エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
上 下
36 / 257
第二章 未知の世界への移住

あだ名は原型が大事説

しおりを挟む
「は? あんたはジェームズでしょ?」
「あー、そうなんだけど……僕の本名はスタニック・オリヴィエなんだよね」
「すたに……何だって?」


 まさかのここにきて、ジェームズの名前はジェームズじゃないと言い出した。
 というか、待てよ? オリヴィエってどっかで聞いたような……?


「じゃあ、ジェームズって何なの? ミドルネームとか?」
「いや、それも違くて……」
「デルタが付けたあだ名なんだよ」


 ゾーイの質問に答えたのはジェームズ本人ではなく、シンだった。


「デルタが?」
「そうよ。だって、スタニックなんて名前じゃ、呼びにくいんだもの」
「えへへ……」


 デルタが悪びれもなく答えるその隣では、ジェームズがだらしない顔でデレデレと鼻の下を伸ばしている。
 ジェームズ……いや、スタニック? 本当にそれでいいの?


「呆れた。まあ、呼びにくいってのには激しく同意だけど。それならいっそのこと、Jとかの呼び方にしたら?」
「そ、そんな……!? 誰のことだか、余計にわからなくなるよ!」
「元々、ジェームズってあだ名の時点で影も形もないじゃないの」


 ゾーイが、これまた身も蓋もないことを言い出した。
 さすがにアルファベット一文字はね?
 というか、そんなことよりやっぱりオリヴィエって……


「オリヴィエって、空島全体で五本の指に入るって言われてる、あのオリヴィエ財閥!?」
「え? うん、そうだよ?」


 橘さんの言葉で、ようやく俺は自分の中のモヤモヤを晴らすことができた。
 というか、全員がジェームズ……スタニックを見て目を見開いている。
 オリヴィエ財閥は、地上時代から続く貴族の生き残りの由緒正しいお家柄で、空島全体やナサニエルにも莫大な寄付金を出していると聞く。


「ようやく、これでスッキリしたわ!」
「あ、そうなの?」


 さすがのゾーイもオリヴィエ財閥のことは知っているらしく、隣でジェームズはどこか誇らしそうにしていた。


「つまり、親のコネでエリート集団の仲間入りを果たしたってわけね?」


 言葉も出ないとは、悪い意味ではこの状況のことを言うんだろうな……
 ゾーイの辞書には、気を遣うやオブラートという単語は存在しないようだ。


「ゾーイ!?!? そんな……あの……何を、何てことを、え?」
「ジェームズ? いや、スタニック? どっちでもいいな!? とにかく、今のは聞き間違いだ!」


 クレアは言葉になってないし、常に冷静なサトルでさえパニックだ。
 あとは俺も含めて苦笑いしたり、その場から顔を逸らすのが精一杯だった。


「あ、うん。そこまではっきり言われると否定する気も起きないや……僕って、昔から名前負けしてるんだよね……」


 当の本人のジェームズは怒る気もなくしたというような、どこか諦めたように曖昧に笑う。
 少し胸の奥が切なくなったのは、気のせいなんかじゃないだろう。
 大財閥の御曹司なんて、俺達が想像できないような苦労が、数えきれないほどあるんだろうな……


「否定しなくていいでしょ? あんたの一部なんだから」
「え?」
「運も実力のうちよ。まあ、入り口がコネだとしても退学者も多いナサニエルで生き残ってんじゃん。それもジェームズの実力でしょ? 名前負け? それを言った奴はどんだけ名前に勝ってんのか、説明してもらった?」
「そ、それは……」
「まず第一によ? 自分で負けてるって思い込んでるから、どんどん自信をなくしていくのよ? 堂々と自分はあの大財閥の人間だって胸張っとけっての! 自動車の運転なんて、あんたには簡単なことのはずよ?」


 冗談交じりにいつもの調子で、ゾーイはそう言った。
 さっきまでは、今すぐ泣きたいのに泣けないというような顔をしていたジェームズだったけど、今は少し泣いている。
 そして、それは悲しいから泣いているわけなんかではない。
 本当にゾーイって、その場の空気を支配できる能力を持っている気がする。


「ゾーイ……!! じゃあ、ゾーイは僕の運転する自動車に乗ってくれるんだね!?」
「は? そんなこと言ってないけど? 普通に嫌だから。あたし、無駄死にしたくないもん」
「話の流れは!? あれ!?」


 ほら、やっぱり、ゾーイはその場の空気を支配するのが上手いよ。
 一瞬でいい言葉が台無しだよ……
 最終的に、俺、サトル、望、ゾーイがハロルドの運転で赤の自動車に、真由、橘さん、ローレンさんがクレアの運転で黄色の自動車に、チーム・ロジャーとジェームズがモーリスの運転で黒の自動車に乗って、目的地の森に向かうことになった。


「出発進行! 一気に飛ばしてけー!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

魔法道具発明家ジュナチ・サイダルカ

楓花
ファンタジー
【世界最強の魔女✕ネガティブ発明家✕冒険】 自然を操る魔法がある世界に、魔法が使えない人種「ナシノビト」がいた。 非力なナシノビトは「サイダルカ」という一族が発明した「魔法道具」のおかげで、魔法に似た力を使える。 その一族の末裔の少女・ジュナチは、この物語の主人公である。 才能がない彼女は、魔法道具を作ることを諦めていた。 発明をやめ、伝説の魔女を助けることだけを夢見ていた。 その魔女の名前は「ゴールドリップ」。 輝く唇を持つといわれている。 様々な事情で命を狙われていると噂があり、ジュナチは彼女を探していた。 ある日、ジュナチは見知らぬ少年・ルチアーナと出会う。 その少年の唇は、金色だった―――。 表紙と毎話の挿絵:ぽなQ(@Monya_PonaQ) ※この小説は毎月第1金曜日に更新予定です。

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

ギャングシティ オンザドラム

織部
SF
ディストピア探偵物語  未来のディストピア、監視社会の中で生きる私立探偵――彼の名はアシュ。裏社会と秘密裡に繋がった彼は、過去の「知り合い」である判事マクマホンから突如として依頼を受ける。  事件は、政治的な背景を持つ誘拐事件。富豪の娘がギャングに攫われ、そこには誰もが触れたがらない闇が広がっていた。  監視システムが隅々まで行き届いたこの世界で、主人公は危険を冒し、真実を暴こうとする。  しかし、彼の前には常に支配層の目があり、どこまでが信頼できるのか、誰が味方なのか、すら分からない。  ピザを頬張りながら契約を交わし、次の手を考えるも、行動を起こす前に周囲の動きに警戒を強める。

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...