自分は魔法が効かないと発覚したので、世界を支配しているラスボス大魔王を殴りに行きます。

行倉宙華

文字の大きさ
上 下
19 / 20
第三章 戦争なんて真っ平御免だ

どうやら怒らせたようだ

しおりを挟む
「何度言えば通じるわけ⁉︎ 戦争なんてくだらないからやめて!」
「お前は本当に……本当にしつこいな⁉︎ それじゃあ、何か? お前は、この俺様に無駄な抵抗はせず大人しく死ねというのか⁉︎ ああ、お前は元々俺様に死んでほしいんだったか?」
「今は嫌味を言い争ってる暇はないの! そもそも、何が無駄な抵抗よ? こんなことは言いたくないけど、奇跡でも起きない限りは絶対にあんたが勝つじゃないの! しかも、多大な犠牲を残して……‼︎」
「ほう……? 今日はやけに物分りがいいな?」
「結果が出てるでしょ⁉︎ あんたに人類が立ち向かう度にそのことを思い知らされては、あたしはあんたの息の根を止めてやりたくてしょうがなかったわ! 今だってね? パトリック様とグレース様にかけられた呪いのことがなかったら、とっくにその首へし折ってる頃よ!」
「お前はとことん恐ろしい女だな……とにかく、何度話しても結果は同じだ。俺様はその国を完膚なきまでに叩きのめして、新たな支配下に加える」


 このやり取りをするのは、これで何度目になるのだろうか……今日も飽きずに、あたしとクソボケ大魔王は同じことで言い争っていた。
 その内容は、戦争をやめろーー何て物騒な内容なのか、笑っている暇も余裕もないほど、最近のあたしの神経はすり減っていた。
 近々人類側とモンスター達の間で大規模な戦争が起こると、若干やつれた顔のアニキに告げられたのは何日前のことだっただろうか?
 その時のあたしの気持ちは絶望、敗北感、焦燥、恐怖……他にもたくさんの感情が一気にあたしの中へと侵食してきたが、それでも一番はこのクソボケ大魔王への怒りが大きかった。
 アニキから聞かされた話では、ある一つの国がモンスター達への反旗を翻して立ち上がり、クソボケ大魔王を滅ぼすためこの魔王城への行進を続けており、もう間もなく到着し何度目かの人類対モンスターの全面戦争に突入するだろうとのことだった。
 話を聞かされてすぐにあたしはクソボケ大魔王に詰め寄ったのだが、その時のこいつは顔色一つ変えることなく、ああそうだなと吐き捨てた……知っていたのだ、こいつは知っていたのにあたしに黙っていたのだ。
 今だって、何も映そうとしないその紅色の瞳であたしのことを冷たく見下すばかり……どうしたら、そんなに冷たい目ができるのだろうか。


「ねえ、教えてよ? 戦争を続けることに何の意味があるの? あたし達人類をこれ以上苦しめてあんたに何が残るのよ? 次から次へと人を殺すよりよっぽどタチが悪くて残酷だわ! もう十分でしょう⁉︎」


 殺すより残酷なことなんてほとんどないだろうと思っていたが、あたしのその考えはこのクソボケ大魔王に出会ったことで悪い方向に変わった。
 あるのだ、殺すよりも残酷なことなんてこの世に吐いて捨てるほどある……その苦しみをこのクソボケ大魔王は、徹底的にあたし達人類に強いる。
 このクソボケ大魔王はまず初めに自分の配下に収めた国に払い切れるわけないだろう量の税収を突き付け、それが払えないとなると、まるで人類をモンスター達の奴隷のように扱って、生きるために必要なものを根こそぎ奪ったり、死なない程度の重傷を負わせたりと、殺すよりも残酷な方法で人類を苦しめていた。


「……意味を話したところで、何になる?」
「知る権利ぐらいあるじゃないの! あたし達はあんたの被害者なのよ⁉︎」


 ついに面倒だとばかりにあたしの前から去ろうとするその背中を、あたしは許さなかった……どうして、あたし達がこんな運命を強いられなきゃならないのか。
 こいつの行為はその一つ一つが、本当に正気の沙汰ではないもの……
 どうして、ここまでこのクソボケ大魔王があたし達人類を執拗に苦しめるのか理解ができなくて、さらには戦争が起こるかもしれないと聞いて以来、ショックのあまり体調を崩してしまったグレース様をパトリック様が付きっきりで看病しているのにあまり経過がよろしくないこととか、三バカ大将があたし達と顔を合わせることが気まずくて魔王城を留守がちにすることにイライラしていることとか、もう戦争までの時間がないことからも焦っていて、ついついそれまでよりも感情的な言い方になってしまったのだが……


「被害者な……どこまでも都合よく意味を変える言葉だよな、本当に反吐が出る」
「はあ?」


 あたしの声に足を止めたクソボケ大魔王の吐き出した声がそれまでの声色とは明らかに違うもので、あたしの心臓はらしくもなくドクンッ……と、嫌な鼓動を響かせた。


「そもそも、お前は一つ大きな勘違いをしていないか? ここに来てからの何もない日々に騙されて、まんまと忘れて、今回のことで勝手に裏切られたみたいな気分になっているんだろうがな? お前と俺様はーー敵なんだぞ? それ以上でもそれ以下の関係でもないはずだ」


 振り返ったクソボケ大魔王は、出会った頃よりも数倍冷たくて、思わず逃げ出したくなってしまうほどの圧倒的なオーラを放つ。
 その雰囲気も相まって、その言葉の一つ一つがあたしの心にナイフを突き立てていくような感覚だった。


「知ってるわよ、そんな……‼︎」
「嘘をつくな。お前は、期待していたはずだ。思えば大掃除の時、俺様にサンドイッチを作ってきた時からだ。お前はあの時に、俺様のことを普通だと思って安心したんだろ?」


 何とか言葉を絞り出し、負けないように、気圧されないように平然を保とうとしたけど……それは何もかもを見透かしたようなクソボケ大魔王の前では無意味に等しい悪足掻きでしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...