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第三章 戦争なんて真っ平御免だ
必ず幸せにしてみせる
しおりを挟む「……これ、食べてもいいですか?」
「え、あの……‼︎」
二人からの話が一通り終わると、あたしは二人がさっきまで調理していた野菜スープであろうものに手を伸ばして戸惑っているグレース様を他所に、そのスープを口に含む……ああ、思った通りだ。
「失礼なのは重々承知の上なのですが……お二人は、ここに来てからまともな料理を食べていないですよね?」
体裁だけの正直すぎて普通なら打ち首ものだよなと心の中で自虐しながら、あたしは二人に告げる。
「王子と姫であるお二人が料理をしたことないのは当然です。料理は日々の積み重ねであり、ある日突然身に付くものではないですから」
「……まずいと言いたいのか?」
遠回しに見えて直球、言葉の意味を理解したであろう二人はそれぞれの反応……グレース様は恥ずかしさと情けなさから顔を逸らしただけだが、それに反してパトリック様もあたしに対抗するように直球で、何ならその顔は眉間にしわを寄せて、怒っているようだった。
確かに、口に含んだスープは薄い塩味がするだけで、お世辞にも美味しいとは言えないもの、実際にあたしの示す言葉の意味もそれで当たってはいるが……あたしが本当に伝えたいことはそうじゃないから、あたしは首を横に振って言葉を続けた。
「このままでは、お二人はいつか倒れてしまいます」
それが本当に伝えたかったこと……すると、二人は驚いたように目を見開いた、気付かないよね? こんなところに囚われて、じっと耐えて、生きるのに必死なってたら忘れちゃうよね?
「結果から言っちゃいますけど、あたしがこの魔王城を出るのはお二人がここを出る時と、自分が死んだ時の二択だけです。あたしはお二人のお世話をするため、そしてお守りするためにここに来ました。そもそも、こんな塩だけで茹でた味もそっけもないスープばかりを食べている上に、こんな劣悪な環境下で暮らしているなんて知ってしまったら、放ってなんておけませんよ?」
二人の顔を見て初めて思ったことは、見たこともないほど美しいけど今にも消えてしまいそうなほど儚いなと思った。
その理由はきっと、ここの環境すべてだ……栄養も何もない空腹を満たすだけの食事と、あまりに広すぎて手入れが行き届かない淀んだ室内と、極限状態での過度なストレス。
慣れるまでどれだけかかっただろう、ここに来てから何度涙を流したのだろう、こんなとこにたった二人でどれだけ孤独だっただろう……想像しただけで壮絶で、あたしは胸が締め付けられた。
この人達には絶対に太陽が似合う、絶対に呪いを解いて生きて外の世界に返す……もう決めたの、そんなあたしの言葉に二人はとても驚いていたようだ。
「グレース様が抱える重荷、すべてをなんておこがましいですけど……半分だけでもあたしに背負わせてくれませんか?」
ある日突然、この世界の支配者から花嫁になることを強要された悲劇のお姫様……自分の未来と人類の未来を無理矢理に天秤にかけられ、そこで自分の方が大事だと人類を裏切れる人間が何人いるか。
グレース様は女の子ならほとんどが一度は憧れるだあろう花嫁への道を通るのに、地獄への門をくぐらなければならなかった……あの、クソボケで自分勝手な大魔王のせいで。
どんなに辛く苦しい日々だっただろうか……きっと、グレース様はあたしが出会ってきた人間の中で、一番花嫁衣装が似合うだろう、きっと世界一綺麗な花嫁になる。
そんなグレース様が心の底から笑えて、一生幸せにしてくれる相手は天と地がひっくり返ろうともあのクソボケ大魔王じゃないことだけは確かだ。
この世の誰が許そうと、あたしは何かの間違いがあってグレース様があの顔だけはいい最低なクソボケ大魔王に恋に落ちない限りは、絶対に結婚なんてさせてやるかと、絶対に許さないと誓った。
