エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

マリーアントワネットですか

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「こんなのないわ……離してよ! まだ死にたくなんてないわ!」
「バカ犬とバカ猫! ふざけんじゃねえぞ! 全員まとめてぶっ殺してやる!」


 泣きながら橘さんが、大暴れしながらシンがそう叫んでいる。
 俺達は両手を縄で縛られて、木で作られた処刑台の上に一列で立っている。
 処刑台は、木々を故意に切り開いたであろう場所に設置されていた。
 俺達が並ぶ列の両端には、俺達の顔の三倍はあるであろう大きな斧を持った犬人間が二匹……まあ二人か。
 体毛は黒で、鼻の周りは茶色、体長は俺達と変わらないだろうが、とにかく筋肉がすごくてごつかった。
 何て犬種だったっけ……ロット? ロット何とかだった気がする。
 きっと、あの大きな斧で端から首を落とされていくのだろうと、俺はやけに冴えきった頭でそう考えていた。


「あんたら全員、絶対にいい死に方とかしないから! 死ね、死んじまえ!」
「末代まで絶対に呪うからね! 一生化けて出てやるわよ……!! うう……!!」


 デルタが普段よりドスの効いた声で怒鳴り、その隣でソニアは涙を浮かべて必死に耐えている。
 処刑台に吹いた風が、そのソニアの涙を綺麗に攫っていく。
 そこら中に自然が生い茂る森を通り抜けていく風は、とても冷たかった。


「これまでというとこですか……」
「こんなのあんまりだあああああ!! もうお願いだから、助けてくれええええええええええええ!!」
「父上! 母上! あなた方二人の息子として生まれて、このハロルド・早乙女は幸せでしたあああああ!!」
「どうして……ああ、何でなの……」


 モーリスは全てを諦めたように天を仰ぎ、ジェームズは泣きじゃくったぐちゃぐちゃの状態で命乞いをして、ハロルドは家族に涙ながらに別れを告げる。
 その隣で、クレアは静かに絶望し、座り込んで泣いていた。
 今、俺達の目の前……つまり、処刑台の前には、何百という数の犬人間と猫人間が集まっている。
 種類は様々で、昨日出会った犬人間と猫人間は鎧のようなものを着てたけど、目の前のおそらく市民であろう奴らも服を着ていた。
 全員が俺達のことを見ている。
 その視線には何かを……少なくともプラスの感情ではないことは確かだ。


「神よ……どうか、この魂をお守りくださいませ」
「大したことねえ人生だったな」


 ローレンさんは目を閉じて神に祈りを捧げているようだ。
 神なんて、本当にいるのかよ……
 その横で望が覇気のない声で、そう吐き捨てた。
 本当に同感だ、俺の人生こんなとこで終わるのか……


「昴! おーい、昴!」
「しっかりして! 聞いてんの!?」
「……サトル、真由」


 ボーッとしていると、両隣のサトルと真由が俺に小声で話しかけてきた。
 俺は、二人に交互に視線を向ける。


「湖中と一緒に、協力してくれ!」
「え、何する気だよ?」
「やっぱり、聞いてなかったのね? 昴のこと挟んで雨野と話してたのに」
「わ、悪かった……」


 どうやら俺は思いの外、自分の世界に入ってしまっていたようだ。


「この縄、少し力入れて頑張ったら切れそうなんだよ! 切れたら、僕が囮になって奴らの気を逸らす! その隙に、全員で逃げるんだ!」
「落ち合うのは、自動車の場所よ!」
「は!? 待ってくれ! 無謀だし、全員の命の保証がないだろ!」


 小声で奴らに気付かれないように話をしながらも、さすがに無茶な作戦に俺は口調が荒くなる。


「今はこれしかないんだよ!」
「昴……私、まだ死にたくないわ……すごく怖いもの! 何もせずに、大人しく処刑されるなんて、絶対にいや……!!」
「サトル、真由……わかった、やろう」


 二人のことを強いなと、羨ましいなと素直に俺はそう思った。
 このままなんて、確かにそんなこと許されないし、死にきれないよな。
 作戦通りに、俺が両端に立つ犬人間に話しかけようとした時だ。


「おい、待て! 何する気だ!」


 とても珍しいアランの、慌てた声が聞こえたと思った瞬間……


「ワンとか、ニャーとか、この場で全員鳴いてみろ!」


 君は突然、森全体に響き渡ったかと思うほどの大声を響かせた。
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