬人間と猫人間達は話せるってこと!?」


 一連の流れのショックが大きすぎて、さっきゾーイが言っていたこれまた衝撃的な言葉が埋もれてしまった。
 俺は慌てて、そのことを追求する。


「人類が空に逃げ出して約千年よ? 不可能なんてないに等しいはずよ。根拠だってある」
「根拠って?」
「表情。それに目よ」
「それってどういう……」
「シンがバカ犬とバカ猫呼ばわりした時は眉間にしわが、ジェームズが命乞いをした時は口角が上がり、そして、何より今はもう、まったく隠しきれてないあたし達人間への憎悪よ」
「憎悪って……うおっ!?」


 俺達全員ゾーイの話に夢中で、全然気付かなかったけど、見渡すと犬人間と猫人間は俺達のことを見て唸ったり、毛を逆立てたり……
 目なんて、狩りの時の獲物を見る時の目そのものだ!
 そうか、俺が違和感を覚えた視線の正体は憎悪だったんだ。


「まず、あたしが縄を抜け出して処刑台の真ん中でずっと喋ってる状況を斧を常備して睨みつけてる時点で、それらが言葉を、あたし達が何者かを理解した上で殺そうとしてるって物語ってんのよ」


 言われてみればそうだ。
 ゾーイが縄を抜け出した時、ナイフを出した時、言葉を理解していないと取り押さえようと思うタイミングは何度もあった。
 けど、当人のゾーイは危害を加えるつもりはこれっぽっちもない。
 それがわかったから、両端の処刑執行犬とでもいえばいいのか、奴らも警戒はしてるけど、こちらの様子を伺っていて襲っては来ないってことか?
 てか、ゾーイはこんな状況でも冷静に全員の表情を見てたっていうのか?
 ゾーイは怖いという感情がないのか?


「まあね、あたし達人間のことを憎む理由はわかる」
「え? ゾーイ、わかるって……」
「……地上では、犬と猫はペットとしての普及率が他の動物に比べると圧倒的に高かったの。それで、飼われるということで散々自由を奪われ、虐げられてきたとか何とか? そんな古い言い伝えが残ってるってとこ? 何か違う?」


 ゾーイは両端の処刑執行犬と、目の前の何百という犬人間と猫人間に問う。


「そして、最後まで人間は自分達のことを優先した。それが許せないとか?」


 空島移住計画が決まった時に、人類以外は地上に残すということが世界中に発表された。
 これをという。
 理由はこれからどれだけ増えるのかがわからない人口に、空島がどれぐらい耐えられるのかわからなかったからだ。
 シエロ最大重量を超えればその瞬間に空島は墜落し、貴重な多くの人命を失うことになる。
 当時は何事も人命優先、そのために当時の人類は自分達以外の生物を棄てる選択をしたのだ。


「もしくは……ずっと家族や友達だと思ってたのに、あっさり捨てられたことが許せない。つまり、自分勝手な人間が許せないとか?」


 何か、気のせいじゃないよな?
 今のゾーイの言葉で憎悪から殺気に変わった気がするんだけど……
 そんなことを考え、俺の中の恐怖心がピークを迎えていた時に事態をさらに悪化させるような声が響いた。


「けど、問答無用で縛られて、今にも処刑されそうなこの状況に、めちゃくちゃムカついてるから言わせてもらうけど、知ったことか!」
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