そんな意味も込めてあたしはグレース様の手を両手で包み込みながら、まっすぐに伝えたのだけど……
「あれ、グレース様?」
「ごめんなさ……‼︎ そっ、そんな、嬉しいこと……家族以外に言われたこと、なくて……‼︎」
異変に気付いた時には時すでに遅し……どうやら、あたしは朝一番でグレース様を泣かせてしまったようだ。
まあ、その涙が嬉しさからくるものだってことはわかったから罪悪感とかはないんだけど、こんな綺麗な子に泣かれるのは心臓に悪すぎるよ……
「妹を朝から泣かしてくれるな、ノラ?」
そんなあたしとグレース様の様子を完全に蚊帳の外から見ていたパトリック様から、ついに声がかかった……おっと、申し訳ないけど、少し存在忘れかけてた。
慌てて振り返ると、今のしょうがないなと呆れる口調とは裏腹に顔はとても穏やかなもので、あたしは少し安心する。
「申し訳ありません、パトリック様。昨日に引き続き今日までも、ご迷惑おかけします」
「は? 昨日?」
「あたしを庇って、危うく大火傷のところだったじゃないですか?」
「ああ……今となってはとんだ間抜けだったな」
あたしの言葉に苦笑いを零すパトリック様、間抜けだなんて……結果的にあたしに助けはいらなかったし、自分は危うく死にかけたとんだピエロだとでも言いたいのだろうけど、それは違う。
タービュランスの本当の怖さを何も知らなかったあたしと違って、パトリック様は知っていたどころか、実際にその洗礼を受けていたにも関わらず、見ず知らずの出会ったばかりのあたしを助けようと前に出てくれた。
自分より強いと、敵わないとわかっている相手に立ち向かうことが……誰もが諦めて、泣く泣く差し出した妹を守るために単身で敵の手中に乗り込むことが、どんなに勇気がいることか。
こういう人こそが、国の頂点に立つべき存在なんだ……本当に、パトリック様には心の底から頭が下がる。
「まさか! すごく嬉しかったですよ? 本物の王子様みたいでしたよ?」
「一応、本物なんだがな?」
「そういえば、そうでしたね?」
お願いだから、そんな顔をしないで? そんな思いを込めて、少し王子様相手にアウトかなと思いながら冗談交じりで放った言葉は、どうやら驚きながらもパトリック様に届いたようで……あたしと一緒に笑ってくれた。
「とりあえず、ここの来て一日目。あたしのやることが決まりました!」
「え、あの……‼︎」
二人からの話が一通り終わると、あたしは二人がさっきまで調理していた野菜スープであろうものに手を伸ばして戸惑っているグレース様を他所に、そのスープを口に含む……ああ、思った通りだ。
「失礼なのは重々承知の上なのですが……お二人は、ここに来てからまともな料理を食べていないですよね?」
体裁だけの正直すぎて普通なら打ち首ものだよなと心の中で自虐しながら、あたしは二人に告げる。
「王子と姫であるお二人が料理をしたことないのは当然です。料理は日々の積み重ねであり、ある日突然身に付くものではないですから」
「……まずいと言いたいのか?」
遠回しに見えて直球、言葉の意味を理解したであろう二人はそれぞれの反応……グレース様は恥ずかしさと情けなさから顔を逸らしただけだが、それに反してパトリック様もあたしに対抗するように直球で、何ならその顔は眉間にしわを寄せて、怒っているようだった。
確かに、口に含んだスープは薄い塩味がするだけで、お世辞にも美味しいとは言えないもの、実際にあたしの示す言葉の意味もそれで当たってはいるが……あたしが本当に伝えたいことはそうじゃないから、あたしは首を横に振って言葉を続けた。
「このままでは、お二人はいつか倒れてしまいます」
それが本当に伝えたかったこと……すると、二人は驚いたように目を見開いた、気付かないよね? こんなところに囚われて、じっと耐えて、生きるのに必死なってたら忘れちゃうよね?
