自分は魔法が効かないと発覚したので、世界を支配しているラスボス大魔王を殴りに行きます。

行倉宙華

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第三章 戦争なんて真っ平御免だ

揃いも揃って初心者ときた

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「アニキ、この世界の生物って……とことん住む世界が違うよね」
「大丈夫か、ノラ⁉︎ 何か、一段と痩せたんじゃないのか⁉︎ ただでさえ細いのに……食事取れてないのか⁉︎」
「あー、そこは心配しないで。むしろ、そっちにいた時よりも食べられてて絶賛で罪悪感と幸福感でどうにかなりそうだから……」
「そうか? じゃあ、何かあったのか?」


 この魔王城に来てあっという間に半月が過ぎようとしていた……あたしとアニキはできる時は毎晩、こうして水晶玉を通して現状報告をし合うのが日課となっていた。
 この魔王城に来てよかったのは個室が与えられたことかな? まあ、部屋が余ってたんだろうけど、誰にも気を遣うことなく話ができるのは正直有難かった。
 あと最近は三回に一回はシナコちゃんとリクくんも一緒である、アニキ曰くあたしがクソボケ大魔王にブチ切れたのを見たショックで、シナコちゃんは三日間寝込んで、リクくんはアニキに縋り付いて号泣したのだとか。
 それを聞いた時は何とも言えない気持ちになった……そうなるから、あたしは前から天使なんかじゃないよと言っていたのよね。
 とにかくこうして話すのはアニキが遠征に行っていたから実に五日振りで、その五日の間に溜まったストレスのせいで、どうやらアニキが見てわかるほどあたしはやつれていたようだ。


「へー、大掃除をね? しかも、あのグスタフ、ウキョウ、ブロワーズも手伝っているのか」
「サボったら、問答無用で食事抜きだからね?」
「それは……辛いな? けど、想像でしかないけど、あの魔王城を掃除って果てしないんじゃないか?」
「そうなの! バカみたいにいちいち薄気味悪いけど、中身はれっきとしたお城なのよ! 終わらせるために余計なことなんてしていられないのに、どいつもこいつも……‼︎」


 あれから結局はクソボケ大魔王を抜いた全員で魔王城の大掃除をすることになった……本当はあたしと三バカの四人でやろうとしていたのだが、あまりの広さに絶望していたところにパトリック様とグレース様が手伝うと言ってくれたのだ。
 最初は、王族に掃除の手伝いはなしだよなと思っていたが、背に腹は替えられず天の助けのような有難いお言葉に甘えることにした……その大掃除が現在進行形で続いていることをアニキに話していたのだが、どうも五日間も話していなかったからか、予想以上にあたしのストレスは限界突破寸前だったようで。
 まず、あたし以外の誰もまともに掃除をやったことがないとのこと……パトリック様とグレース様はまだその理由はわかるが、どうして三バカまでと、モンスターは掃除をしないのかと問えば帰ってきた答えは俺達はそれぞれの種族のリーダーだから掃除なんてしないとのこと。
 こんな単純バカで大食らいな豚のグスタフ、イタすぎる中二病崩れの鬼のウキョウ、自信過剰のナルシストなトカゲのブロワーズなんて、そんな奇跡のアホどもが種族のリーダーとか世も末だと思ったね? 
 ああ、リーダーだから魔王城に住んでるのかとか思ったけど、とにかくその時からそいつらの呼び名は三バカ大将に進化したわけだ。
 そんな掃除初心者達を従えた大掃除がスムーズに進むわけもなく……雑巾の絞り方から、モップのかけ方まで手取り足取り教えたわけだ。
 最初の頃なんかは思い出したくもないほど、掃除をしてるのにどんどん荒れていくなんて怪奇現象に悩まされ何度くじけそうになったか……おかげで、全員が皮肉にも嫌でも気を遣わない関係になったけど、何か? 共通の目的に向かえばすべての争いはなくなるってか?


「本当にやっとだよ……ようやくだよ⁉︎ ここに来て十日とか余裕で過ぎてるのに今日までほとんど掃除しかしてないのよ⁉︎ しかも、それが明日終わるって意味わからないでしょ⁉︎」
「うんうん、よくやった。お前は本当によく頑張ったよ? それで、その長すぎた大掃除を締めくくる場所ってのはどこなんだ?」
「クソボケ大魔王の部屋よ?」


 自分も遠征で疲れているだろうに申し訳なかったけど、あたしのことを穏やかに慰めながらしっかり褒めてくれるアニキには今は本当に感謝の気持ちでいっぱいだった。
 しかし、あんなに一所懸命に相槌を打ってくれていたアニキだったが、あたしのその言葉にピタリと静寂が流れ始める……まあ、そうよね? アニキの言いたいことはよくわかる。


「ノラ……もうこの際、お前のタービュランスの呼び方はスルーするけど、それ掃除以前に中に入れるのか?」
「三バカ大将曰く、リアルに開かずの間なんだってさ」
「まあ、そうだろうな……あのタービュランスが他人を、よりによってノラのことを自分のテリトリーに入れるとは想像もできないよ。あと、三バカ大将ってのはグスタフとウキョウとブロワーズだな、そうなんだな?」
「あたしもね、あのクソボケ大魔王が一筋縄でいくとは思ってないよ?」
「え……⁉︎ じゃあ、諦めるのか?」


 さてと、アニキがわかってくれているからあいつらの呼び方に関してはスルーしたけど、その諦めるの言葉はスルーするわけにはいかんね?
 どうせやるなら魔王城全部を掃除したいと言った時、揃って言われた言葉はそれは無理の一言……三バカ大将曰く、クソボケ大魔王の部屋は常に鍵が閉められていて中に足を踏み入れた者はいないという。


「……アニキ? 何年、あたしのアニキやってるの? あたしが一度始めたことを途中で投げ出したがことありました?」
「それは、良くも悪くもないけど……」
「まあ、考えはあるから、明日の夜の報告を待っててよ!」


 しかし、あたしは勉強もスポーツも、アニキへのストーカー対策も、本当にどうしようもない事情でもない限りは絶対に諦めたくない性分だ。
 それをアニキもわかっているのだろう、何かを思い出したのか、あたしの満面の笑みになのか、とても苦い顔をしていた。


 ***


「おはよー! つーか、一つ屋根の下に暮らしてるはずなのに久しぶりって何事ですか?」
「……何の真似だ」


 結論から言うと、あたしはクソボケ大魔王の部屋への侵入にあっさりと成功したのだった……当たり前にドアには鍵がかけられており、侵入は困難。
 けど、一体誰が鍵がかかったドアから入ってはいけないなんて言ったのだろうか? そう、別にあたしは部屋に入れれば何でもよかった、このクソボケ大魔王の部屋のドアが壊れようが爆発しようが、そんなのは知ったことではないのだ。
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