「結果から言っちゃいますけど、あたしがこの魔王城を出るのはお二人がここを出る時と、自分が死んだ時の二択だけです。あたしはお二人のお世話をするため、そしてお守りするためにここに来ました。そもそも、こんな塩だけで茹でた味もそっけもないスープばかりを食べている上に、こんな劣悪な環境下で暮らしているなんて知ってしまったら、放ってなんておけませんよ?」
二人の顔を見て初めて思ったことは、見たこともないほど美しいけど今にも消えてしまいそうなほど儚いなと思った。
その理由はきっと、ここの環境すべてだ……栄養も何もない空腹を満たすだけの食事と、あまりに広すぎて手入れが行き届かない淀んだ室内と、極限状態での過度なストレス。
慣れるまでどれだけかかっただろう、ここに来てから何度涙を流したのだろう、こんなとこにたった二人でどれだけ孤独だっただろう……想像しただけで壮絶で、あたしは胸が締め付けられた。
この人達には絶対に太陽が似合う、絶対に呪いを解いて生きて外の世界に返す……もう決めたの、そんなあたしの言葉に二人はとても驚いていたようだ。
「グレース様が抱える重荷、すべてをなんておこがましいですけど……半分だけでもあたしに背負わせてくれませんか?」
ある日突然、この世界の支配者から花嫁になることを強要された悲劇のお姫様……自分の未来と人類の未来を無理矢理に天秤にかけられ、そこで自分の方が大事だと人類を裏切れる人間が何人いるか。
グレース様は女の子ならほとんどが一度は憧れるだあろう花嫁への道を通るのに、地獄への門をくぐらなければならなかった……あの、クソボケで自分勝手な大魔王のせいで。
どんなに辛く苦しい日々だっただろうか……きっと、グレース様はあたしが出会ってきた人間の中で、一番花嫁衣装が似合うだろう、きっと世界一綺麗な花嫁になる。
そんなグレース様が心の底から笑えて、一生幸せにしてくれる相手は天と地がひっくり返ろうともあのクソボケ大魔王じゃないことだけは確かだ。
この世の誰が許そうと、あたしは何かの間違いがあってグレース様があの顔だけはいい最低なクソボケ大魔王に恋に落ちない限りは、絶対に結婚なんてさせてやるかと、絶対に許さないと誓った。
そんな意味も込めてあたしはグレース様の手を両手で包み込みながら、まっすぐに伝えたのだけど……
「あれ、グレース様?」
「ごめんなさ……‼︎ そっ、そんな、嬉しいこと……家族以外に言われたこと、なくて……‼︎」
異変に気付いた時には時すでに遅し……どうやら、あたしは朝一番でグレース様を泣かせてしまったようだ。
まあ、その涙が嬉しさからくるものだってことはわかったから罪悪感とかはないんだけど、こんな綺麗な子に泣かれるのは心臓に悪すぎるよ……
「妹を朝から泣かしてくれるな、ノラ?」
そんなあたしとグレース様の様子を完全に蚊帳の外から見ていたパトリック様から、ついに声がかかった……おっと、申し訳ないけど、少し存在忘れかけてた。
慌てて振り返ると、今のしょうがないなと呆れる口調とは裏腹に顔はとても穏やかなもので、あたしは少し安心する。
「申し訳ありません、パトリック様。昨日に引き続き今日までも、ご迷惑おかけします」
「は? 昨日?」
「あたしを庇って、危うく大火傷のところだったじゃないですか?」
「ああ……今となってはとんだ間抜けだったな」
あたしの言葉に苦笑いを零すパトリック様、間抜けだなんて……結果的にあたしに助けはいらなかったし、自分は危うく死にかけたとんだピエロだとでも言いたいのだろうけど、それは違う。
タービュランスの本当の怖さを何も知らなかったあたしと違って、パトリック様は知っていたどころか、実際にその洗礼を受けていたにも関わらず、見ず知らずの出会ったばかりのあたしを助けようと前に出てくれた。
自分より強いと、敵わないとわかっている相手に立ち向かうことが……誰もが諦めて、泣く泣く差し出した妹を守るために単身で敵の手中に乗り込むことが、どんなに勇気がいることか。
こういう人こそが、国の頂点に立つべき存在なんだ……本当に、パトリック様には心の底から頭が下がる。
「まさか! すごく嬉しかったですよ? 本物の王子様みたいでしたよ?」
「一応、本物なんだがな?」
「そういえば、そうでしたね?」
お願いだから、そんな顔をしないで? そんな思いを込めて、少し王子様相手にアウトかなと思いながら冗談交じりで放った言葉は、どうやら驚きながらもパトリック様に届いたようで……あたしと一緒に笑ってくれた。
「とりあえず、ここの来て一日目。あたしのやることが決まりました!」
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